表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
10/87

#10 一人にしないで

「俺を、一人にしないで」


 肩を掴んだ南くんの手は、びっくりするほどぶるぶる震えていた。



 南くんは、私にしがみついてずっと泣いている。夏の夜風は気持ちいいけれど、少し肌寒い。だから、引っ付いていることが少しありがたいとも思うけれど、道行く人の視線が痛い。

 行くところがなかった。家に連れて帰るわけにもいかない。南くんの家はどこだか聞ける状態じゃなかった。駅前のロータリーのベンチに南くんを座らせて、コンビニで水を買った。


 一人になってみると、どうしてこうなったのかいよいよわからなくなった。彼が女性恐怖症と思っているそれは、普通に惚れっぽくて女の子と話せないというだけなのに。女の子っぽくないと言われた私は男友達みたいなもので、だけど男じゃないから、スキンシップなんてとらない方がいいのに。


 遠くから見たら、南くんはきれいだった。泣き腫らした目を隠すように俯いた細い身体のラインが、シルエットが、街灯のムラのある明かりに浮かび上がっている。


「南くん、水」


 結露で濡れたペットボトルは、南くんの手を滑り落ちて転がっていってしまう。南くんは、ふう、と息をついて立ち上がった。ふらり、と揺れた姿に、慌てて追いかけて支えてあげる。


「飲み足りない」


 ペットボトルを拾って、南くんは鋭い目付きで私を見上げる。上目遣いになると、長い睫毛がその瞳を隠して、暗い光は猛獣のようだ。


「もうダメ。だいたい、どこで飲むの」

「俺んち」

「だからそういうの、ダメだって」


 酒に焼けた南くんの声は、低く掠れている。酔いの抜けず焦点の合わない瞳は、それでもなお食らいつくように私を捉えている。


「早川さんは――っ」


 酷く、悲しそうな顔をする。傷付いた顔をする。苦しそうな声を上げる。南くんが、わからない。



 その手を、そっと触れてみる。ひんやりとした感触。ああ、そうだ。これも――。

 左手を取り上げ、指輪を引き抜いてみる。南くんは、我に返ったのかと思うくらい目を見開いて、息を飲んだ。


「もう、やめよう? 嘘をつくのは」


 私もきっと、酔っていたのだ。これがトドメになって、いよいよ南くんは泣き止まなくなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ