灰色の町の住民
ルシエルの町に足を踏み入れた瞬間、
彩は胸の奥がぎゅっと締め付けられた。
家々は灰色。
道も灰色。
人々の瞳も、声も、表情も……
まるで“色を忘れた”ように沈んでいる。
レイアが低く呟く。
「……ここも、色を奪われた町か。」
彩は頷き、胸に手を当てた。
色脈の鼓動が、町の中心から微かに響いている。
ミュレが彩の肩で耳をぴょこぴょこ動かす。
「彩ちゃん……誰か来るよ。」
灰色の路地から、
一人の少女がゆっくりと歩いてきた。
年齢は彩と同じくらい。
髪も瞳も灰色。
でも——その瞳の奥に、かすかな“揺らぎ”があった。
少女は彩を見るなり、息を呑んだ。
「……色……?」
彩の巫女装束は、淡いラベンダーとピンクの光を帯びて揺れている。
灰色の世界では、異様なほど目立つ。
少女は震える声で言った。
「あなた……本当に……色を持ってるの……?」
彩は優しく微笑んだ。
「うん。私は彩。
世界に色を取り戻すために来たの。」
少女の瞳が揺れた。
灰色の中に、ほんの少しだけ“青”が混ざる。
レイアが気づき、静かに言う。
「……この子、色が戻りかけてる。」
リュミエが頷く。
「彩の色に反応しているのです。
この子の心には、まだ色が残っている。」
少女は彩の袖に触れた。
その瞬間——
巫女装束が淡いピンクに揺れ、
少女の瞳に、かすかな桃色が差した。
「……あったかい……
こんな感覚……久しぶり……」
ミュレが嬉しそうに跳ねる。
「やったぁ!
彩ちゃんの色が、この子に届いたよ!」
少女は涙をこぼした。
「お願い……助けて……
この町は……“色脈の病”に侵されてるの……
みんな、少しずつ色を失って……
そのうち、声も、心も……」
彩は息を呑んだ。
「色脈の……病……?」
少女は震える声で続けた。
「町の中心にある“色脈の泉”が……
黒い影に覆われて……
それから、町の色がどんどん消えていったの。」
レイアが剣に手をかける。
「黒い影……無彩獣か。」
少女は首を振った。
「違う……もっと……もっと怖いの。
“虚彩”って呼ばれてる……
無彩獣の上位種……」
彩の胸が強く脈打った。
どくん。
どくん。
巫女装束がラベンダーに揺れる。
ヴェイルが静かに告げる。
「境界の巫女よ。
色脈の泉を浄化しなければ、この町は完全に無彩に沈む。」
彩は強く頷いた。
「……行く。
色脈の泉へ。
この町の色を取り戻すために。」
少女は彩の手を握り、涙を浮かべながら言った。
「ありがとう……
あなたが来てくれて……本当に……」
彩は少女の手を包み込んだ。
その瞬間、少女の瞳に淡いピンクが灯った。
レイアが静かに言う。
「彩……
お前の色は、人を救える。」
彩は胸に手を当てた。
「うん。
だから……絶対に守る。
この町の色も……人の色も……」
巫女装束が強いラベンダーの光を放った。
色脈の泉へ向かう決意が、彩の色を強くする。
次の試練が、すぐそこまで迫っていた。




