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 ゴトゴトゴト……と石畳を踏みしめる馬車の車輪が響かせる音を聞きながら、野盗から救出された奴隷を乗せた護送用馬車は町中の道を奴隷商の館に向けて進む。

「あたしもそろそろ、歴史にその名を遺す魔道士の一歩として、弟子がほしいのよね♪」

 ふと、馭者台で隣に座っているエリーが唐突にそんなことを口にした。

 彼女がそう言いだした理由を、オレはなんとなく想像が付いた。

 それは、つい先程のこと。憲兵の詰め所で副所長からの依頼を受けた後、オレらが応接セットのソファから立ち上がり詰め所の入口へと向かう途中で、見た目が十代半ばの女憲兵が声を掛けてきたのだ。

「……あ、あの、もしかして、あなたは『破壊魔(デストロイヤー)』エリティアさんではないですか?」

 と、顔を赤らめながらエリーにそう問うてきた。

 対して、エリーは『破壊魔(デストロイヤー)』の異名に不本意といった表情を一瞬見せながらも、

「ええ、そうだけど」

 首肯して肯定。


 ──さて、ここで一つ脱線してエリーの異名の『破壊魔(デストロイヤー)』について、語ろう。

 彼女の異名『破壊魔(デストロイヤー)』の所以は、彼女の行いからきている。

 エリーは前述した通り『英雄譚(ヒロイックサーガ)に出てくるような大魔導』になることを夢見ている。当然、“英雄(ヒロイック)”という部分も含むため、彼女は勧善懲悪物語的な正義感を持っている。

 そして、エリーのその正義感は悪を赦すことはない。旅行く先で“赦してはならい悪”と遭遇すると、かつてのオレの旅の相方だった『ダチ公』同様に“悪人退治”に乗り出すのだった。

 だが、『ダチ公』は悪事を働いた“黒幕を含めた幹部クラス”はその命を以て罪を贖う──『成敗!』なのに対して、エリーの場合は、“証拠を集め、悪人の元に乗り込み懲らしめる”までは『ダチ公』と一緒だが、その先は「悪人といえど、殺害はよくない。裁きは司法に任せるわ!」というスタンス。

 そうして、ここからがエリーの異名の『破壊魔(デストロイヤー)』の所以。エリーは悪人を懲らしめると、悪人たちが“金などで司法の裁きを捻じ曲げないよう”、悪人の拠点──貴族なら屋敷・それ以外ならアジト等──を奴等の全財産ごとエリーが得意とする『広範囲無差別攻撃呪文』で文字通りの『デストロイ』するのだ。故に、付いた異名は“『破壊魔(デストロイヤー)』エリティア”なのだ。


 そんなワケで、エリー当人には不本意な異名なれど、有名になったこと自体は嬉しいようでハニカミながら、

「──私、エリティアさんのファンなんです! 握手してください!」

「ええ、いいわよ♪」

 と、エリーは快くファンサービスをするのであった。

 ──んで、話を現在に戻すと、“名前を覚えられ、ファンが付くほど有名になったのだから、次は箔を付けるのに弟子よね”的な発想からの先の発言だ。

 まあ、オレの立場からしたら、どうでもいいことなので、

「いいんじゃねーの」

 エリーが弟子をとろうがとるまいが、それはエリーの自由なので、テキトーに相槌を打つ。

「だよねだよね♪ それでね、お兄ちゃん。手っ取り早く、弟子をとる方法っていったら──?」

 エリーの問いに、オレはなんともなしに自分が走らせている護送用馬車の奴隷が乗っている護送車両内に視線を向け、

「……そうだな、“手っ取り早く”っていうなら、“奴隷を買って”弟子にする、じゃないか? 募集を掛けた場合、弟子志願者が来るまで、待ちぼうけになるだろうしな……」

 そう答えると、エリーはその言葉を待ってましたとばかりに破顔して、

「──じゃあじゃあ、奴隷買って♪ ね、買って♪ お願い! 買ってよ、お兄ちゃん!」

 と、せがんできた!

「は? アホか! 弟子がほしいのなら、自分で買え。なんで、オレが奴隷を買わにゃならん?!」

 ──この世界には、『奴隷保護法』という“国際法”がある。で、その『奴隷保護法』の条項の一つに“『奴隷所有者は所有する奴隷の心身の健康を保つ義務がある』”というものがある。詰まりは、奴隷を所有することは“扶養すべき家族が増える”と同義なのだ。

 根なし草のその日暮らしの旅人が奴隷を所有することが、如何に大変かは火を見るより明らか。なので、当然、オレは先の回答をした訳だ。

「えー!? でもー、自分で買った奴隷を弟子にしたら“自作自演”丸分かりじゃん。だ・か・ら、ね♪ お兄ちゃん、奴隷を買って!」

 上目遣いのおねだりポーズでねだってきても、オレの答えは、

「自分で買えよ。弟子の世話は師匠がするのが道理だろうが。」

 “ノー”である。

「ぷーっ!」

 オレの改めての回答に頬を膨らませてむくれるエリー。彼女は二十歳になってもいまだに十代半ばから後半の若さを保ち、若者特有の初々しさを残している。それ故、彼女の可愛い仕草は効果抜群だ。おそらく、この可愛さでだいたいの野郎なら自分の意見を即座に翻すだろうが、五年も一緒に旅しているオレには通用しない。

「──お兄ちゃんが“奴隷を買って”くれないなら、あたし、今すぐ服を脱ぐから!」

「……おい、何言ってんだ? そんなことしたら、公然猥褻で捕まるぞ?」

「いいもん! 捕まったら、“お兄ちゃんに強制された!”って供述するから」

「…………おい…………」

 いつもなら、エリーがふくれっ面をした時点で話は終わりになるのだが、どうやらエリーはマジで『弟子』がほしいようで、遂には脅しに出てきやがった。

 …………………。

 ──はあ~……。仕方ない……。本当に、マジで仕方ない……。

 葛藤の末、オレは已む無しと、

「──わかった分かった。オレが奴隷を買ってやるから、服に掛けた手を下ろせ」

「やった~♪」

 オレが折れた途端、超ご機嫌に早変わりしてはしゃぐエリー。ホント、現金なやつだ。

「──……あ、やっぱ、一番弟子は“女の子”がいいよね。……可愛い一番弟子……、エへ、エヘヘ……────」

 しかも、もう弟子ができた後の想像──いや、妄想に浸ってやがる始末だ。やれやれ……。



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