#21 南くんのねらい
「よかった。俺のねらい、当たってよかった」
そうやって、心底嬉しそうに笑うのだ。ああ、もしかしなくても、南くんはとても良い人だ。
「電話、出なくていいの?」
「……うん」
南くんの視線が痛い。バイブを鳴らして電源が落ちたスマホの画面に、しかめっ面の私が映る。乱暴にポケットにしまうと、自然とそのまま南くんに目が行く。朝シャワーを浴びたのか、ワックスもつけていないふわふわの髪はいつもよりいっそう明るく見える。そういえば、南くんと会って四ヶ月も経つけれど、キャラメル色の髪は褪せることがない。お金がないと見えるのに、美容院は定期的に行っているんだろう。
「早川さんさ」
南くんの部屋に来るのには、呆気ないほど苦労しなかった。一晩寝てみれば、南くんに対して抱いていた罪悪感ももやもやもすっきりしていて、彼からのメッセージに自然に返事できている自分がいた。
「ずっとスマホ切ってた?」
「…………」
そうだ、とも言えない。返信しなかったことを言っているのだろう。南くんの目を見られなかった。
「ごめん」
「あーいや、違うんだけど。忙しかっただろうし、全然いいんだけど」
南くんの声色は、何か変だ。頭をかいた南くんは、うーんと唸って眉を下げる。
「俺、やっぱこういうのムリだ」
私もムリだ。南くんが聞きたがっているんだとわかった。わかったけれど、あまり聞いてほしくない。忘れていたいことだからというのもあるけれど、南くんにとってきっと、私の悩みは理解できないことだから。
「聞いてもいい?」
「あんまり、聞きたくないことだと思う」
「ううん。早川さんのこと、知りたい」
はあ、と溜め息をつく。南くんは、そこが良いところでもあると思うけれど、かなり正直にズケズケと聞いてくることがある。考えがひねくれていなくて、素直で、天然だ。だから、ひねくれている私みたいな人は、申し訳なくなる。あまり褒められたものではない感情を抱いているが故に、こうして人を遠ざけていることを。
「……父親。過保護で、すごいうるさくて」
父以外の家族は私を名前で呼ばない。だから、「けいちゃん」なんて呼び名は、あの人を想起させる。それが嫌で、いつからか名前で呼ばれるのを嫌った。
「そっか。どんな人?」
「……大人として全然尊敬できない」
「ははっ」
驚くことに、南くんは笑った。笑い声を立てながら、収めようとするかのように手を口元にやり、私の目を見た。瞳がよほど楽しそうに揺れている。
「俺も、父さんのこと全然尊敬できないと思ってた。ううん、今も思ってる」
南くんは嬉しそうだった。それが何故なのかわからなくもないけれど、びっくりした。彼はきっと、父親の話をできることが嬉しいんだ。私は自分の父親のことなんてできることなら触れていたくないけれど、南くんがこんなに喜ぶなら、隠すことでもなかったのかもしれないと思う。




