灰色の記憶
境界層の空気は、淡い光の粒が漂い、静かで優しい。
彩殿の奥、色脈の泉の前で、彩とレイアは向かい合っていた。
泉の水面には、淡いパステルの光が揺れている。
彩の巫女装束も、ラベンダーとピンクのグラデーションで静かに揺れた。
レイアはしばらく黙っていた。
灰色の瞳が、泉の光を映して揺れている。
ミュレが小さく囁く。
「彩ちゃん……レイアくん、今なら話せるよ。」
リュミエも静かに頷く。
「境界層は心を整える場所。
ここなら、彼の“色”が揺らぎます。」
ヴェイルがレイアの背に手をかざす。
「語れ。
あなたが色を失った、その理由を。」
レイアはゆっくりと息を吐いた。
「……俺が色を失ったのは、三年前だ。」
彩はそっと耳を傾ける。
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レイアの過去
「俺の村は、色がまだ残っていた。
空も、花も、人の瞳も……全部、綺麗だった。」
レイアの声は震えていた。
「でも、ある日……“無彩の災”が来た。
黒と白の嵐みたいなものが、村を飲み込んだ。」
彩の胸が痛む。
「みんな……色を奪われた。
感情も、記憶も、声も……
まるで、生きているのに死んでいるみたいだった。」
レイアは拳を握りしめた。
「俺は……守れなかった。
家族も、仲間も……
俺の剣じゃ、何もできなかった。」
彩の胸がぎゅっと締め付けられた。
巫女装束が淡いピンクに揺れる。
“守りたい”という気持ちが色になって現れる。
レイアは続けた。
「気づいたら……俺自身の色も消えていた。
怒りも、悲しみも、喜びも……全部、灰色になった。」
彼は自分の胸に手を当てた。
「だから……お前の色を見た時、
胸が痛くて……でも、温かかった。」
彩はそっとレイアの手に触れた。
「レイア……
あなたの色は、まだ消えてないよ。」
レイアは驚いたように彩を見る。
「……俺に、まだ色が……?」
彩は微笑んだ。
巫女装束が淡いラベンダーに揺れる。
「うん。
だって、さっき……私を守ってくれた時、
あなたの瞳に、青が戻ってた。」
ミュレが嬉しそうに跳ねる。
「レイアくんの色は“青”だよ!
優しさと、強さの色!」
リュミエが補足する。
「青は、理性と誠実の色。
あなたの本質です。」
ヴェイルが静かに告げる。
「境界の巫女の色は、人の心にも灯る。
あなたは、彩によって“色を取り戻し始めた”。」
レイアは胸に手を当て、震える声で言った。
「……こんな感覚……
本当に……色が……」
彩はそっとレイアの手を包んだ。
「レイア。
一緒に色を取り戻そう。
世界にも……あなた自身にも。」
レイアはゆっくりと頷いた。
「……ああ。
お前となら……取り戻せる気がする。」
その瞬間、
レイアの瞳に淡い青がふわりと灯った。
境界層の光が揺れ、
彩の巫女装束も、レイアの色に呼応して淡いブルーを帯びた。
灰色の剣士に、初めて“色”が戻った瞬間だった。




