色脈が見せる記憶
彩とレイアは、淡い光の線——色脈の残滓を辿って歩いていた。
灰色の大地の下で、かすかに脈打つ光。
彩の胸の奥では、同じリズムで心臓が脈打っているように感じた。
「……また聞こえる……
どくん、どくんって……」
レイアが横目で彩を見る。
「色脈の鼓動か?」
「うん……でも、さっきより強い……
まるで、呼ばれてるみたい……」
ミュレが耳をぴょこぴょこ動かす。
「彩ちゃん、気をつけてね。
色脈は優しいけど……記憶は、時々痛いから。」
リュミエが静かに告げる。
「色脈は世界の記憶。
色が失われる前の光景も、災いの瞬間も……すべて刻まれています。」
ヴェイルが彩の背に手をかざした。
「境界の巫女だけが、それを見ることができる。」
彩は深く息を吸い、光の線に手を伸ばした。
指先が触れた瞬間——
世界が反転した。
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色脈の記憶
彩の視界が一面の光に包まれた。
次に見えたのは——
色に満ちた世界。
空は深い青。
草は鮮やかな緑。
花々は赤、黄、紫……
色が溢れ、風が歌い、人々が笑っている。
彩は息を呑んだ。
「……綺麗……
こんな世界が……本当に……?」
ミュレの声が遠くで響く。
「これが、色脈が覚えてる“昔の世界”だよ。」
彩は歩き出した。
足元の花が、彼女の色に反応して淡いピンクに揺れる。
その時——
空が、黒と白に裂けた。
「……え……?」
風が止まり、世界が震えた。
黒と白の嵐が空から降り注ぎ、
触れたものすべての色を奪っていく。
花が灰色に。
木々が白黒に。
人々の瞳から光が消える。
彩の胸が締め付けられた。
「やだ……やだよ……
こんなの……!」
レイアの声が遠くから聞こえる。
「彩!戻れ!」
でも彩は動けなかった。
色脈の記憶は続く。
黒と白の嵐の中心に——
揺らぐ影のような存在が立っていた。
顔はない。
輪郭も曖昧。
ただ、黒と白が混ざり合う“無”の存在。
ヴェイルの声が響く。
「それが——無彩の王。」
彩は震える声で呟いた。
「……あれが……
世界から色を奪った……?」
無彩の王が腕を広げた瞬間、
世界の色が一気に吸い込まれた。
空も、大地も、人も——
すべてが灰色に。
彩の胸が痛くて、苦しくて、涙が溢れた。
「こんなの……許せない……
絶対に……許せない……!」
その瞬間——
彩の巫女装束が、強烈なラベンダーの光を放った。
記憶の世界が砕け、
彩は現実へと引き戻された。
現実へ
彩は膝をつき、肩で息をしていた。
レイアが駆け寄る。
「彩!大丈夫か!」
「……うん……
でも……見ちゃった……
世界が……色を失う瞬間……」
レイアは彩の手を握った。
「怖かったか。」
「怖かった……
でも、それ以上に……悔しかった……!」
巫女装束がピンクとラベンダーの混ざった光を放つ。
ミュレが涙目で言う。
「彩ちゃん……
色脈の記憶は、すごく強いんだよ……
でも、ちゃんと見れたのは……彩ちゃんが巫女だからだよ。」
リュミエが静かに告げる。
「あなたは、世界の真実を知った。
もう後戻りはできません。」
ヴェイルが彩の肩に触れた。
「境界の巫女よ。
あなたは今、世界の痛みを知った。
だからこそ——色を取り戻す力が強くなる。」
彩は涙を拭き、強く頷いた。
「……絶対に取り戻す。
世界の色も……人の色も……
全部、私が……!」
レイアは静かに彩の隣に立った。
「なら、俺も戦う。
お前の色がある限り、俺は隣にいる。」
彩の巫女装束が、強いラベンダーの光を放った。
色脈の記憶を見たことで、彩の決意は本物になった。
ここから、本当の戦いが始まる。




