#24 爽やかなオッサン
やっぱり間違っていなかった。友達なら、異性の部屋に行くのも抵抗はないのだ。それは、お互いに友達だと思っていられるならば、の話だった。そうじゃなければ、いきなり無理だ、と思ってスニーカーも履き間違えて外に出てきちゃったりなんかしない。夏の暑さの過酷な昼下がりが、私を嘲笑っていた。ぶかぶかのアディダスのスニーカーが、私のニューバランスとあまりにもちぐはぐで、思わず足元を見て笑いが声に出た。
南くんは、おかしい。きっとセンチメンタルな気持ちになって、気持ちが弱っていたからあんなことを言っちゃったんだ。後で冷静になって、前みたいに間違えたって言ってくれる。
きっとそんなのあり得ないのに、どうしてかそれを望んでいる自分がいた。
どうしたらいいかわからず、途方に暮れてしまった。他人の、しかも異性の履けたものじゃないサイズ違いのスニーカーを片方ずつ持っていて、お互いに困らないはずがなかった。このまま帰っても、どうしようもない。なんとなく、アパートの車止めに腰掛けた。太陽に焼かれていたそれは、焼きたてのクッキーみたいに熱い。私のお尻が焼けて、香ばしいにおいさえしないかと不安になるくらいだ。
南くんは、出てきてくれない。手元を見た。左手には、指輪を通したネックレスのチェーンがぶら下がっていた。パーカーのポケットには、ちゃんとスマホが入っている。
電話、しようか。そう思い立って電源を入れた途端、スマホがぶるぶると震え始めた。表示を見なくたって嫌な予感がした。けれど、私は変な気持ちだったから、思わず通話ボタンを押してしまった。
『もしもしけいちゃん!』
「…………」
『僕心配すぎて、晴貴くんにけいちゃんの部屋教えちゃった。勝手にゴメンね! 明日から泊まるから、ヨロシク!』
「……は?」
早川 修は声ばっかりは良い。声ばっかりというのは嘘だ。ヤツは美形で、イケメンボイスで、アラフィフなんて嘘でしょと叫びたくなるくらい爽やかなオッサンなのだ。中身はただの気持ち悪い親バカなのだが。
『あっホントにけいちゃんだ! 良かっ――』
終話ボタンを押した。意味がわからない。なんなんだ。私の父親らしい人は、頭がおかしい。
だって、かつて私を振った男といつの間にか仲良くなって、何故か私と結婚させる気満々なのだ。




