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「待ってよ!!」
「あん?」
音の賢者の『魔導書』をかばんの中に仕舞おうとした手首を唐突に掴まれて、オレは“オレの手首を掴んだ奴”を仰ぎ見る。
それは、案内人の女魔道士だった。
ソファーの背もたれの背後から、身を乗り出して『ヴァンの書』を持つオレの手の手首を掴んでいる女魔道士。ってか、近っ!?
「──その『お爺ちゃんの魔導書』、ぼ……私に渡してください!」
「は?」
女魔道士──賢者の孫の横柄な言葉にオレは眉をひそめる。そして、ペシッとオレの手首を掴んでいる彼女の手を払い、ソファーから立ち上がって回れ右して賢者の孫と相対する。
「お前さんさ、いきなり“他人様の預かり物を寄越せ”とか、どういう了見だ? いくら、依頼人の孫だからと、勝手に持ってかれたんじゃ、盗っ人や野盗と変わんねーぜ!」
しかし、賢者の孫はオレの言葉など聞いてないのか視線はオレが手にしている『ヴァンの書』に釘付け。
「──モーツァ君! 客人に失礼ですよっ!」
ゴドウェン支部長が賢者の孫こと──モーツァの態度を叱責するも、これまた無視で『ヴァンの書』にご執心だ。
試しに、『ヴァンの書』を持った手を上下左右へと動かすと、ペットがエサや遊び道具の動きに合わせて首を振るがの如く、モーツァの首も追随してきた。
更に、試してみる。
「音の賢者から“「『魔導書』の中身は見ても構わない」”って、言われてるが、『魔導書』の中身を見るか?」
オレのこの問い掛けに、モーツァは、
「本当!? 見る! 見せて! ってか、お爺ちゃんの研究成果を受け継ぐのは、ボクこそが相応しいんだから、寄越してよ!!」
またもや横柄な言動で、オレから『ヴァンの書』を掻っ攫おうと手を出してくる始末。
「モーツァ君、止めなさいっ!」
再度、ゴドウェン支部長がモーツァを叱責するも聞く耳持たずで、ゴドウェン支部長の怒鳴り声に一瞬止まってしまったオレの手から彼女は遂に『ヴァンの書』をもぎ取ってしまった。
「あは♪ ゲット!」
「……」
オレは睥睨しながら、ため息を吐く。
“預かり物”である以上、『ヴァンの書』は返してもらわないとオレが困るワケだが……、モーツァから取り返すのは難儀しそうだ。と、オレは胸中でごちる。
念願の『ヴァンの書』を手にしたモーツァは案内人という役目を忘れて、嬉々として『ヴァンの書』を開く。
しかし、『ヴァンの書』の頁を捲る度にモーツァの表情は唖然から困惑、困惑から怪訝、そして、何故か憤怒に変わった。そして、終には、
「なんなんだよ、『コレ』!? “本の中身が全部真っ白で、何も書かれていない”じゃないか!?」
そう吼えると、モーツァはあろう事か手に持った『ヴァンの書』を絨毯が敷かれているとはいえ床に叩き付けやがった!?
「って! 何しやがる?! この女!!」
オレはすかさずソファーを飛び越え、床に叩き落とされた“頁が開いたままの『ヴァンの書』”を拾い上げた。そして、拾い上げた『ヴァンの書』が絨毯が敷かれていたとはいえ床に叩き付けられた衝撃で頁が破れたりしていないかを確認。
「……ふぅ~、破損はなし、と」
幸い、『ヴァンの書』は一頁も破れていなかった。
「貴方ね! 『お爺ちゃんの魔導書』って言っておきながら、偽物を渡すなんて、どういうつもり?」
オレが顔を上げると、開口一番にモーツァから謂われの無い罵声が飛ぶというか、真正面近距離から浴びせられた。彼女の大声に、オレは『ヴァンの書』で両手が塞がっていたので、耳がキーンとなってしまった。
しかし、オレが今手にしている『ヴァンの書』は本物なのに、モーツァはそれを偽物呼ばわりとは、コイツは本当に“音の賢者の孫”か?
そんな疑問を思いつつ、やれやれと“呪文やら論文やら魔法陣等々が書かれている頁が開いたままの『ヴァンの書』”を閉じて、今度こそオレは『魔導書』をかばんの中へ──。
「──!? ちょっと、やっぱり“本物の方”は鞄の中に隠してたんじゃん!」
オレがかばんを開けた事で中身が見えたモーツァは、今度はかばんの中にある『魔導書』を奪わんと躍り掛かってきた!
「おい!? 何しやがる?! お前、マジで野盗と変わんねーな!」
いまだ手には『魔導書』を持っていた為、呆気なく、かばんの中にあった二冊の本を両方ともモーツァに奪われてしまった。
モーツァはオレのかばんの中から奪った二冊の本を見比べ、装丁に錠が付いている方は後回しにして、もう一冊の“『魔導書』──光の賢者並びに音の賢者と同じ『現代の五大賢者』の一人の心の賢者が書き記した研究著書『ユングの書』”の中身を見るモーツァ。
「……なによ、この本も全ページ真っ白じゃん!」
そして、またしても“意味不明なこと”を曰い、『ユングの書』を後方に投げ捨てっ……って!?
オレは咄嗟に『ユングの書』の落下地点に飛び込み、
「……セーフ……」
床に着く前に『魔導書』をキャッチ成功。マジなんなの? この女?
オレは『ユングの書』をかばんの中に丁寧仕舞い、続いて今度こそ『ヴァンの書』をかばんの中へ──、




