1
「──お! いたいた。」
現在や使う者は野盗ぐらいの旧街道が通る山の中腹。
空には雲もなく、サンサンと陽光が降り注ぐ快晴の中、オレこと──ラクル・ネフェニスは望遠鏡を持ってバードウォッチング……──ではなく、とある事情からこの辺り一帯周辺の索敵をしていた。
「さてさて、奴等が戻ってくる前に──……ん!? ──おうおう、このままじゃ、あの商隊ヤバい事になるな……」
何気なく望遠鏡を横に動かすと、そこには森の合間を縫う新街道を進む荷をたんまりと積み込んだ幌馬車が列をなす商隊ご一行の姿。オレは望遠鏡を覗きながらピントをつい先ほど発見した連中──凡そ三十人規模の野盗たちに戻し、再び、商隊を見る。
見事なまでの遭遇一直線。しかも、野盗は斥候を出していたようで、前方から戻ってきた二人に首領と思われる男が耳を傾けるとニヤリと口の端を上げて嗤った。
──コイツは、
「──いいカモ……じゃなかった、いい小遣い稼ぎになりそうだ♪」
オレは望遠鏡を懐に仕舞い込むと、当初の予定を変更して、野盗たちに狙われている商隊の連中を手助けするため、ひいては小遣いゲットの為、
「行くとしますか!」
──天地を自在に駆け抜けるものよ
我の求めに応え
我に疾駆する風を与えよ
「風滑板」
この呪文はかつてオレと旅をしていたダチ公から教わったものだ。ダチ公、曰く、なんでも、冬の雪山レジャーの一つである“スノウ・ボード”をヒントに、とある魔道士がこの呪文を開発したんだと。
ま、要は雪がなくとも“スノボー感覚で坂を滑る爽快感”を得られる魔術ってワケだ。
オレは風でできた板の上に乗ると、躊躇わず山の中腹から緩やかな斜面を風のボードで滑走する。
「ヒャッホウッ!」
風切り音と共に視界の風景がグングンと過ぎていく。
──さて、山の中腹から見た商隊と野盗たちの位置から予測した遭遇ポイント付近で、風滑板を解除し、野盗に奇襲を仕掛けるための攻撃呪文の詠唱を開始。
魔術への集中が逸れないようにしながら、そっと茂みから覗くと、そこには──、
「──出やがったな! 野郎ども、野盗どもを蹴散らせ!!」
「はっ、ほざけ! たかが十人足らずの傭兵風情が、舐めんな!!」
──一触即発の状況。商隊を護衛する傭兵たちが先頭馬車の前方でズラリと並んで武器を構え、野盗たちも臨戦態勢。
そして、幸いにもオレの呪文が戦闘が始まるより前のタイミングで完成した。
オレは魔術を解き放つ前に、腕に嵌めている魔導道具を起動し、
「おい! 傭兵さんたち、援護するぞ! カクサン霊貫槍!」
オレは傭兵たちに“自分は味方だ”と声を上げながら茂みから飛び出し、野盗たちの注目を集めると同時に攻撃魔術を解き放つ!
オレの手元から解き放たれた一条の光の槍は野盗たちの頭上に向かって飛ぶ。
それを見た野盗たちは、
「おいおい、何処に向けて魔法を放ってんだ?」
「あはは、飛んだ間抜けだぜ!」
等々とオレをバカにする。だが、オレが放った光の槍は野盗たちの頭上の頂点に到達すると、呪文を放つ前に起動した魔導道具『カクサン』の効果で“無数の光の針となって”野盗たち目掛けて針の雨となって降り注いだ。
「あん? ガッ?!」
「おい!? ング……」
「──ンナッ?! 眠りの呪文……だと……」
残念。そいつはハズレだ。
オレが使ったのは相手の精神にダメージを与える呪文の『霊貫槍』だ。この呪文を教えてくれた相方曰く、「この呪文なら、相手を殺すことなく撃破鎮圧できるわ!」だそうだ。
ちなみに、この呪文を教えてもらった翌日にオレは早速試し撃ちをした。人間、新しいものを得たら試したくなるのはよくある事。んで、町を散歩してるときに女性を薄暗い路地へと連れ込もうとする悪漢二人を見掛け、オレは覚えたばかりの呪文を使ってその二人を撃退──もとい、昏倒させた。そして、其奴らは数日後に外傷も病気もないのに昏倒したまま死に絶えた。ただ不幸中の幸いは、其奴らが極刑間違いなしの強姦殺人犯だったこと。なにしろ、町の中じゃ悪人だろうとも証拠も無しに殺害したら殺人罪に問われるからな。閑話休題。
──さて、
「野盗どもは今のオレの呪文でへばってる。一気に叩く好機だ!」
オレは腰から剣を抜きながら、傭兵たちに声を掛ける。しかし、なぜか傭兵たちはボカンとして突っ立ていた。
「おい? 今が好機だぞ。おい!」
改めて、声を掛けると傭兵のリーダーと思しき一人が、
「……いや、野盗ども、全員気絶してるぞ。お前が放った呪文で──」
「──はい?」
傭兵リーダー(仮)の言葉に、今度はオレがボカンとなった。
ぐぎぎ……と、首を動かして野盗たちの方を見れば、確かに野盗どもは全員地面に臥していた。
…………。
なんとも言えない、ビミョーな沈黙。
「……ま、まあ、取り敢えず、アンタのおかげで助かったよ。」
そんな、ビミョーな沈黙を傭兵のリーダー(確定)が謝辞で破ってくれた。
「……あ、ああ。どういたしまして。」
オレは抜いた剣を鞘に戻しながら、傭兵たちへの方へと近付く。
「オレはラクルってんだ。見ての通り、しがない旅人だ。」
自己紹介しつつ敵意はないと営業スマイル。
「そうか。俺はガイツ。この商隊の護衛を引き受けている傭兵団の纏め役をやってる。」
そう自己紹介してきたガイツは手にしていた得物を収めると、傭兵仲間に指示して気絶した野盗どもを縛り上げさせる。その間、ガイツは野盗どもを縛り上げていく仲間たちを見ながら、
「なあ、アンタもしかして、“世直しラクル”か?」
そう問い掛けてきた。
その問いに対して、オレは表情を変えることもなく、
「いや、オレはその“世直しラクル”と名前が同じなだけだ」
いつも通りの返答をする。
「ふーん、名前を聞いて、てっきり噂の“世直しラクル”かと思ったぜ。」
「ハハハ、オレにはそんな“世直し”なんて大層なことなんて、ムリムリ……──」
──っつーか、こっちの大陸に渡って、“そんな”噂話があってビビったぜ。マジ、本当。一体全体、何がどうなって“世直しラクル”なんて噂話が出来たんだ? そりゃ、確かにオレはその元ネタと思われる“世直し”に致し方なく関わっているっちゃあいるが、向こうの大陸ではオレではなくダチ公がその“世直し”の主役だった。それがどういうワケか、海を渡ったらオレが主役とか、なんの冗談だ……。
「──確かに。言っちゃ悪ぃが、確かにアンタの顔は世直しって感じじゃねーな」
「……まあな。」
自分でもそう思うぜ……。




