#12 指輪
そして、突然、音もなく倒れた南くんに駆け寄ると、彼は薄目を開いて呟いた。
「ごめん、大丈夫だから、救急車とか病院とかは勘弁して――」
「あ、ごめん。一昨日はありがとう。俺、飲みすぎたよね。ちゃんと自分で帰れたっぽかったからよかったけど」
やっぱり、覚えてないんだ。私が指輪を外したことも、えぐえぐ泣いていたことも。そんなことよりも、指輪のことが心配で仕方ないみたいだった。私は、不思議な気分になる。今なら、指輪という物を持っている今なら、聞ける気がする。
「そんなに大切なものなの?」
「うん」
「高かったとか?」
「……まあ、高かったとは思う」
「なんで――」
そんな大切なものを、肌身離さず持ち歩いていたのか。その言葉が、喉の奥に詰まった。薬指にはめるような指輪なら、高価なものでもいつもつけているのが普通じゃないか――。それ以上、聞けなくなってしまった。無言の私たちを置いてけぼりにして、教室には誰かの笑い声が響いていた。
少しだけ、癪だった。私の言ったことで南くんを傷つけてしまったことが、なかったことになった。南くんが、本当は何かをすごく気にしていたってわかったのに、私もそれを聞かなかったことにしなくちゃいけないことが。だからかもしれない。いつの間にか、返せなかった指輪を封筒から取り出していた。
「1990年……7月27日」
何の日付なのか。そんなの、考えなくてもすぐにわかる。30年近くも前の日付。私たちが生まれる前の、その日付が刻まれた指輪。それを、薬指にはめていた南くん。
「一人にしないで」。ああ、そうか。この指輪の本当の持ち主は、きっともういないんだ。踏み込まれたくないと言った、彼が日本に来た理由。邪推してしまうのも無理もない。
そうであるならば、きちんと返さなくちゃ。それで、話をしよう。見て見ぬふりを彼が望んでいたとしても、もうそんな風で居続けていいわけがない。
「もしもし。指輪、あったよ」
コンビニに向かって歩きながら、考えていた。南くんは思い出したかもしれない。電話越しの声は、あまり興奮もしていなかったから。私を30分も待たせて、髪の毛をぼさぼさにしてやって来た彼の顔は疲れ切っていた。




