色脈の鼓動
灰色の大地に戻ってから数時間。
彩とレイアは、境界層から続く細い道を歩いていた。
空は相変わらず灰色。
風も、草も、土も、色を失っている。
だけど——
彩の足元だけ、淡いピンクの光が揺れていた。
レイアが横目でそれを見る。
「……お前の色は、歩くだけで世界に滲むんだな。」
「うん……でも、まだほんの少しだけ。
もっと強く色を戻せるようになりたい。」
ミュレが彩の肩に乗り、耳をぴょこぴょこ動かす。
「彩ちゃん、なんか……感じない?」
「え……?」
リュミエが空気を読むように目を閉じた。
「……確かに。
この先に“色脈”の気配がある。」
レイアが剣に手をかける。
「色脈……?」
ヴェイルが静かに説明する。
「色脈とは、世界の色の源。
大地の下を流れる“色の川”。
それが枯れたことで、世界は無彩になった。」
彩の胸が強く震えた。
「……色の川……」
その言葉を口にした瞬間——
胸の奥が、どくん、と脈打った。
巫女装束が淡いラベンダーに揺れる。
レイアが驚いたように彩を見る。
「彩……?」
「……なんか……聞こえる……
心臓みたいな……音……」
ミュレが目を輝かせる。
「彩ちゃん、それだよ!
色脈の“鼓動”だよ!」
彩は胸に手を当てた。
心臓の鼓動とは違う。
もっと深く、もっと大きく、
世界そのものが脈打っているような——そんな感覚。
風が止まり、空気が震えた。
彩の視界に、淡い光の線が浮かび上がる。
地面の下を走る、細い光の筋。
「……これ……見える……!」
レイアには見えていないようで、眉をひそめる。
「何が見えるんだ?」
彩は震える声で答えた。
「色脈……
世界の色が流れてた道……
今は枯れてるけど……まだ、残ってる……!」
ヴェイルが静かに頷く。
「境界の巫女だけが視ることのできる光。
あなたが“色脈と共鳴した”証。」
彩の巫女装束が、淡いラベンダーからブルーへ、そしてピンクへと揺れ動く。
レイアが息を呑む。
「……色が……変わってる……」
リュミエが説明する。
「彩の心が揺れてるからです。
色脈の気配に反応しているのです。」
彩は光の線に手を伸ばした。
触れた瞬間——
世界が一瞬だけ、色を取り戻した。
空に淡い青。
草に薄い緑。
土に温かい茶色。
ほんの一瞬。
でも確かに“色”が戻った。
彩は息を呑んだ。
「……これが……色脈……
世界の色の……心臓……」
レイアはその光景を見て、震える声で言った。
「彩……
お前、本当に……世界を変えられるんだな。」
彩は胸に手を当て、強く頷いた。
「うん。
私、色脈を辿る。
世界の色を取り戻すために。」
巫女装束が、強いラベンダーの光を放った。
ミュレが叫ぶ。
「彩ちゃん、覚醒したよ!
色脈を感じられるようになったんだよ!」
ヴェイルが静かに告げる。
「これで、あなたは“本当の巫女”になった。
色脈を辿り、世界の色を取り戻す旅が始まる。」
彩はレイアの手を握った。
「レイア、一緒に行こう。」
レイアは迷いなく頷いた。
「もちろんだ。
お前の色がある限り、俺は隣に立つ。」
灰色の世界に、
彩の色が確かに灯った。
色脈を辿る旅が、今始まる。




