#11 失ったもの
「指輪、なくしちゃって……。大事なものなんだ」
彼がそう漏らしたとき、ちょうどそれを指先で弄んでいた私は、内心ひやりとする。酷く落ち込んだ様子の南くんは、深い溜め息をついた。
南くんは、走って帰ってしまった。追いかけることができなかった。全然真っ直ぐ走れていなかったのに、一生懸命に駆けていくのを見ていることしかできなかった。
だから、私の手の中には銀の指輪が残された。体温を与えられてすっかり温くなってしまっていた。
謝ろうか、ずっと悩んでいた。南くんが行ってしまってから、頭はすっかり冴えた。明日も休日だけど眠れなかった。
LINEを開いて一つの画面に表示しきれるくらいだけのやり取りを眺める。Kyosuke MINAMIという名前の表示と、その下のアイコン。どこかの風景の写真だった。色とりどりの夜景は、かつて彼が住んでいたところを切り取ったものだろうか。
キョウスケ。どんな字を書くんだろう。南くんの下の名前、ちゃっかり知っちゃった。でも、もう見放されただろうか。南くんが傷付いたのが何故なのかわからないのだから、これ以上一緒にいるのはよくないのかもしれない。
「一人にしないで」。頭の中で南くんの声がこだまする。なんで、どうして、あんなことを言ったのか。わからないことだらけのまま、スマホを片手に眠りに落ちてしまった。
南くんは腫れた目で授業にやって来た。私とわざと目を合わせないようにしているように感じる。気にしないようにしたかったけれど、ポケットに手を入れると指輪を包んだ封筒に指先が触れた。返さなくちゃいけない。
その日は、雨が降っていた。雨が降った日はコンビニに行かず、南くんはお昼を抜く。そんな時は彼は私に一言も言わず机に突っ伏して眠る。だから、私も一人で購買に行くのだ。
茶髪を隠すように顔を伏せている南くんの肩に、焼きそばパンを押し付ける。ゆっくりと起き上がった彼は、目元を拭って私を見た。
「一昨日は、ごめん」
「……? うん」
南くんは、ぽかんとしている。ぽかんとしたまま、焼きそばパンを受け取って、それと私に交互に目をやった。
もしかして、覚えていないんだろうか。隣に座ってサンドイッチの包装を破ると、南くんも黙ったまま焼きそばパンを頬張った。




