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──陽が傾き、空が茜色に染まりだした頃。
広場でのリサイタルは終幕となった。オレが手にしていた魔術で顕現させていたヴァイオリンは持続時間が切れて魔力の残滓となり、空気の中へと消えていった。同時に、歌い手だった女も、空気に溶け込むようにスゥーッと姿を消したのだった。
オレは最後のお捻りを拾い集めると、ソレ等をかばんの内ポケットへと仕舞おうとしたが、さすがマシカは大都市だけあって、既に内ポケットに収まり切らないほどのお捻りでショルダーかばんの中は満たされていた。
「……まさか、初日のたった一日でこれ程まで儲けられるとはな。
昔、行き倒れの吟遊詩人を助けた際、吟遊詩人からのお礼の申し出に、“何かの役に立つかも”とそのお礼を“音楽の講義”にしてよかったぜ。過去のオレ、ありがとうよ!」
過去の自分に感謝しつつ、オレがかばんの中身を撫でながらホクホクしていると、
「──ご主人様! スゴかったです!」
家路や夕食に向かう通行人の波を掻き分けて出てきたターミと目が合った。そして、彼女はオレの傍へと駆け寄ってきて、先の賛辞を述べたのだった。
「よう、オレの演奏、聴いてたのか?」
「はい、ご主人様。ご主人様の演奏、とてもステキでした!」
「そうか、そいつはありがとよ。」
「──まさか、お兄ちゃんに“そんな才能”もあったなんてね!」
ターミからの誉め言葉にオレがこそばゆさを感じていると、そこへ、ターミの魔道の師匠であり現在は彼女に付きっきりで魔道の勉強を教えている旅の連れのエリーもやって来た。エリーの手にはそこら辺の屋台で買ったのであろうドリンクが三つ。
エリーは手に持ったドリンクの一つをターミに渡し、もう一つのドリンクを、
「はい、お兄ちゃん、喉渇いたでしょ? あたしの奢り。」
と差し出してきたので、オレは、
「ありがとよ」
と、ありがたく受け取る。
「師匠、ありがとうごさます。」
ターミもエリーに礼を言うと、早速、ストローに口を付けた。そして、一口啜って喉を潤したターミはストローから口を離すと、
「……ところで、ご主人様。演奏するご主人様の“隣で歌われていた女性”はどなたですか? ご主人様が手にされていた楽器が消えたのと同じタイミングで、姿を消されたようですが……」
『アレ』について質問しをてきた。そして、どうやらエリーも『その事』が気になるようで、ストローを咥えてドリンクを啜りながらチラチラとオレの方に視線を送ってきていた。……ま、隠す必要もないので、オレは説明した。
「ありゃあ、『アニマ』だ。」
「『アニマ』さん、ですか?」
「違う違う。『アニマ』っつうのは、“男の心の中にある女の部分のこと”を言うんだと。オレも聞きかじりの話だから、これ以上は上手く説明できねぇ。」
「は、はあ……」
オレの説明を聞いても要領を得ないターミ。でも、然もありなんだ。オレ自身、いまだに心の賢者のユングじいさんが話してくれた話の内容をほとんど理解出来ていないので、勘弁してほしい。
「兎に角だ、オレはその『アニマ』を呪文で“楽器同様に顕現”させたんだ。」




