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無事に奴隷商の館に到着し、保護された奴隷の引き渡しを終えたオレたち。
──さて、
「店員さん、すまないが『魔道に興味ありで、コイツ──『破壊魔』エリティアを魔道の師匠として仰ぎ、且つ、旅暮らしでもオーケー』という条件を呑める奴を見繕ってくれるか?」
「あ! 『女の子』限定ね」
奴隷商の館──豪奢な内装の店内に足を踏み入れたオレたちは早速、店員に注文を告げる。
「かしこまりました。しばし、お待ちを。」
オレらの注文を受けた店員は恭しく頭を下げると、店の奥へと引っ込む。
「お待たせしました。こちらが、お客様のご注文に合致した奴隷になります。」
しばらくして、店員は一人の奴隷を連れて戻ってきた。
店員から差し出された奴隷のプロフィールが記された用紙を見ながら、奇特──じゃなかった、エリーの弟子志願者の少女を見やる、
パッと見は、目がぱっちりのお淑やかそうで可愛らしい桃色髪の少女だ。彼女は高等教育を受ける学校等に通う生徒が着るような制服に身を包み、制服上着の胸ポケットに奴隷商の館の紋章が刺繍されていた。次にプロフィールに目を通す。
名前は、ターミ・ムザーナ。
奴隷の種別は、“借金奴隷”。前述した“懲役奴隷”とは異なり、“借金奴隷”とは文字通りの借金のかたに身売りした奴のことだ。まあ、大抵は借金した奴自身ではなく、その身内が主だがな。
お次は技能欄。奴隷の値段を大きく左右する項目だ。当然、専門職の技能を持つ奴隷は値段が跳ね上がる。そして、奴隷商人は奴隷の価値を高めるために教育──昔は調教と呼んでいたそうだ──を施す。しかも、奴隷が志願すれば専門職の技能の習得または修得をもさせてくれるんだとか。ただ、例外の一つに『魔道士』がある。理由は、『魔道』関連のほぼすべてのノウハウを世界的非政府組織の『魔道士組合』が一手に管理しているからだ.。んで、ターミの優秀技能の欄には『礼儀作法・家事全般』となっており、“使用人向き”と備考欄に記されていた。
ま、女性奴隷は半数以上が使用人として買われるとのことで、彼女の値段も平均の範囲内。
さて、オレはプロフィール用紙から再び視線を奴隷の少女──ターミへと向け、訊ねる。
「オレはラクルってんだ。
ターミちゃん、でいいかな?」
「はい。」
名前を確認したオレに、ハッキリした声音で応答してきた彼女。緊張した様子もないようだ。では、先ずは、オレはエリーのことを指差しながら、
「ターミちゃん、彼女──『破壊魔』の異名を持つエリティアを師と仰ぎ、魔道士の弟子となることに異存はないね?」
改めての確認をとる。
「はい。わたし、前々から魔法に興味ありまして、それにエリティアさんの噂話を度々耳に致しまして憧れていたんです!」
「そうか」
ふと、視線を感じ其方を見ると、エリーが得意満面に鼻を高くしていた。
「じゃあ、次に、一生旅暮らしになるかもしれないが、それでも──?」
「はい! わたし、魔法と同じくらいに世界を旅して回りたいって思ってます!」
オレの問いに喰い気味に熱意の籠もった回答をするターミ。その勢いに思わずオレは仰け反っちまった。が、当人が乗り気まんまんなら、いいだろう。
「よし。店員さん、彼女を買うよ。」
「はい、ありがとうございます」
オレは店員が契約書を用意している間に、財布の皮袋の口を開き、お金を取り出しレジのトレイの上に置く。
「それでは、こちらにご署名を」
「おう」
店員が差し出したペンを受け取り、契約書を一瞥しておかしなところがないことを確認して署名欄に署名し、朱肉に親指を付けて拇印を押す。
「はい、確かに。」
契約書のオレの署名と拇印を確認した店員は、次にレジカウンターの下から装飾品と見紛う『様々な素材やデザインのチョーカー』が並んだトレイを出した。
オレはターミに声を掛ける。
「ターミちゃん、好きなの選んでいいよ」
「あ、はい」
店員がレジ下から取り出した『チョーカー』──それは、“奴隷の身分証”である。昔は革製の物しかなかったが現在は色々とあるんだとか。
「……あの、これにします」
「へぇー、いいんじゃないか」
ターミが選んだチョーカーは銀製でアメシストのハートがアクセントに付いた物だった。
「では、お客様。チョーカーに手を翳したまま、こちらの用紙に書かれている呪文を読み上げて下さい。」
店員はターミが選んだチョーカーだけを残してチョーカーが載ったトレイを仕舞い、次に魔法陣が描かれた用紙を取り出して、その上にチョーカーを置き、呪文が書かれた用紙を隣に置いた。
「わかった」
オレは店員の指示に従い、チョーカーの上に手を翳し、用紙に書かれた呪文を唱えた。これは、主従契約と奴隷の所有者登録をチョーカーに刻み込む為のものらしい。
呪文を唱え終えると、魔法陣が書かれた用紙の上に載ったチョーカーが一瞬だけ淡い光りに包まれた。
「お疲れさまです。それでは、お客様は奴隷の準備が整いますまで、そちらでお寛ぎください。」
店員は金の載ったトレイに契約書とチョーカーを載せ、ターミを連れて奥へ。
オレは客用に用意された高級ソファに腰掛ける。
「ふぅー、素直ないい子そうでよかったぜ。」
「そうね。あたしの一番弟子のターミちゃん♪ 手取り足取り、あたしが修めた魔道の真髄を早く押してえてあげたいわ♪」
エリーはオレが座ったのとは向かいのソファに座ると、ターミとの師弟生活の夢想に耽る。




