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「──まさかとは思いますが、この『光の賢者様の書』も──?」


 応援セットのテーブルの上に置いたままになっていた『アインの書』を手に取り、更なる質問をしてきたゴドウェン支部長。この問いに対しても、オレは嘘偽りなく、

「ああ、読めるぜ。なんなら、さっきと同じく『本』に載ってる呪文を使ってみせようか?」

「……いえ、それは結構です」

 答えた。そして、ここにきて、ようやく立ち直ったモーツァが、ゴドウェン支部長に向けて口を開いた。

「支部長、その“『読めるのか?』”という質問にはどのような意図が、お有りなんですか?」

 オレもゴドウェン支部長の“その質問”に対する引っ掛かりを覚えていた。なので、彼がモーツァの問いに返す答えに耳を傾ける。

 ゴドウェン支部長はしばし逡巡した後、(おもむろ)に口を開く。

「──現代五大賢者様たちが書き記された『魔導書』は各々が特殊な加工を施したインクで書かれている。そして、これらの『魔導書』を読み解くには、各『魔導書』に対応した素質が必須なのだ。故に、素質が()()者には読むどころか、書かれた文字を見ることも叶わない。

 ──詰まり、モーツァ君が、君のお祖父様である音の賢者様が書かれた“『魔導書』の中身が()()だった”のは、モーツァ君に“音の賢者様の『魔導書』を読む為の『素質』が()()()()”からだ。」

 ──……そうだったのか……。それで、オレにはちゃんと『本』の中身が見えてたのに、モーツァの目には白紙にしか映らなかったのか。

「……そ、そん……な……」

 ゴドウェン支部長が告げた衝撃の真実に“祖父の後継者を自負”していたモーツァはガックリとへたり込む。然もありなん。

 ──ま、これにて“『魔導書』の中身が白紙だった”問題は無事に解決。今度こそ、お暇するとし──、

「──ところで、ラクル殿。先程、モーツァ君が貴殿のかばんから取り出した『もう一冊の中身が白紙の魔導書』は、もしかして──?」

 ──しようとしたところへ、ゴドウェン支部長からの追加の質問がきた。ぶっちゃけ、そろそろ宿屋に帰ってゴロゴロと昼寝したいのだが……。しゃーない。後もう少し、付き合ってやるか。

「──ああ、ご察しの通り、『コイツ』は“世話になった、『心の賢者』って呼ばれてる、ユングじいさんから「──土産に──」って”もらったもんだ。」

 オレはかばんの中から心の賢者であるユングじいさんが書き記した『ユングの書』を取り出して、ゴドウェン支部長の問いに答える。

「…………、……い、一応、お訊ねするが、ラクル殿は、その心の賢者様の『魔導書』も……?」

「当然、読めるぜ。」

 そうオレが返すと、ゴドウェン支部長は片手で自分の顔を覆い俯き、なにやらブツブツと独り言を言いながら考えに耽る。

 オレはゴドウェン支部長が思考に耽っている間に『ユングの書』をかばんの中に戻し、取り敢えず、ソファーに座り直して、ゴドウェン支部長が思考の海から戻ってくるを待つ。


 ──ゆうに五分ほど経過後。

 漸く、思考の海から戻ってきたゴドウェン支部長は自分の顔を覆っていた手を離して顔を上げると、

「──……これは、“噂の域を出ていない話”なのですが、五大賢者様たちは隠居なさる前に、五人お揃いで共同研究をさなっていたそうです。


 ──そして、その研究成果を“バラバラの断片に分かち、各々方の研究著書の『魔導書』の中に潜ませた”との事。


 この意味が、ラクル殿にはお分かりですか?」

 そう、オレに問うた。

 ──まあ、ゴドウェン支部長が語った噂話をそのまま鵜呑みにしたなら、“『五大賢者の書』を全て集めたら、トンデモない呪文なり魔道の知識が手に入る”ってことだろう。尤も、魔道には興味が無ぇー、オレにはどうでもいい事だがな。

「さあ? オレ、魔道には興味ねぇーからな。」

 オレは自身の胸中をそのまま口にする。そんな、オレの言葉に色めき立ちかけたゴドウェン支部長は、

「そ、……そうですよね。何分、噂話ですし、魔道士ではないラクル殿には無関係の話でしたね。失礼しました。今の話は聞かなかったことに……」

 平静を装いながら、そう返してきた。

 ──さて、これで本当のホントに話は終わりだろう。

 オレはソファーから立ち上がり、

「そんじゃ、オレらは、これで失礼する。」

 そうゴドウェン支部長に告げた。

 オレはオレに続いてソファーから立ち上がったエリー、ソファーの横に立ったままだったターミを引き連れ、案内人という役目を思い出したモーツァが開けた扉をくぐり、魔道士組合の支部長室を後にしたのだった。






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