#23 一人じゃないよ
「……梗介だってば」
何分間も見つめ合っていたように感じた。やっと南くんがそうやって茶化そうとしたのに、その台詞はあんまりにも掠れていて、震えていて、嬉しそうで、けれど、その意味を考える前に、触覚に訴えかけてきた。
そして、耳元で囁かれた。
ごめん、と言うのはあまりに無責任だと思った。私が父親を嫌っているのは、南くんみたいに優しい愛情から来るものではないだろうから。ただ、理解できないことがたくさんあって、それを許したら負けた気分になるから。だから、「けいちゃん」なんて他人にも呼ばれたくない。許せなくなってしまうから。
「ごめん、俺……。ホントは、誰かに聞いて欲しかったのかもな」
南くんは、淡い笑みを見せた。少し照れたようなその笑顔が、私の涙腺に働きかけてくる。でも、無責任に泣いてはいけない。同情も共感も、いくら南くんと友達だからって、できない。してはいけないのではないかと思ってしまう。
「うん」
私にできることは、一つだけならわかった。酔っ払って涙を流した南くん。それが、私のせいだったのか、もしかして思い出し泣きだったのか、今となってはわからない。けれど、言ったのだ。「一人にしないで」、と。いまだ母親と父親を繋いでいたいと望むにも関わらず、今一人ぼっちの彼が。
手を握った。自身で握り締めていた南くんの手は、血が集まって真っ赤だった。熱を持っていた。元気を出させようと笑顔を向けようとした彼の顔までもが、赤くなっていて驚いた。
「ねえ、南くん。一人じゃないよ。私が南くんを見捨てるかもってホントに思ってたら、こんなに大事なもの、預けないよ」
もう片方の手で、ネックレスを外して指輪と彼の手を一緒にして握った。両手に収まりきらない彼の大きな片手と銀の指輪。
南くんは一人ぼっちなんかじゃないじゃないか、と、頑張っている彼に対して拗ねた。南くんを好いてくれる他の人に嫉妬した。でも、違う、そうじゃない。南くんが頑張ったのは誰のためで、誰のおかげなのか、彼自身は伝えようとしてくれていたじゃないか。
「私が必要なんだもんね」
冗談めかしたつもりだった。照れくさくて、目線が逸れた。だから、ゆっくりと戻した先の南くんの表情に、どきりとした。赤い目の、赤い鼻の、赤い頬の、南くんの真剣に驚いた顔が、私だけを見ていた。
ねえ、どうして? 笑ってよ。そうだよね、一人じゃないからこれからも頑張れるなって、笑ってよ。南くんにはやらなきゃいけないことがあるんでしょう? だから、頑張っているんでしょう?




