#16 新たな嘘
『学科の子と飲みに行くけど、早川さんも来ない?』
南くんとは、もう何日話していなかっただろうか。
おかしな嘘を言い始めてしまったのは、指輪のせいだろうか。いや、そんなはずはない。ただ、私の意地悪な本性が現れただけ。南くんにはバレてないと思う。いつも通り、呑気に笑っている。
「南くんって最近指輪してないよね? 早川さん、何か知らない?」
「前の彼女と別れたんだって」
それだけ言えば、彼のためになっただろうか。
「今、別の彼女と付き合ってるらしいよ」
それって、早川さんじゃないよね。まさか。私は友達なだけだよ。
そんな風に言ったら、もっと疑われるかもしれないのに。南くんは自ら自由になろうとしたのに、魔が差してしまった。でも、それでも友達はできるもの。南くんが話しかければ、みんな笑って応えていた。お昼も、他の人に誘われて食べることが増えて、自然と私が一人になった。
でも、大学生にもなればそんなことにいちいち一喜一憂もしないものだ。席が近くなったりすれ違えば世間話もしたし、決してもうお昼を一緒に食べなくなったわけではなかった。南くんは、以前よりずっと明るくなった。ある意味みんなから距離を置かれていた「南くん」としてじゃなくて、普通にみんなと接して、普通に笑い合えるようになっていた。
そして、夏休みがやってきてしまった。バイトをするだけの日々が始まる。去年までは憂鬱でもなかったのに、どうしてだろう、退屈な日々の予感が夏の気だるい暑さと共に私にのしかかってくる。
大学の友達が何をして過ごしているかなんて想像しかできない。きっと、帰省とか、旅行とか行くんだろう。帰省といえば、南くんは帰る先はあるんだろうか──。
実家から毎日電話がかかってきて辟易する。お前も帰ってこいと何度も何度も連絡が来る。帰省はできることならしたくない。目的もなくバイトをし続けたせいで貯金がすごい額になりつつある。使うあてもないのに、帰らなければさらに増えてしまう。
けれど、何もしていなければもっと催促がうるさく感じるだろう。それから逃げるようにしている私が、もしかしたら帰る場所もないかもしれない南くんと正反対で、申し訳なくなる。しばらく会ってもいないのに、どうしてか気になってしまう。
突然のメッセージに、時が止まったように感じた。汗がじっとりと首を伝っていくのも拭えず、私はきっとショックを受けていた。連絡先を交換して、下の名前を知って浮かれていた私が、ほんの数ヵ月前の自分なのに、酷く子供っぽく思えて恥ずかしくなった。




