#10 一人にしないで
「俺を、一人にしないで」
肩を掴んだ南くんの手は、びっくりするほどぶるぶる震えていた。
南くんは、私にしがみついてずっと泣いている。夏の夜風は気持ちいいけれど、少し肌寒い。だから、引っ付いていることが少しありがたいとも思うけれど、道行く人の視線が痛い。
行くところがなかった。家に連れて帰るわけにもいかない。南くんの家はどこだか聞ける状態じゃなかった。駅前のロータリーのベンチに南くんを座らせて、コンビニで水を買った。
一人になってみると、どうしてこうなったのかいよいよわからなくなった。彼が女性恐怖症と思っているそれは、普通に惚れっぽくて女の子と話せないというだけなのに。女の子っぽくないと言われた私は男友達みたいなもので、だけど男じゃないから、スキンシップなんてとらない方がいいのに。
遠くから見たら、南くんはきれいだった。泣き腫らした目を隠すように俯いた細い身体のラインが、シルエットが、街灯のムラのある明かりに浮かび上がっている。
「南くん、水」
結露で濡れたペットボトルは、南くんの手を滑り落ちて転がっていってしまう。南くんは、ふう、と息をついて立ち上がった。ふらり、と揺れた姿に、慌てて追いかけて支えてあげる。
「飲み足りない」
ペットボトルを拾って、南くんは鋭い目付きで私を見上げる。上目遣いになると、長い睫毛がその瞳を隠して、暗い光は猛獣のようだ。
「もうダメ。だいたい、どこで飲むの」
「俺んち」
「だからそういうの、ダメだって」
酒に焼けた南くんの声は、低く掠れている。酔いの抜けず焦点の合わない瞳は、それでもなお食らいつくように私を捉えている。
「早川さんは――っ」
酷く、悲しそうな顔をする。傷付いた顔をする。苦しそうな声を上げる。南くんが、わからない。
その手を、そっと触れてみる。ひんやりとした感触。ああ、そうだ。これも――。
左手を取り上げ、指輪を引き抜いてみる。南くんは、我に返ったのかと思うくらい目を見開いて、息を飲んだ。
「もう、やめよう? 嘘をつくのは」
私もきっと、酔っていたのだ。これがトドメになって、いよいよ南くんは泣き止まなくなった。




