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あれから、商隊の馬車に同乗させてもらい、逗留している町に戻ったオレ。
野盗たちは町の門扉の所で憲兵に引き渡し、商隊の商人からは目論見通りの昼飯代ほどの謝礼金を貰った。
「──さて、遅めの昼メシを食べる前に宿屋に戻って“荷物”を置いてくるか。」
魔導道具で重量を軽減してはいるが、いつまでも背負っているのはさすがにキツくなってきた。
オレは人混みの中を縫うように進み、泊まっている宿屋へ向かって歩を進める。
──コンコンコン。
「入るぞ。」
オレはノックの後に中にいるかもしれない同室の相手に合図してから、泊まっている宿屋の部屋のドアノブを捻る。
ガチャリとドアはアッサリと開き、部屋の中へと足を踏み入れる。
部屋の中は小さなサイドテーブルが一つとベッドが二つ並ぶ、よくある二人部屋だ。
中天を過ぎた陽光が開かれた窓から差し込み、室内を白に染めていた。
「あ! おかえり。」
そう出迎えの言葉を発したのは、現在のオレの旅の連れの女魔道士──エリティア・ガヴリニス。
陽射しに煌めく明るい茶髪を風に靡かせ、顔を此方に向けているエリティアこと──エリー。
「おう。ってか、今更だが、お前には恥じらいいってものはないのか?」
オレはマントに隠れていたパンパンに戦利品が詰まったリュックを自分が使っているベッドの上に「よっこいしょ。」と置きながら、着替え途中で柔肌を晒しているエリーに問うた。
「別に。歴史に『稀代の天才大魔導』としてその名を遺す予定の、この、あたしが異性に裸を見られた程度で恥じらうなんて、そっちの方が恥よ。」
「さいですか」
そういや、エリーは物心ついてからずっと「英雄譚に出てくるような大魔導になる!」と言ってたな。オレが実家から家中に隠されたへそくりと自分の小遣いを持って旅立った時、こいつは確か……五歳だったから、あれから十五年余り経つというのにいまだに目標とする夢がブレてないとか、称賛するよ。口には出さないがな。
「んじゃ、オレは昼メシ喰ってくるから」
「ちょっと待って。あたしも寝起きで、お腹ペコペコだから一緒に食べる!」
「なら、早く着替えを済ませろ。下で待ってる」
「はーい」
エリーの返事を背中に聞きながら荷物を降ろして身軽になった身体を翻し、泊まっている部屋から出て行くオレ。
「おまたせ、お兄ちゃん」
宿屋一階のカウンター前のエントランスで待つことしばし。いつも通りのパンツルックにベージュのグローブとフード付きマントを羽織りライトブラウンの長髪を襟元あたりで結んだツインテールの出で立ちのエリーが階段を下りてきた。
──さて、ここでひとつ述べておくと、オレはエリーに『お兄ちゃん』と呼ぶようにしいてはいないぞ。そりゃ、コイツがおしめをしてる時からの知り合いだ。実家が近所だからな。だが、先にも述べたが、コイツが五歳の頃にオレは故郷を飛び出したのだ。エリーの親に頼まれて世話をすることもあったが、幼馴染みというにはあまりにも付き合いは浅い。なのに、だ。この大陸に上陸して直ぐ、約十年ぶりに再会したエリーは、開口一番に「あー! お兄ちゃん! 久し振り!」と声を掛けてきたのだ。詰まりは、エリーがオレのことを勝手に『お兄ちゃん』と呼んでいるんだ。分かったかな? 閑話休題。
「んじゃ、昼メシ喰いに行くか。」
「うん♪」
オレは踵を返し、エリーを伴って昼メシを喰いに宿屋から出掛けるのであった。




