#17 事件
「会いたかった」
自然と、南くんではない誰かの声の方が脳に直接届いた。まずい。全身で警報ベルがガンガン鳴っている。
なんと返したらいいかわからず、南くんの誘いは既読スルーしてしまった。彼から催促は来ないまま、しばらく経ってしまった。バイトに行くだけなのに、深夜にわざわざ南くんのコンビニに行くこともない。生活はバイト中心で、完全に昼夜逆転しているわけでもなく、帰ってすぐ寝て、夕方に起きてバイトに行く毎日だった。
私の奢りで飲みに行ったのが、日本に帰って来て初めてだったかのような口ぶりだった。南くんは私のバイト先の居酒屋で少し新鮮そうにメニューを見ていたし、多分、実際にそうだったんだろう。でも、誘われた飲み会に自ら私を誘おうとするなんて。日本での飲み会に慣れていないはずだったのに、私の知らない間に何度か飲みに行ったのだろうか。
ああもう、イライラする。電源を切りっぱなしのスマホは、ジーンズのポケットに入れたままだ。訳もなくラグの上に倒れ込んで、髪の毛を思いっきりかき回した。どうしてこうも、心穏やかでないのか。
そんな風に実家からの連絡を避けるあまり、大事なメッセージを見落としていた。『今日飲みに行くから、もし来れそうだったら連絡して』。バイトに行く直前、電源を入れたスマホの画面に、たくさんの不在着信履歴と南くんからのメッセージの通知が現れたのだった。幸い、その送信時間はつい数時間前だった。
今更返すわけにもいかなかったけれど、南くんが私を待っている。その事実に余計罪悪感が加速した。嘘をついただけでなく、彼の連絡を無視してしまった。
振り払うようにバイトにして行った。何事もなくいつも通り終わったら、明日、ごめんって言おう。通知しか見ていないから、既読はついていないはずだ。だんだんそんな風に思えたのに。
退勤して店を出た瞬間、私の前に立ちはだかったのは、キャラメル色の髪をした青年だった。南くんは真っ赤な顔で私に寄って来て、がばっと抱きついた。彼の胸に塞がれて呼吸が苦しい。アルコールのせいか異常に速い彼の心拍が振動で伝わってくる。状況を理解することはできるのに、身体が指先一つでさえも動かなかった。




