初めての色
無彩獣が低く唸り、灰色の大地を蹴った。
レイアは剣を構え、彩の前に立つ。
「彩。さっきの……あの色を、もう一度。」
「……うん。やってみる。」
胸に手を当てる。
怖い。
でも、レイアを守りたい気持ちの方が強い。
ミュレが彩の頬に触れた。
「大丈夫だよ、彩ちゃん。
“守りたい”って気持ちは、ピンクの魔法の源なんだよ。」
リュミエが静かに続ける。
「感情を整えれば、魔力は暴れません。
あなたならできます。」
ヴェイルが囁く。
「色は、心の形。
あなたの心が揺れれば、装束も揺れる。」
彩は深く息を吸った。
——私は、守りたい。
その瞬間、胸の奥が温かく光った。
巫女装束が淡いピンクに染まり、
袖から光の花びらがふわりと舞い散る。
「……出た……!」
彩の手のひらに、柔らかな光の粒が集まっていく。
レイアが振り返り、わずかに目を見開いた。
「それが……お前の色……」
無彩獣が吠え、レイアに飛びかかる。
「レイア!!」
彩は咄嗟に手を伸ばした。
光が弾け、レイアの身体を包むように広がる。
淡いピンクの膜——護りの色。
無彩獣の爪がレイアに触れた瞬間、
ピンクの光が弾けて衝撃を吸収した。
「……っ、守られた……?」
レイアが驚いたように呟く。
彩は震える声で言った。
「まだ上手くできないけど……
でも、あなたを守りたいって思ったら……勝手に……!」
レイアは一瞬だけ微笑んだ。
灰色の瞳に、ほんの少しだけ青が差す。
「十分だ。
あとは俺がやる。」
レイアは剣を握り直し、無彩獣に向かって走った。
無彩獣が吠え、影のような腕を振り下ろす。
だが、レイアの身体には彩のピンクの光が残っている。
「はあああっ!!」
銀の剣が無彩獣を切り裂き、
影の身体が霧のように崩れ落ちた。
灰色の風が吹き抜け、静寂が戻る。
レイアは剣を下ろし、彩の方へ振り返った。
「……助かった。
お前の色がなかったら、俺は死んでた。」
彩は胸に手を当てた。
まだ心臓がドキドキしている。
「私……本当に、誰かを守れたんだ……」
ミュレが嬉しそうに跳ねる。
「できたよ彩ちゃん!
初めての“色の魔法”だよ!」
リュミエが頷く。
「あなたの感情が、魔力を形にしたのです。」
ヴェイルが静かに言う。
「これが、境界の巫女の第一歩。」
彩は空を見上げた。
灰色の空に、ほんの一瞬だけ——
淡いピンクの光が揺れた気がした。
この世界に、色を取り戻す。
そのために私は生まれたんだ。
胸の奥で、確かな決意が灯った。




