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魔道士組合の施設内に入ると、室内は図書館のように静謐がフロアを覆っていた。
オレは昨日も訪ねた外来受付へと向かう。
「すまない。昨日に支部長殿との面会のアポイントを取ったラクル・ネフェニスだ。」
「はい、ラクル様ですね。お待ちしておりました。すぐに案内の者が参りますので、しばしお待ちを。」
「ああ。」
受付の言葉を聞き、オレはカウンターを離れ、案内人を待つ。
待つことしばし。
「お待たせしました、どうぞこちらへ。」
黒髪短髪の快活さが滲み出ているローブ姿の女魔道士がやってきた。彼女が案内人のようだ。
オレらは、案内人の後に続き、迷路のような魔道士組合の建物内の廊下を目的地──支部長室に向けて歩を進める。
──コン、コン、コン。
案内人の魔道士が、ここに来るまでにあった他の扉よりも装飾の凝った木製の荘厳な扉をノックすると、
「どうぞ、入っていいですよ。」
扉越しに入室を許可する壮年男性の渋い声が響いてきた。
「失礼します。」
と、案内人の魔道士が断りを入れて、ガチャリと扉を開ける。
案内人の肩越しに開いた扉から室内を覗くと、支部長室の中は見える範囲一面がびっしりと本が並んだ本棚が目に付いた。次に床に敷かれた青色の高そうな絨毯が目に入る。そして、支部長室の中へと足を踏み入れると、視線の先には豪奢な机に向かい忙しそうに書類に目を通しては判を押す壮年男性の姿があった。彼がここの魔道士組合の支部長か。
案内人の女魔道士は扉をくぐってすぐに横に移動して、直立不動。
オレら全員が支部長室に入ると、案内人の女魔道士がガチャリと支部長室唯一の出入り口の扉を閉めて、再び、扉の横にて直立不動の姿勢。
オレは室内にある応接セットの手前で立ち止まり、
「オレはラクル・ネフェニス。光の賢者の依頼で“前任者が賊に奪われた『アインの書』を奪還して、ここに届けに”来た。」
ショルダーかばんから、『アインの書』を取り出して応接セットのテーブルに置くオレ。なにしろ、ここの魔道士組合の支部長が座っている仕事机には物を新たに置けるようなスペースが無い程に書類の山が占拠していた。
そして、この部屋の主たる支部長は動かしていた手をピタリと止め、判子を机の上の朱肉の横に置くと、椅子から立ち上がり、オレたちの方へとやってきた。
「これはどうも。挨拶が遅れまして、私が此処──魔道士組合地方統括マシカ支部の支部長を務めさせてもらっているゴドウェン・ハブレスです。
この度は、光の賢者様の研究著書である魔導書を無事に奪還し、当方まで届けて頂き誠にありがとうございます。」
「いえいえ、どういたしまして。」
ゴドウェン支部長が差し出した感謝の握手にオレは応じる。そして、握手を交わし終えたゴドウェン支部長はオレが応接セットのテーブルに置いた『アインの書』を手に取ると、懐からモノクルを取り出して掛けて、『アインの書』をペラペラと捲り中身を確認する。
「……はい、確かに光の賢者様の『魔導書』で間違いないですね。
いま、ラクル殿への報酬と光の賢者様から貴方宛てに届いた手紙をお待ちしますので少々お待ちを」
そう言うと、ゴドウェン支部長は掛けていたモノクルを外して懐に仕舞い『アインの書』は一旦応接セットのテーブルに置き、執務机の方へと戻った。そこで、オレからは直接は見えないが、ゴソゴソと机の引き出しの中を漁る音を響かせるゴドウェン支部長。




