34
オレはそれからも『光輝の弩』の光の矢で黒外套たちを仕留めては、魔力の縄で絡め取るのを繰り返し、遂に最後の一人の背中に光の矢が突き刺さり、オレが追っ掛けていたグループの黒外套を全員仕留めた。しかし、解せん。オレは最後の一人をも魔力の縄で絡め取りながら考える。此奴ら、ただ“逃げるだけで、反撃もなにもしてこなかった”のだ。
そして、顔を上げると視線の先には、オレと同じく追っ掛けていた黒外套たちを捕縛したエリーとターミに、一人先行して黒外套を追っていたイーシュの姿。
「──どうやら、この者たちは囮のようですね。」
「……そういうことか!」
イーシュの言葉にオレが感じた疑念が払拭された。三手に別れた黒外套たちを追った先で、偶然にも合流したオレたち。そして、追っていた黒外套たちは捕縛または斬り伏せられたが、オレらは誰一人として『アインの書』を奪還していない。詰まり、コイツは黒外套たちによって仕組まれた罠。『アインの書』を持った奴は、オレらがその他大勢の黒外套を追っているうちに全くの別方向から逃げ果せる算段だったのだ。
「ちょこざいな真似を!
お兄ちゃん、望遠鏡を持ってるよね?」
「あ、ああ」
黒外套たちの罠に地団駄を踏むエリー。だが、彼女は直ぐに思考を切り替えると何故かオレが『望遠鏡』を持ってきてるかを訊ねてきた。いったい、エリーは何を?
「これから、風の呪文でお兄ちゃんを空に打ち上げるから、余裕ぶっこいて逃げている黒ずくめの連中を捜して!」
──……………………は?
「……なんの冗談だ?」
「冗談じゃないよ、お兄ちゃん。高い所からなら視界が広いから、黒ずくめで目立つ連中を見付けるのは容易いわ。それに、“落下速度を軽減する”呪文を使えば、多分、無事に着陸できるハズだから」
──……おい!
エリーのトンデモない提案にオレは、
「こういうのは言い出しっぺが危険を請け負うのが常套だろ?」
言い返し、懐から取り出した望遠鏡をエリーに差し出す。だが、彼女はオレが差し出した望遠鏡を受け取らずにすまなそうな表情をすると、
「ゴメンね、お兄ちゃん。あたし、“落下速度を軽減する”呪文──アレ、使えないの。ってか、あの呪文、魔術の制御が激ムズ過ぎて天才魔道士のあたしを以てしても手に余るのよ。むしろ、なんで魔道の基礎も識らないお兄ちゃんが、“難なく扱えるのか?”が世界七不思議より不思議よ!」
そう返してきた。っつうか、“あの呪文”はエリーが言うほどムズいのか? そんな事を思いつつも、徒に時間を浪費しては『アインの書』を持った黒外套に逃げられてしまうので、やむを得ないがオレは腹を括る。
「……わかった。」
オレは縛引運縄を解除してから皆から距離をとり、オレが捕まえた連中に一人ずつ『光輝の弩』で駄目押しの一矢を撃ち込んで、それから耳栓を取り出して着ける。ちなみに、この耳栓は安眠グッズではなく、諸君らは忘れているだろうが前述した“エリーが得意とする広範囲無差別攻撃魔術”で生じる轟音から耳を保護する為のものである。閑話休題。
オレは準備完了と手を振ってエリーに合図。すると、エリーの口が呪文を唱え始める。そして、エリーの口が『爆上打飛』と力ある詞を紡いだ──。




