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ベネディクト・ブレイブス〜声無き勇者と銀の少女〜  作者: 藤木 規史
第五話 プロジェクト・エンバーライト
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再炎計画②

「とりあえず、状況の確認だな」

そう言ってアレクは、リアナにオリヴァーの件を共有する。

「まあ、リアナに危害が及ぶかってなると微妙ではあるが……」

「けど、さっき視線を感じたよ。安心はできないね」

アレクの言葉を引き継ぎ、アリアが口を開いた。

トリスタンは少し考え込んだ。

「うん。俺とアリアは何とかなるとしても、アレクとリアナは心配だね。アレクは戦える?」

「スタン基準には無理だ。逃げるだけなら何とかなるかもしれないが」

「それで十分だよ」

トリスタンは安心させるように微笑む。

「けど、リアナがまだ狙われてる可能性がある。二人は何か心当たりある?」

トリスタンはリアナとアレクを交互に見て尋ねる。

アレクは少し考え込み、答える。

「留守にしてた幹部が残ってるが……」

「でも、それならどうしてオリヴァーを……その、あんなことしたのかしら?」

言葉を詰まらせるリアナ。

『殺した』という言葉をリアナは口にすることができなかったようだ。

「恨みを買ってそうだし、復讐か?」

「どうだろう。牢屋に侵入して実行してることを考えると、もっと早くに実行してもおかしくない?」

「あいつ小物だったし、口封じとか?」

アリアのその言葉に、トリスタンは反応する。

「……アレク、幹部には腕利きの護衛がついていたって言ってたよね」

「ああ。詳しくは知らないが、魔法使いが二人いる」

「そのうちの一人が、オリヴァー殺害の下手人っていうのは考えられないかな?」

「だが、護衛が雇い主を殺すか?」

「いや、雇い主がオリヴァーじゃなくて、その幹部だとしたら?」

トリスタンは少し目を閉じると、力強く開く。

「正直、オリヴァーは魔法が少し使える程度の男だった。そう考えると、今回の殺人だけじゃなく、偽リーゲル教団自体の──本当の黒幕はその幹部かもしれないね」

トリスタンは少し肩をすくめる。

「仮説だけどね」

その言葉に、アレクは考え込む。

「筋は通ってる、か」

「うん。私もそんな気がする」

アリアがコクコクと頷くのを見て、トリスタンは口を開く。

「次は方針、だね。最優先は、リアナとアレク、ドリスさんの安全確保。それが担保できるなら護衛と戦う必要はない。」

半ばアリアに言い聞かせるように続ける。

アリアも、真剣に頷いていた。

「もし戦闘になるなら、オリヴァー殺害の下手人──仮に蒼炎使いとするね。コイツは俺が相手をするよ。もう一人護衛がいるけど、どちらも同じ力量ってことはないと思う。さすがに二人とも蒼炎が使えるとは考えにくい」

鉄を溶かせる程の蒼炎使いはそう多くない。その上での判断だった。

リアナが心配そうな表情を浮かべていた。

「スタン君。守ってくれるのは本当に嬉しいけど、無理しないでね」

「大丈夫。俺なら不意をつかれない限り何とかなるよ」

「そうだね。スタンなら大丈夫。完封しちゃうよ」

アリアからの評価にトリスタンは苦笑する。

しかし否定するつもりもなかった。魔法使い相手なら、詠詩改律のあるトリスタンが遅れをとることはそうそうない。

方針が固まったところで、トリスタンは次の話を切り出す。

「後は──情報が欲しいね。いつまでも立て篭もるわけにはいかないし」

「相手が焦れて焼き討ちでもされたら悲惨だよな」

「それは大丈夫じゃないかな?もし私たちの命だけが目的なら、今燃やしてるよ」

その言葉に、リアナがチラリと窓の外を見る。

何事も起きていないのを確認すると、小さく安堵の息を漏らしていた。

「うん。でも、()()()()()()()に火をつけることは考えられるからね。そこは注意しよう」

アレクとリアナは無言で頷いた。

「ねえスタン。ここでリアナたちを守っていてくれる?私は街に出て情報探ってみようと思う」

「……うん。その分担が良さそうだね」

トリスタンとアリアは頷きあう。

アレクがそこに割り込んだ。

「なら、俺も行かせてくれないか?俺なら地理もわかるし、少しは知り合いもいる」

アリアはじっとアレクを見つめる。

「危険だよ?」

アレクも目を逸らすことなく、アリアを見返した。

「わかってる。けど、何もしないでいたくはないんだ」

「わかった。私の言うことは聞いてね」

「あ、ああ!もちろん」

リアナは何か言いたげにアレクを見ていた。

しかし、少し強張った笑みを浮かべると、アレクに声をかける。

「アレク……気をつけてね」

「ああ。無理はしないさ」

アレクは神妙な面持ちで頷いた。

トリスタンは懐から一通の羊皮紙を取り出す。

「アレク、これを」

アレクはその紙を受け取ると、首を傾げた。

「これは?」

「今回の俺たちへの依頼書だよ。リゲルサクセ防衛隊からの正式なものだ。ちょっと依頼内容からはズレるけど、話を聞くのに役に立つかもしれない」

「助かる。リアナを──頼む」

「もちろん。任されたよ」

トリスタンは微笑む。

アリアとアレクは簡単に準備をするとすぐに家を出ていった。

「リアナ、俺も最大限警戒するけど、何かおかしなことがあったら教えてね」

「うん。よろしくお願いします」

トリスタンは窓から周囲を伺う。外の景色に異常はない。ただ、生暖かい空気が、少し気味悪かった。


***


「トリスタンはリアナの護衛に回るはずだ。だからロジャー、お前はそっちへ回れ。単独で動いた奴がいたらダグラスに狩らせろ」

大将と呼ばれていた男は冷淡に指示を出す。

ロジャーは首を傾げ、質問する。

「構わんが、なぜあいつらの動きがわかる?」

「あいつらが知っていることは、蒼炎使いがいる、という情報くらいだ。おそらく、それが最大の脅威だとあいつは思うだろう。」

「……そのためにわざわざオリヴァーの始末をダグラスに?」

大将と呼ばれた男はニヤリと笑う。

「そうだ。そしてトリスタンは、その脅威を自ら引き受けようとするだろう。そういう風に、育ってるんだよ」

「そういうもんかねぇ。まあ、大将がそう言うなら従うけどな」

ロジャーは肩をすくめる。

「ただ、あいつに暴れさせるのは郊外にするぞ。ところ構わず火の海にするわけにはいかんだろう」

「ああ、手筈は任せる」

「あいよ、好きにやらせてもらうさ」

ロジャーはぞんざいに手を振ると、歩き去った。


***


アリアとアレクは偽リーゲル教の教会へと赴いていた。

衛士が一人、入り口前に立っているのが見える。

アレクは気さくにその衛士へ話しかけた。

「おっちゃん、何か詳しいことわかった?」

「アレクか。いや、あんまり進展はないな」

二人は顔見知りのようだ。

「こっちのお嬢さんは?」

アリアを目に留めた衛士がアレクに尋ねる。

「リゲルサクセから来た冒険者だよ。色々あってこの教団の調査してたんだ」

そう言ってアレクは防衛隊からの依頼書を取り出した。

「アリアよ。よろしくね」

紹介されたアリアはニコリと笑って挨拶をする。

「ああ。朝方、アレクから聞いてた子たちか。今回は災難だったな」

「あはは、命があっただけ良かったよ」

アリアは肩をすくめる。

「オリヴァー以外にも幹部を閉じ込めてたはずだけど、他の人は無事だったのか?」

「ああ、他の奴らは無事だった。そいつらの話を聞くに、殺されてたのはオリヴァーで間違いなさそうだ」

「そっか……」

アレクは一瞬言い淀む。

「あのさ、もう一人、セルシオって幹部がいたはずなんだ。そいつは姿を見せてない?」

衛士は少し考え込むが、首を横に振って答えた。

「いや、特に教団の関係者は見てないな」

「そうか……他に閉じ込めてた奴らは、犯人の顔を見てないの?」

「いや、見てる。見てるが……」

衛士は顎に手を当てた。

「兜を被っていたらしくてな。顔はわからないってことだ。ただ、おそらくダグラスじゃないか、とは言ってたな」

「ダグラス?」

アリアはおうむ返しに聞き返す。

「ああ、教団に雇われてた用心棒だと」

アレクとアリアは思わず目を見合わせた。それは、リアナの家で推測していた内容だった。

だとすると──相手の方が一手早い。こちらは後手に回る可能性があった。

「どうしたか?」

「いや、なんでもないよ」

アレクは表情を取り繕う。

「ちなみに、現場の地下を見せてもらったりは……?」

「アレクの頼みでも、それは無理だな」

「だよね。おっちゃん、ありがとう」

「おう、二人とも気をつけてな」


***


その後、二人は教会周辺の聞き込みを行ったが、芳しい成果はなかった。

二人は近くの公園を訪れ、少し休憩していた。

「なかなか情報がないね」

アリアが小さく呟く。

「ああ、下手人がわかったってだけだもんな」

「リアナの家に来るのがわかってれば待ち伏せしてもいいんだけど……」

「タイミングが分かってればな。常に警戒しとくわけにはいかないだろ。時間を選べる相手が有利じゃないか?」

「だよね。やっぱり地道に目撃者探すしか──」

言いかけたところで、アリアはアレクの首根っこを掴み、強引に押し倒した。

「ちょ、何を──」

直後、アレクの立っていた空間を蒼い炎が貫く。

「アレク、私が囮になるから逃げて」

アレクの耳元でそう囁くと、アリアは跳ね起きてナイフを抜いた。

「わかった!」

アレクが返事と共に駆け出すのがわかった。

炎が飛来した方角。そこには鈍色の鎧を纏った人影があった。

「やっ!」

掛け声と共にナイフを投擲する。

ナイフは狙い違わず頭へと命中するが、分厚い兜を貫くことはなかった。

しかし、意識をアリアに向けさせることはできたようだった。

男は炎の矢を作り出しアリアへ放つ。

アリアは素早く身を伏せ、それをかわす。同時に地面の石ころを拾い上げた。

体を起こすやいなや、それを人影へと投げつける。

それは吸い込まれるように兜に命中した。

ダメージはない。だが、わずかな衝撃と、何よりも着弾した時の音。それは兜をかぶっている人間にとっては不快なものだ。

アリアはニヤリと笑って手招きする。

鎧の人影が、ゆっくりとこちらへ歩いてくるのがわかった。

アリアはアレクの逃げた方向をチラリと見る。

彼はこちらを気にしながら逃げているが、十分な距離を取れているようだった。

それを確認したアリアは、人のいない方向へ駆け出す。この街の地理に詳しいわけではない。唯一知っている開けた場所──露天掘りの鉱床へと向かった。

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