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沈黙の血脈①

数日後。

トリスタンが昼食を食べ終えた頃、宿屋に訪問者がいた。

歳の頃は20代前半。赤い髪、燃えるような瞳。その雰囲気は、どことなく半神リーゲルを思わせる。

瓦礫の塔(ラストスタンド)」レイナード・ステイシア。守備隊長にして、リゲルサクセの『盾』と呼ばれる男だった。

「よう、スタン!ちょうどよかったぜ」

豪快に笑いながら、彼は手を振る。

「レイナードさん、こんにちは。俺に用ですか?」

「そうそう!二人に仕事頼みたくってさー」

レイナードは、何の遠慮もなくトリスタンの対面に座った。

「まあ、内容次第ですね。俺たちも予定があるので。あと、ちゃんとマスターを通さないと怒られますよ」

トリスタンは苦笑しながら返す。

「えっ……個人的に頼むのは無理?そっちの方が安くつくだろ」

全く悪びれないレイナード。

その後ろから、氷点下の声が飛んできた。

「レイくぅん?うちの冒険者に直接依頼するのはダメよ?」

リーザが笑顔で立っていた。

だが、その目は笑っていない。

「おっ、女将さん!失礼しました」

レイナードは背筋を伸ばすと、リーザに頭を下げる。

彼はリーザと二、三言葉を交わした後、トリスタンに振り向いて言葉をかけた。

「スタン、また後でな!」

半ばリーザに連行されるように、レイナードは店の奥へと進んでいった。


***


十分ほどして、レイナードが店の奥から戻ってくるのが見えた。

続いてリーザも姿を見せる。

「いいかい、レイ。さっきみたいにお金をケチっても、お兄さんは喜ばないからね」

まるでいたずらをした子どもを叱る母親だった。領主の弟であるレイナードに対しても容赦がない。

「はい!覚えておきます!」

ビシリと答えるレイナード。それを見て満足したのか、リーザは再び奥へと引っ込んでいった。

「おかえりなさい」

トリスタンは労うように声をかけた。

「おう。じゃあ、話を聞いてくれよ」

「ええ。ですが、お仕事は大丈夫なんですか?」

彼は守備隊長というだけでなく、領主の弟である。仕事は多岐に渡るはずだった。

だが、レイナードは何故か胸を張る。

「優秀な副官がいるから問題ない。俺の出る幕なんてないさ」

「それ聞いたら、レティシアさんは多分怒りますよ」

レティシアとはレイナードの副官だ。レイナードに変わって色々と守備隊の取りまとめをしている女性だった。

「……今のは聞かなかったことにしてくれ。

それより本題だ」

話を逸らすレイナード。

「ええ。どうぞ」

「よし。頼みたいのはな、モルデハイムの鉱山の調査だ」

モルデハイムという単語に、トリスタンはピクリと肩を動かす。

「鉱山、ですか?」

「ああ、あそこには結構大きな鉱山があるんだが、最近鉱石の納品が遅れ気味でな。

本当はウチから人を送りたいんだが……最近、北の魔物の動きがきな臭くてな。ウチの隊員はあまり動かしたくない。だから腕利きに頼みたいってわけだ」

その話を聞いたトリスタンは少し考える。

自分たちがモルデハイムに向かうのは個人的な用事である。依頼が重なっても問題なさそうだ。

「なるほど。アリアにも確認しますが、多分依頼は受けられると思います。丁度俺たちもモルデハイムに用事があるので」

「ホントか!?ありがたい。報酬はもうマスターに預けてるから、あとで受け取ってくれ。スタンなら全額、先払いでも大丈夫だろ」

「ありがとうございます。そうだ、依頼の報告は手紙になっても大丈夫ですか?」

「ああ、いいぜ。行商にでも渡しておいてくれ。代金は守備隊に付けてもらっててもいい」

「わかりました。正式なお返事は夕方にでも。問題なければ、明日発ちます」

「おう。頼りになるなスタンは。

……なあ、冒険者辞めてウチに来ないか?」

「レイ!勝手にウチの子を勧誘しないの!」

店の奥からリーザが叫ぶ。地の底から響くような声だった。

レイナードは首をすくめる。

「よし、スタン。俺は帰るわ」

踵を返したレイナードは、逃げるように店を出て行った。バタン、と扉が閉まる。

静寂を取り戻した店内に、トリスタンの──少し困ったようなため息だけが転がった。


***


翌朝、準備を整えたトリスタンとアリアはリゲルサクセを発った。

朝の澄み切った空気に、白い息が溶けていく。朝日に向かって、二人は歩いていた。

「寒いねぇ。ちょっと早く出過ぎちゃったかな」

マントで体を覆うようにしながら、アリアが言う。

「確かに、もう少し遅くてもよかったかも」

「でも流石に帰って時間潰すのはカッコ悪いね」

アリアが苦笑しながらそうこぼす。

「あはは。それはそう」

しばらく歩いてから、アリアが小さく尋ねる。

「ねえ、スタン。

……やっぱり、『大侵攻』は起きると思う?」

アリアの質問に、トリスタンは少し考え込む。

「うん……マスターやレイナードさんもその話題を出してたよね。やっぱり北の魔物たちに動きがあるんじゃないかな」

「そっか。そうすると、しばらく北の遺跡には行けないね」

「そうだね。魔王軍がたくさんいるだろうし……」

「今回も、勝てると思う?」

「それは何とも言えない。

……けど、楽観的になれる要素もあるよ」

「そうなの?」

「うん。まず、100年前の『大侵攻』はそれほど被害も出さずに侵攻を撃退してる」

「100年前?」

「そう。魔王アガレスが率いる侵攻軍だね。魔王を討ち取ることは出来なかったけど、大金星だったと伝えられてる」

「その前はどうだったの?」

「200年前の大侵攻はリーゲルさんが、魔王アルビダを倒した。けど、リゲルサクセの被害は甚大で痛み分けに近い結果だね。

それでも──それでも、リゲルサクセは一度も落ちたことはない」

「なるほど。一勝一分って感じ?」

「そうなるね。今はレイナードさんにパメラさん、イシドロ師父が居る」

「何より、私たちがいる!」

アリアは胸を張って宣言する。

「うん。その通りだね」

リゲルサクセが落ちれば国境線は大きく後退する。そうなってしまえば、北の遺跡の調査どころではなくなってしまうだろう。

そして何より、二人にとって、リゲルサクセはもはや第二の故郷だ。そんな街が、焼け落ちるなど考えたくもなかった。

東に向かう二人を迎えるように太陽が道を照らす。暖かい風が冷たい空気を北へと追いやっていた。


***



リゲルサクセを発って三日。

目の前に特異な光景が広がった。

渓谷と見間違うほどの巨大な露天掘り鉱山だった。

階段状に削られた斜面が、人工の谷を形作っている。それは、どこまで続いているのかわからないほどだ。

その片側に、街が広がっている。

レンガ作りの街並みが、二人を迎えていた。

「うわ!あれが鉱山?」

「大きいね。実際に見ると聞くのとじゃ違う……」

アリアは鉱山だけでなく、目につくものを興味深そうに見ていた。

「外から見た街の感じは普通、かな?」

「そう見えるね。一度街に入ろうか」

街に近づくと、硫黄の独特な匂いがした。つんと鼻をつく刺激臭に、アリアは眉を寄せる。

「何か……臭いね」

「そうだね。ちょっと慣れるまでかかりそう」

「顔に布とか巻きたいけど、ダメなんだよね?」

鼻を押さえながらアリアが尋ねる。

「うん。顔は隠さない方がいいよ」

「知識神めぇ……」

「まあ、よそ者かどうか、わかりやすくするためだ、なんて言う人もいるけどね」

トリスタンは肩をすくめて言う。

クルシュタで信仰されている神の一柱、知識神アークレスは言葉と太陽を司る神である。太陽の下で顔を隠す行為は、この国では忌避されていた。

「うーー。仕方ないね。どこに行けばいいんだっけ?」

「鉱山の入り口にギルドがあるらしいから、そこに行ってみよう」

二人はレイナードに渡された地図を頼りに採掘ギルドへと向かう。

建物の間を縫い、ギルドへと足を進めた。

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