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──翌日の朝。
オレらが泊まっている部屋は西側なので朝日は拝めないが、陽光によって白み青く染まっていく空が窓の外に覗えた。
珍しいことにオレより後に戻ったエリーは既に起きており、いつも通りのパンツルックにベージュのグローブとフード付きマント姿で立っていた。
オレは上半身を起こし、
「よう、おはようさん。エリーにしては早起きだな。」
「…………」
ん?
しかし、何故かエリーからの返事がない。
オレはベッドから立ち上がると棒立ちしたままのエリーの前方に回り込む。すると、
「zzz……」
「──………コ、コイツ、立ったまま寝てやがる!」
彼女は立ったままで眠っていた。
オレはため息ひとつ吐き、エリーを放置することにしてベッドの側に戻って寝間着から普段着に着替える。
──は? 立ち寝したままのエリーのことは放っておくのかって? 当たり前だろ。異性に対する下手な親切心、セクハラ認定の元だからな。閑話休題。
宿屋一階にある食堂で朝メシを喰ってきたオレは泊まっている部屋に戻ると、昨日の続き──戦利品の整理に取り掛かる。
ちなみに、エリーはいまだに立ったまま寝てるぞ。
オレはベッドに腰掛けると枕元から本の山──っつっても五冊だけだけどな、を手元に寄せて順繰りに本の内容を確認していく。
一冊目。パラパラと頁を捲りざっと内容を確認すると、どうやらこの本は、
「……ふむふむ、へぇ~! 敢えて、調味料を入れる順番を変えると味変する料理があるのか……」
料理本だった。独自のレシピ等がキレイな文字で書き込まれており、筆者が料理に対して熱い情熱を傾けていることが窺える。
次。
料理本を閉じて山の横に置き、山から二冊目の本を手に取る。
二冊目。一冊目と同じくパラパラと頁を捲りざっと内容を確認。どうやら、この本は小説のようで、
「……こいつは『フェーリス・スム』の原稿本か!」
オレなんかでもタイトルは知っている超有名小説の原稿本。作者自らの手直しや注釈などが書き込まれており、マニア垂涎間違いなしの超お宝本だ。
次。
小説の原稿本を料理本の上に重ね、山から丁寧な装丁の本を手に取る。
三冊目。パラパラと頁を捲れば魔法陣などが描かれており、この本が魔導書であることを如実に示していた。が、
「……字、汚ったねーな……。書いた奴自身、自分が書いた文字を読めるのか?」
ひと目で目的の『モノ』ではないと判明したので、直ぐに閉じて小説の原稿本の上に重ねる。
次。
残るは二冊。先に表紙に服を開けた女の絵が描かれた方を手に取る。
四冊目。本を開くと、そこには近年になって開発されたフルカラー印刷を用いた──、
「……春画の画集……か」
オレはそっと本を閉じて、汚い字で書かれた魔導書の上に画集を重ねる。
次で最後。
五冊目。手に取り本を開くとそこには、
「──間違いない、コレだ。」
依頼されたときに見せてもらった“依頼主の筆跡”とまったく同じ筆跡で書かれた魔道研究の成果を記した魔導書。
現代の五大賢者が一人──光の賢者『アイン・アルバート・シュタイン』が自らの研究成果の全てを書き記した魔導書。『光の賢者アインの書』だ。
オレは『コイツ』をリュックの中へと丁重に仕舞う。
──あとは、『コイツ』を魔道都市マシカにある『魔道士組合の地方統括支部』に届ければ依頼達成だな。
「さて、『アインの書』は無事に奪還できたのはいいとして、コイツらはどうすっかな?」
オレにとっては“ハズレ”の四冊の本を見やり頭を悩ませる。
「──何々? コレ、どうしたの? ってか、何コレ? エロい絵ばっかじゃない!」
どうやら、エリーが起きたようだ。ってことは、もう昼か……。
「……そりゃ、春画の画集だからな。エロい絵ばっかだろうよ……」
何故かエリーは鼻息荒く、彼女は手にした画集に釘付けだった。
──小一時間後。
エリーは画集を隅から隅まで見て満足したようで、画集を閉じると今度は汚い字で書かれた魔導書を手に取った。
ちなみに、オレはエリーが春画に夢中の間に昼メシを喰ってきた。閑話休題。
「──お兄ちゃん、コレ、見てよ! 『ダユの書』だよ! 『ダユの書』! しかも、オリジナル原本ッ!!」
「……ふーん、そうか」
いったい、エリーが何に興奮してるのか、魔道に疎いオレには分からなかった。っつうか、
「『ダユの書』ってなんだ?」
「え?! お兄ちゃん、知らないの?」
「知らん。」
「あのね、『ダユの書』っていうのはね────」
エリーが語った内容をまとめると次のようになる。
──『ダユの書』とは、約二千年前に存在した『魔導王』との異名を取った『トリキス』なる魔道士が書き残した十二冊の魔導書──その内の一冊が『ダユの書』なのだ、とか。
エリーの『ダユの書』からの『魔導王トリキス』に対する熱弁は日が沈むまで続き、辟易したオレは「晩メシ、奢るぞ」と、今日一日まだ何も食べてなかった彼女の胃袋を刺激して、その地獄からなんとか抜け出したのだった。




