表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/31

沈黙の血脈③

「すみません。俺はトリスタンと言います」

「どうも。アリアよ」

二人は受付の女性へと声をかける。

「いらっしゃいませ。どうされましたか?」

トリスタンはレイナードからの紹介状を見せた。

「リゲルサクセへの鉱石の納品が遅れているとのことで、調査に参りました」

女性は紹介状を確認する。

「確認しました。あちらの個室へどうぞ。責任者からお話しさせていただきます」

案内された通り、二人は個室へと進んだ。


少し手狭な室内には、テーブルと椅子しかなかった。天井は低く、少し息苦しさを感じる。

アリアが不安そうにトリスタンのマントの端を握った。

トリスタンはアリアに微笑むと、少し体を寄せる。

椅子を引き、アリアに座るよう促した。

「ありがと。ごめんね。」

「いいよ、気にしないで」


待つこと数分、小部屋のドアが開いた。

入ってきたのは、中肉中背の男だ。坑夫という体格ではないので、事務職なのだろう。

灰色の上着には、ところどころ煤の汚れが残っている。

神経質そうな眼差しで、せわしなく二人を交互に見つめていた。

「お待たせしました。」

少し無機質な声だった。

二人は男に自己紹介をすると、早速本題に入った。

「鉱石の納品が遅れているとのことで、リゲルサクセから調査に来ました。詳しくお話をお伺いできますか?」

その言葉に、責任者の男は一瞬固まる。

「え……ええ。お話しします」

彼はしばらく考え込むと、おもむろに話し出した。

「実は、採掘場にトロルが住み着いてしまいまして。採掘量が減ってしまっているのです」

「え、でもさっきケイリーさんは特に問題ないって言ってたよ?」

アリアが首を傾げる。

「えっ。あっ、そうですね。その、露天掘りしてる部分には影響がないのです。……ええと、坑道がありまして、そちらに住み着いているのですよ」

それほど暑いとは思わなかったが、男は額に汗を浮かべていた。

「なるほど。トロルであれば俺たちで討伐できると思います。お困りなら、なんとかしますよ」

男はハンカチを取り出し、汗を拭う。

「え、そ、そうですか。しかし、トロルは危険です。ご迷惑をおかけするわけには……」

トリスタンはニコリと微笑む。

「問題があれば解決しますよ。それが依頼ですから」

その言葉を受けて男は再び考え込む。

「わかりました。では一度、責任者に相談します」

「あれ、あなたが責任者なんじゃないの?」

アリアの質問に、男は動揺したようだった。

「あ……ええと。私ではなく、統括している者が別におりますので……と、とにかく、確認してきますのでもうしばらくお待ちいただけますか?」

「……わかりました。ここは少し狭いですね。受付の待合で待たせていただきます」

「わかりました。それでは失礼します」

男は踵を返すと、早足に部屋を去った。

足音が消えるのを待ってアリアが言う。

「なんか、怪しいね」

「うん。気をつけよう」


受付の待合に戻ると、ケイリーはもう居なくなっていた。

アリアはトリスタンのマントから手を離す。

しばらくたった頃、責任者を名乗る別の男が現れた。

その男も、先ほどの男と同じように坑夫という印象ではなかった。

坑夫と同じようなチュニックを身につけてはいたが、汚れなどは見当たらない。

細い目からはあまり感情が読み取れなかったが、穏やかな笑みを浮かべている。

男は、二人に頭を下げる

「トリスタンさん、アリアさん。話は聞いています。私はニルスと申します。」

「ニルスさん。よろしくお願いします」

「早速ですが、ご案内させていただいてもよろしいですか?」

「ええ。大丈夫です」

「かしこまりました。では、付いてきていただけますか」

「わかりました」

トリスタンの返事を待ち、ニルスは踵を返す。ギルドの外へと歩き出した。

トリスタンとアリアはお互いに頷くと、ニルスの後を追う。

「坑道は露天掘りで出来た谷の途中にあります。掘り終わった後、側面に鉱床が見つかりまして」

「なるほど、そこから横に掘り進めた。という事ですね」

「ええ、仰る通りです」

「トロルの数などはわかりますか?」

「おそらく一匹だけです。暴れ回るわけではないのですが、刺激するわけにもいかず……」

眉を顰めニルスが言う。

「なるほど、それは大変ですね」

情報共有をしながら歩く事数十分。谷の底へと続く階段を下り、坑道の前へと辿り着いた。

「ここです。しばらく進んだ先にトロルが居るはずです」

「ありがとうございます」

トリスタンはニルスに会釈すると、アリアに目を向けた。

「アリアはどうする?中に入れそう?」

「だ……大丈夫」

「わかった。俺から離れないで」

「うん」

そう言うとアリアは、トリスタンのマントをギュッと握る。

「では、行ってきます」

「はい。お気をつけて」



坑道内は狭く、冷たい空気が漂っていた。

幅は1アルマ(約七十センチ)、高さは3アルマ(約二メートル十センチ)ほどである。

並んで歩くには少し狭い。二人は縦列に並んで進んだ。

等間隔に配置された松明が道を照らす。

十分とはいえない光源であったが、何とか歩を進めることができた。

先頭に立つトリスタンが眉をひそめる。

「……トロルが居るのに松明が付けられてる。というのはちょっと怪しいね」

「うん。真っ暗じゃないのはありがたいけど……」

アリアはマントを掴む手に力を入れる。

「この狭さ、トロルが通れるサイズじゃないね。無理やり通ったような跡もない」

壁に掛けられた松明を手に取り、床や壁を調べる。

「スタン。嫌な予感がするよ」

「うん。気をつけよう」

トロルが居ないとしても、納品遅延の原因をつき止めなければならない。

それが冒険者──危険を冒す者の務めだ。


道を進むほど、胸の奥に違和感が積もる。

新しい採掘跡や足跡。明らかに人の出入りがある。

耳を澄ませても聞こえるのは水滴の音だけだ。

魔物の発するような匂いもなかった。

そこから歩くこと数分。少し広い空間に到着した。松明のか細い灯りは端まで届かず、どれくらいの広さなのか見当がつかない。

二人は警戒しながら先へと進む。

少し歩いたところで、アリアが掴んでいたトリスタンのマントを引っ張った。

「スタン。誰かいる」

トリスタンはその言葉を受けて周囲を警戒する。

やがて、闇の淵から人影が現れた。

坑夫だろう。屈強な体つきをした男が八人、二人を囲むように現れた。木の棒など、粗末な武器を持っている。

「大人しくしてもらおうか」

坑夫が二人に告げる。脅すような響きがこもっていた。

トリスタンは剣を抜く。研ぎ澄まされた刃の音が響き渡った。

「アリア、突破して脱出するよ。ついて来れる?」

アリアは無言で頷く。

それを確認したトリスタンは男たちに言い放つ。

「押し通ります。怪我をしたくないなら下がってください」

そう言うと、トリスタンは出口側の男へ、雷のように駆け寄った。

その動きに応じて男が棍棒を振り上げる。それが振り下ろされる瞬間、トリスタンは下から剣を打ち上げた。

棍棒が弾き上げられ、男はのけぞる。

すかさず後ろ回し蹴りを放った。

男はよろめき、後ろに控えていた坑夫もろとも後ろに倒れた。

「アリア!こっち!」

アリアの手を引き、トリスタンは出口へと駆ける。

だが、出口にも坑夫が三人、待ち構えていた。

トリスタンは小さく舌打ちする。

彼の判断は早かった。道を塞ぐ男たちへの距離を一瞬で詰める。

数が多いとはいえ男たちは素人だ。腕や足を打ち払い、瞬く間に彼らを制圧した。

しかしその瞬間、後ろからアリアの悲鳴が聞こえた。

「ちょっと!離しなさいよ!」

トリスタンは反射的に振り返る。

「アリア?!」

先ほど蹴り倒した坑夫たちが追いつき、アリアを押さえつけていた。

「大人しくしていただけますか?」

ニルスが現れ、トリスタンに声をかける。

「悪いようには、しませんよ?」

その口には笑みが張り付いていたが、目は笑っているようには見えなかった。

「……」

トリスタンは納刀し、両手を上げる。

背後に回った男がトリスタンの両手を縛った。

「スタン……ごめん」

力なく呟くアリアに、トリスタンは微笑みかける。

「ううん。大丈夫だよ」

そのまま二人は、街の方へ連行されていった。


***


連れて行かれた先は教会のような建物だった。新しいものではないが、あちこちに改修の跡が見られた。

武器と装備、そして声珠を取り上げられる。

二人は引き離され、別々に監禁されていた。

トリスタンが押し込まれたのは、窓ひとつない狭い部屋だった。小さな蝋燭が唯一の灯りだ。

薄いベッドが一つ。そのほかには何もない。

空気は湿っていて、カビの匂いが鼻をつく。

扉が閉まり、閂が落ちる音がすると、静けさが訪れた。

両手の拘束は解かれてはいる。一応扉のノブを回してみるが、当然のように鍵が掛かっていた。

蹴破る事はできるかもしれない。しかし、アリアの状況がわからない以上、迂闊に動くこともできなかった。

焦燥が胸を焼く。

トリスタンは深呼吸を繰り返し、それを押し殺した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ