境界層への移動
灰色の大地が静まり返ったあと、彩の胸の奥ではまだピンクの光がかすかに揺れていた。
レイアは剣を収め、肩の傷を押さえながら彩の方へ歩み寄る。
「……大丈夫か。」
「うん……でも、レイアこそ……!」
「かすり傷だ。お前の色が守ってくれた。」
その言葉に、彩の胸がじんわりと熱くなる。
でも、今はそれよりも——
この世界の“灰色”が、どうしようもなく許せなかった。
ミュレが彩の袖を引っ張る。
「彩ちゃん、ここじゃ危ないよ。
境界に戻ろう? 精霊たちの場所なら安全だよ!」
リュミエも頷く。
「あなたの魔力はまだ不安定です。
境界層で整える必要があります。」
ヴェイルが静かに手を差し伸べる。
「来なさい、境界の子。
あなたの色を守る場所へ。」
彩はレイアを見た。
「レイアも……一緒に来てくれる?」
レイアは少し驚いたように目を瞬かせたが、すぐに頷いた。
「お前を一人で行かせるわけにはいかない。
それに……あの色の意味を知りたい。」
その言葉に、彩の胸がまた跳ねた。
ヴェイルが指先で空をなぞると、
灰色の世界に淡いラベンダーの裂け目が生まれた。
風が逆流するように色の気配が流れ込み、
裂け目の向こうには——
淡いパステルの光が揺れる、幻想的な空間が広がっていた。
「……ここが……境界……?」
彩は思わず息を呑んだ。
灰色の世界とはまるで違う。
色は淡く、儚く、でも確かに存在している。
レイアも目を見開いていた。
「……色が……ある……」
その声は震えていた。
彼にとって、色は“失われたもの”だったのだ。
彩はそっとレイアの手を取った。
「行こう。」
二人は精霊たちに導かれ、境界層へ足を踏み入れた。
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巫女装束の真実
境界層の中心にある“彩殿”に入ると、
淡い光が彩の身体を包み、巫女装束がふわりと揺れた。
ミュレが嬉しそうに跳ねる。
「彩ちゃん、ここなら装束の色が安定するよ!」
リュミエが説明を始める。
「彩の巫女装束は、色脈の布から作られています。
色を吸収し、反射し、変化する……“生きた布”です。」
レイアが驚いたように彩を見る。
「さっき戦っていた時……色が変わっていたのは、そのせいか。」
「うん……私の感情が、そのまま色になって……」
ヴェイルが静かに続ける。
「境界の巫女の装束は、心を映す鏡。
あなたが何を感じ、何を願い、何を恐れるか——
すべてが色となって現れる。」
彩は胸元に触れた。
淡いラベンダーが揺れている。
「……じゃあ、今のこの色は……?」
ミュレがにこっと笑う。
「“決意”の色だよ!
彩ちゃんが、世界に色を取り戻したいって思ってる色!」
リュミエが補足する。
「ラベンダーは境界の色。
あなたが“自分の役目を受け入れた”証です。」
レイアは静かに彩を見つめた。
「……綺麗だ。
お前の色は、どれも……本当に綺麗だ。」
その言葉に、彩の頬がほんのりピンクに染まる。
それに反応して、巫女装束も淡いピンクに揺れた。
ミュレが嬉しそうに叫ぶ。
「ほらほら!彩ちゃん照れてるからピンクになった!」
彩は慌てて袖で顔を隠した。
「ち、違うもん……!」
レイアは少しだけ笑った。
その笑顔には、ほんのわずかに“色”が戻っていた。
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彩は胸に手を当てた。
この世界に色を取り戻す。
そのために私はここにいる。
巫女装束が、淡いラベンダーとピンクのグラデーションに揺れた。




