青の泉のほとりで
灰色の森を抜けた先に、
ひっそりとした谷が広がっていた。
風が止まり、
空気が澄み、
世界が静かに息を潜めている。
彩は胸元の紋に触れた。
どくん。
どくん。
「……ここだ。
青の泉が……呼んでる。」
レイアが隣で頷く。
「空気が違うな。
静かすぎる。」
ミュレが彩の肩で震える。
「彩ちゃん……
なんか“冷たい”よ……
青の泉って、こんなに静かなの……?」
リュミエが説明する。
「青の泉は“心の静寂”を司る泉。
近づく者の心を映し出すと言われています。」
ヴェイルが静かに告げる。
「境界の巫女よ。
心を整えよ。
青の泉は、あなたの“内側”を試す。」
彩は深く息を吸い、
谷の奥へと歩みを進めた。
---
青の泉、姿を現す
谷の中心に——
それはあった。
青い光を湛えた泉。
水面は鏡のように静かで、
空の青とも違う、
深く澄んだ“心の青”。
彩は息を呑んだ。
「……綺麗……
でも……なんだろう……
胸が、少し苦しい……」
レイアが彩の肩に手を置く。
「彩。
無理はするなよ。」
彩は首を振る。
「ううん……
この泉……私の心を“見てる”。
そんな感じがするの。」
ミュレが泉を覗き込む。
「彩ちゃんの顔が映ってる……
でも……なんか“違う”よ……?」
リュミエが静かに告げる。
「青の泉は、
“本当の心”を映す泉。
彩が抱えている不安や迷いも……
すべて映し出します。」
彩は水面にそっと手を伸ばした。
その瞬間——
水面が揺れ、青い光が彩を包んだ。
---
泉が映す“彩の心”
彩の視界が青に染まり、
静寂の中で、ひとつの“影”が浮かび上がる。
それは——
彩自身。
けれど、
その瞳は揺れていた。
「……私……?」
影の彩が、静かに言った。
「あなたは……
本当に“世界の色”を救えると思ってるの……?」
彩は息を呑む。
「……それは……」
影の彩は続ける。
「怖いんでしょう……?
虚彩も……
色脈の異変も……
自分の力が足りないことも……」
彩の胸が痛む。
レイアの声が遠くで響く。
「彩!!
戻ってこい!!」
でも彩は動けない。
影の彩が手を伸ばす。
「あなたは……
“自分の色”を信じられていない。」
彩は震える声で言った。
「……そんなこと……
ない……!」
影の彩が首を振る。
「じゃあ……
どうして、レイアの前でだけ……
色が揺れるの……?」
彩の心臓が跳ねた。
巫女装束が淡いピンクに揺れる。
「……それは……
レイアが……大切だから……!」
影の彩は微笑む。
「なら——
その色を、もっと強くして。」
青い光が彩の胸元の紋に集まる。
どくん。
どくん。
彩は目を閉じ、
静かに呟いた。
「……私は……
私の色を信じる。
誰かのために灯せる色を……
もっと強くする。」
影の彩は溶けるように消え、
青い光が彩を包んだ。
---
青の泉、彩を認める
現実に戻ると、
泉の青い光が彩の胸元に吸い込まれていく。
レイアが駆け寄る。
「彩!!
大丈夫か!」
彩はゆっくりと目を開け、
微笑んだ。
「うん……
青の泉が……
私の色を認めてくれた。」
胸元の紋が、
新しい“青の輝き”を帯びている。
ミュレが跳ねる。
「彩ちゃん!!
新しい色が増えてるよ!!」
リュミエが頷く。
「青の泉の力……
“心を整える色”が、彩に宿りました。」
ヴェイルが静かに告げる。
「境界の巫女よ。
あなたは今、
“心の青”を手に入れた。」
彩は胸に手を当てた。
「……次の泉も……
きっと、私を待ってる。」
レイアは静かに言う。
「どこへでも行くさ。
お前の色がある限り。」
彩の巫女装束が、
ラベンダーと青の光を揺らした。
青の泉は彩を認めた。
次の色脈へ——旅は続く。




