#15 二人の関係
「安心して。早川さんは、早川さんだけだから」
きっと、遠回しに言いたかったことがあったんだろう。南くんはまた顔を赤くして恥ずかしそうに言った。
おかしいのだ。そういう風になりたくない相手の家に来てしまったなんて気づいたら、変な汗が出てどうやっていち早くここから抜け出すかを考えるような気がする。でも、南くんがにっこりと笑いかけるのを目の当たりにしても、どうしてか落ち着いていた。なのに、何と言ったものか悩んでいる私を見る南くんの目がみるみるうちに変わっていく。やってしまった、と彼が表情で語るまですごく長い時間がかかった。
「待って、俺、今なんて言った!? ごめん、何か、すごくごめん」
南くんの顔は真っ赤だ。こういうことか。私は額面通り受け取って感情を動かすよりも前に、南くんがぼんやりしいだということをちゃんとわかっていたんだ。
「そういう意味じゃないからね?」
「うん、わかってる」
床にぺたりと座り込んで、南くんは顔を手で覆った。真っ赤な耳だけがキャラメル色の下に見えて、思わず笑い声を零してしまった。意外だった。あの「南くん」がこんな人だったなんて。そんな南くんを独り占めできるならば、彼の唯一の「友達」というものでいるのも悪くないな、と思う。
「あー、ごめん。超眠い。寝てもいい?」
いつの間にか寝転がっていた南くんは腕を額に乗せて、目を閉じていた。長い睫毛が眩しい。本当に美形だ。ちょっと変わっているけど、とても良い人だし。南くんなら、ちゃんと受け止めようとすればすぐに恋人もできるに違いない。
「うん。私、帰るね」
「あ、早川さんちょっと待って」
ばっと起き上がり、南くんは私を見据えた。そして、少しばかり照れくさそうに手のひらを差し出した。
「考えたんだ。これ、つけるのやめてみようかなって。だから、預かってほしくて」
銀の指輪。きっと私のどの指にも合わないそれを、私に手渡した。どうして、と顔を上げると、首を傾げて笑った。
「俺を見張ってて。普通に振る舞えるようになってるかどうか」
どうしてだろう。いや、その理由はもうわかっている。南くんに他に友達ができるかもしれないと思うと、少し寂しい。物悲しいと思ってしまう。だから、温かいその金属が気持ち悪かった。受け取ってしまった手前、すぐに突き返せないのに、再び私の手に戻ってきたそれを捨ててしまいたいとさえ思う。
帰り道、ずっと手に握ったままのそれを感じながら、ぼうっと考えた。ちゃんと手入れしなくちゃいけない。道具、買いに行こうかな――。




