「灰色に差す初めての色」
境界層の空気は、灰色の世界とはまるで違った。
淡いパステルの光が漂い、風は柔らかく、
どこか懐かしい匂いがした。
彩殿の中心に立つと、
彩の巫女装束がふわりと揺れ、淡いラベンダーの光を放つ。
レイアはその光景を、息を呑んで見つめていた。
「……ここが、境界層……」
彼の声は震えていた。
無理もない。
レイアにとって“色”は失われたもの。
もう二度と戻らないと思っていたもの。
ミュレがレイアの周りをくるくる飛び回る。
「レイアくん、ほらほら!
ここなら色が見えるかもだよ!」
リュミエが静かに言う。
「境界層は、色脈の残滓が漂う場所。
色を失った者でも、心が反応すれば色が戻ることがあります。」
ヴェイルがレイアに近づき、
その胸元にそっと手をかざした。
「あなたの心にも、まだ“色”は残っている。」
レイアは目を伏せた。
「……俺には、もう色なんて……」
「ある。」
彩が一歩近づいた。
胸の奥が熱くなる。
レイアの瞳に、ほんの少しでも色を戻したい。
その願いが、装束を淡いピンクに染めた。
レイアは驚いたように彩を見た。
「……また色が……」
「私の色は、心で変わるの。
レイアを……助けたいって思ったら、勝手に……」
その瞬間、
レイアの胸の奥で、かすかな光が揺れた。
淡い——本当に淡い、青。
彩は息を呑んだ。
「……レイア……今、色が……!」
レイアは自分の手を見つめた。
灰色だった指先に、ほんの少しだけ青が差している。
「……嘘だろ……
俺に……色が……?」
ミュレが嬉しそうに跳ねる。
「やったぁ!レイアくん、色が戻ってきてるよ!」
リュミエが説明する。
「彩の魔力は“色を呼び戻す力”。
あなたが彩に心を開いた瞬間、色が反応したのです。」
ヴェイルが静かに告げる。
「境界の巫女の色は、世界だけでなく——
人の心にも色を灯す。」
レイアは胸を押さえた。
その瞳に、確かに淡い青が揺れている。
「……こんな感覚……久しぶりだ……
あたたかい……」
彩の胸がぎゅっと締め付けられた。
「レイア……
私、もっと色を取り戻したい。
世界にも……人にも……」
レイアはゆっくりと彩を見つめた。
「……なら、俺も行く。
お前の色が……世界を変えるなら。
俺は、その隣に立つ。」
その言葉に、彩の巫女装束がふわりと揺れ、
ラベンダーとピンクの光が混ざり合った。
ミュレが嬉しそうに叫ぶ。
「彩ちゃんとレイアくん、相性ばっちりだよ!」
リュミエが咳払いする。
「……はしゃぎすぎです、ミュレ。」
ヴェイルは静かに微笑んだ。
「これで、色を取り戻す旅が始まる。」
彩はレイアの手をそっと握った。
**灰色の世界に、初めて“色”が灯った瞬間だった。**




