#22 子はかすがい
「すごく、恨んでる」
言葉とは裏腹だった。南くんの涙たっぷりの瞳は、なんて愛おしそうなんだろう。彼のために、彼女のために涙を流せるということ。涙を流しながらも、そんな言葉を吐きながらも、いまだ愛さずにはいられないということ。
きっと、南くんが愛情というものを知りながら育った証拠なんだと思った。
それから、ぽつりぽつりと南くんは語り出した。
「父さんは、すごく子供みたいな人だった」
南くんの横顔に、知らないその人を重ねてみる。
「大学生の頃に出会った、年下で高校生だった母さんに惚れちゃって、でも社会的に許されるまでずっと待った。一途で、ぞっこんだった。母さんと結婚するためだけにお金を貯めて、母さんとの約束を果たすためだけに会社を作ることにまで踏み切った」
歳の割に無邪気な青年。好きな人の笑顔のために、彼女との幸せのために、非現実的なことまで信じてやり切る彼は、南くんと確かにそっくりだ。彼も一緒なんだ、父親ととても似ているんだ、となんとなく確信した。
「でも、会社を作るっていうことはそんなに簡単に後戻りできることじゃなかった。二人は結婚して、俺が生まれて、幸せなはずだったのに、上手くいかなかったんだ」
彼のはにかむ笑顔が滲んだ。目尻がぶわっと膨らんだみたいに、涙が溢れていた。
「アメリカで生活していたんだけど、俺が小さい時に母さんにガンが見つかった。母さんの親も、本人も、日本で療養することを望んだ。でも、父さんは会社を投げ出す訳にはいかなくなってた。だから、二人とも一緒にいたかったのに、離れなきゃいけなくなった」
南くんの大事な指輪。彼の父親の結婚指輪。それは今、私の胸に寄り添うように垂れ下がっている。肌着とTシャツの隙間に、隠れるように、でも確かに私には触れている。二人はきっと、そんな風とは正反対だったんだ。離れているのに、触れ合いたい。触れていないのに、心はどこかで繋がっていたい。
「でも、父さんは母さんを置いて死んじゃった。母さんはいつかまた一緒になろうと頑張って生き続けてくれたのに、父さんは――」
俯いてしまった彼は、それ以上の言葉を大粒の涙に変えた。
少しずつ、わかってきた。南くんの不思議な噂と、その中に事実もあるということ。優しい彼に心を閉ざさせた衝撃的な事件。それでも、大切にしていた一つの指輪。
彼がどんな想いで父親の指輪を預かり続けているのか。そのことを考えずにはいられなかった。いつか、また一つになるはずだった家族を繋ぐのは、南くんで、南くんの指輪だったんだ。
#13のタイトルが被っていたので変更しました。
更新も滞り気味で申し訳ありません…




