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──チッ。
オレらがマシカの北門に到着したとき、すでに黒外套たちの姿がないのは分かっていたが、
「まさか、奪った馬以外の馬を皆殺しにするとは……」
イーシュの言った通り、北門側の馬貸し屋の馬はすべて殺されていた。いまから他所の門の側にある馬貸し屋に行っている時間の余裕は無い。これは、万事休すか……?
しかし、エリーが何か閃いたようで、
「──ねえ、お兄ちゃんが下りの坂道をショートカットするときに使ってる風滑板を使えば、追いかけられるんじゃない?」
と、提案してきた。だが、
「どうするんだ? その呪文は坂を滑走するだけだぞ?」
そう、風滑板は、単に雪山でなくとも傾斜を滑れるというだけの呪文だ。
「それはね────」
──さて、エリーの提案の内容はというと、“風滑板は地面からほんの僅か浮いているので、平地で呪文で追い風を起こせば滑走できるんじゃね?”というものだった。確かに、オレも風滑板を使っていて思ったことはある。が、なにぶん人間には呪文は基本的に同時に二つは使えない。なにしろ、呪文にはすっげー集中が必要だからだ。しかしだ、魔術が使える人間が二人以上いれば話は変わる。
オレらはマシカの北門を出た直ぐのところで、準備に取り掛かる。
「カクサン風滑板」
魔導道具『カクサン』を用いて、普通は一つしか生成されない『風の板』を複数──三つ作りだす。さて、オレらは四人なので、
「わたしがご主人様に同乗させもらいます」
と、ターミがオレの後ろに乗る事に。そして、次は平地でも滑走するための“追い風”だ。
これは、イーシュに頼んだ。
「皆さん、準備はいいですか? それでは、いきますよ、烈風」
魔道士組合の支部長室に充満していた土煙を払うのに使った呪文だ。背後から吹く風によってオレらは各々が前方へと押し出される。予想を少し超える速さに冷や汗が頬を伝うが、風の板の上でバランスを崩すこともなく滑走できている。
さて、魔道都市マシカの北側には広大な草原地帯が広がっており、そこには野生動物やら遊牧民が暮らしている。幸い、現在の時期は遊牧民たちは草原地帯の遥か西の方で放牧しているので、これから少し派手に暴れても人的被害は無し。
ちなみに、“風滑板で黒外套たちを追いかける作戦”の最初の追い風を担当していたのは、発案者のエリーだった。しかし、エリーが使う“爆上打飛を横方向に向けて使う”という初期案は没になった。理由は察してくれ。閑話休題。
「ご主人様、追い付きましたよ!」
オレの腰をギュッと両手でしっかりと掴み後ろに乗っているターミの言葉に思考に耽っていた意識を浮上させるオレ。
幾度目かのイーシュの呪文による追い風で、漸く、黒外套の背中を捉えたオレたち。しかし、黒外套たちに近付くにつれ、違和感を覚える。何故なら、黒外套たちは馬を奪って逃げた筈なのに、現在は馬の姿は見当たらず、黒外套たちは武器を構えて『何者かたち』と対峙していたのだ。




