露天風呂。そしてお約束へ――
料理後はスピカたちが集めてくれた情報を元に狐の真祖がいそうな場所を探すが……野生の狐の様に木の影とかに居るかどうか調べているが、使用した形跡はない。
野生動物は見付かるのだが、どれもこれも普通の動物の様で狐が化けていると言う可能性は低い。
とりあえずお山をぐるっと散歩感覚で歩き回った後俺は宿に戻った。
既に時刻は6時を過ぎており、まだ明るいが帰るべきだろう。
いきなり見つかるとは思っていないので、この日は飯食って風呂入ってまた明日の早朝にでも探してみるかと思いながら男湯に入っている。
ちなみにヒカルとカエル、ユウガにジョージさんも一緒だ。
男だらけの普通の風呂場である。
「な~先生。先生って何で真祖開放なんてしてるんだ?」
「何でって……面白そうだったから」
「真祖開放を面白がって出来るってどんだけ凄いんだよ」
ヒカルが広い湯船であおむけになりながら浮いている。
俺とヒカル、ユウガは慣れた物だがカエルとジョージさんは未だに慣れない。この世界じゃ湯に浸かる文化は非常に少なく、一般的な風呂と言う物は存在せず、水浴びとか濡れたタオルで拭くだけと言う物が一般的だ。
カエルもまぁ向こうではシャワーぐらいは浴びていたそうだが、こうして湯に浸かるのはこのコンに来て初めてだそうだ。
カエルもジョージさんも同性と言っても裸を見せ合うのは恥ずかしいんだと。
「と言うか切っ掛けって何だったんだ?最初から神様に頼まれたって訳じゃないんだろ?」
「そうだな。俺に話しかけてきた神様は世界を掻き乱せ~って言ってきたぐらいだったからな。最初は真祖開放について何も言ってこなかった。そして切っ掛けだが……図書館で真祖に関するレポートみたいなのがあってな、もし本当に居るのなら食って俺の力にしたいと思った。これが真祖を探すきっかけだな」
「その時はまだ私を助けてくれたあとの話でしたっけ」
「そうですよジョージさん。あの町で別れた後に目標を見付けて、その後偶然アセナに会って、そこから真祖開放の旅が始まったんです」
ホント何がどうなるかよく分からないものだ。
そこから始まった旅は色々と巡り巡って、この大所帯になったんだからな。今じゃユウガまで引き込んでの訳の分からんパーティーだし、統一性が全くなね~な~。
「ところでお聞きたいかったんですが……タツキ先生は教会との戦争が終わったらどうするんですか?」
「あ、それ僕も思った。タツキってこれが終わったらどうするの?」
そう聞くのはヒカルとユウガ。
終わったらか……
「ん?戦争が終わったら?……そうだな…………とりあえず家族旅行にでも行くか」
「また旅行ですか。今も旅行みたいな感じなのに?」
「だって一応狐の真祖探しだし、法王に会うためでもあるし、なんかこう……本気でグダグダしきれてないと言うかね。ただ遊びに来たって感じがしないんだよ」
「仕方ないじゃないですか。そちらが目的なんですから」
「お堅いね~カエルは」
なんて思っていると今度はノーマ国王がやって来た。
マナーを守って身体を洗ってから湯船につかろうとするが……
「ノーマ国王。タオルは湯船に浸けないものですよ」
「そうか。それはいかんな」
そう言って手ぬぐいを俺の姿を真似して頭に乗っける。
ぼ~っとノーマ国王を見てふと思う。
「それにしても……風呂だけでもここまで文化が違う物なんですね」
「確かに。私の国では湯船に浸かる事はない、代わりにサウナならあるがな」
ノーマ国王が裸でも抵抗がないのはそこだ。
ホワイトフォレストの風呂事情……でいいのだろうか?とにかくあっちでは風呂とはサウナの事を指す。
確かに汗が出て悪くはないのだが……いい汗かいたー!って感じはするが洗った感じではないので違和感があったのだ。
そのあと水を浴びてタオルで拭いてお終い。
俺はこれが風呂とは思えない。
湯を沸かす薪がもったいないからそうなったんだろうけど。
「なのでここの湯船は贅沢に感じる……少々熱いが」
「サウナとは違う熱さですからね。俺は慣れてますから好きですけど」
「でもこの暖かさがほっとすると言うか……気持ちいいと言うか……」
「これだけは止められないよね~」
ユウガとヒカルも同意してくれる。
家の風呂も湯船だし、こう言う所で日本人の心を忘れてはいけないと思う。
それからヒカル。いい加減浮いてないでちゃんと湯に浸かれ。
6人でのんびりするつもりだったが、ヒカルが何かを発見した。
「先生!ここの温泉、露天風呂がある!!」
「よし行くぞ」
「僕も行く」
即決である。
お高い温泉宿なら露店があってもおかしくないか。
直ぐに移動しようと立ち上がるとカエルが聞いて来る。
「あの、ロテンブロとは何ですか?」
「単に外にある風呂だと思えばいい。風があれば湯あたりしにくいだろうし、こんないい宿なら景色もいいんじゃないか?」
「行くぞカエル!露天風呂の一番湯は俺がもらった!!」
「おいヒカル!走るんじゃねぇ!」
はしゃぎ過ぎているヒカルに声をかけるが完全に暴走状態だ。
転ばないといいのだが、それよりも他3名がどうするのか気になる。
「そんでカエルとジョージさん、ノーマ国王はどうします?一緒に行きます?」
「僕は行きます。外のお風呂って見てみたいですし」
「私も参ります。少し恥ずかしいですが」
「何事も経験だろう」
という訳で全員参加。
ヒカルの後を追って外に出ると、意外にもヒカルはまだ風呂に入っていなかった。
「あれ?一番風呂はどうした?」
「先生……あれ」
そう言うヒカルの先には立派な露天風呂がある。
王道とでも言うべき大きめの石や岩で囲まれており、さらにその周りには木々が生い茂っており、風流に感じる。
きっと季節ごとに姿を変えるだろうから秋や冬にも来てみたい。
「タツキ、現実逃避しないで。先客がいる」
まぁ……うん。先客が居るな。
露天風呂は浅い部分と深い部分があるのか、段が出来ている。その浅い部分に狐が1匹入浴中だった。
濡れてふさふさの毛がぴったりとくっ付いているので、ちょっと残念な感じになっている狐が湯船に浸かっていた。
狐は俺達にお構いなしで欠伸をしながらだらけている。
「先生。もしかしてこれじゃないの?先生が探してる狐」
「そうだとは……思いたくねぇな。狐の真祖が湯船に浸かってだらけてるって、しかもこいつ昼間堂々と俺に会いに来た狐だぞ。いなり寿司の試作品食った」
「あ、先生。俺もいなり寿司食べたい」
いなりと言う言葉に反応したのか、狐が顔を上げた。そして期待するような眼差し。
俺は苦笑いをしながら言う。
「明日また試作品作るからそれまで待ってろ。今日と同じ時間だ。それとヒカル、まだまだ完成には程遠いからもうちょい待ってろ」
そう言うと機嫌よく尻尾を振る。
俺達はその隣の深い部分に浸かる。丁度6人ぐらいが狭くもなく、広くもない大きさなのがいい。
時々聞こえる風の音が心地いい。
あ~家帰ったらこう言うのも作るべきかな……どうせ好き勝手しているし、神殿の部分以外はどうしてもいいように思う。
どうせ祀ってんのマコトだし。
「これはまた風情があるな。まるで自然の中で湯に浸かっているようだ」
「これが露天風呂の醍醐味ですよ。ここで酒飲みながらが夢なんですけど……酔うと危険なんで出来ないんですよね……」
「タツキなら溺れないんじゃない?僕は止めとくけど」
「私も弱いので遠慮しておきます」
「それもまた味わってみたいですね」
「それなら俺、コーヒー牛乳飲みたい!」
「え?ヒカルってそんなに牛乳好きじゃないよね?」
「え?風呂上がりの1本は別だろ?」
「残念だがヒカル。この世界に瓶牛乳はないと思う」
なんて感じで話しているとまた扉が開く音が聞こえた。
だが俺達の他に男性客は……
『いっちば~ん!!』
『にば~ん!!』
『ヤタ!トキ!転びますよ!』
『ヤタ。落ち着く』
『あ~涼しい。外の方がちょうどいいかも』
『わたくしもちょっと中のお風呂は熱かったかも知れません』
『どっちも気持ちいいと思う』
『へ~これがヒノの故郷に似た光景か……へ~』
『やはり故郷のコン風風呂よりも洗礼されていますね』
『み、みなさんよく堂々とできますね……タオルぐらい巻きましょうよ』
どうやら女性陣も露天風呂に入りに来たらしい。
にしてもはっきり声が聞こえるな?意外と近いのか?
「先生先生!これってチャンスじゃない?」
そう言うヒカルの目は……挑戦者の顔をしていた。
まさか……
「ヒカル。お前まさか、風呂場と言ったらお約束のあれをするつもりか?」
「当然。カエルはどうする?」
「え?お約束って何?」
「ユウガ。お前はどうする?本物の勇者になれるチャンスだぞ」
「こんな事で勇者になりたくない!!」
分かっている日本人と全く分かっていない外国人とこの世界の住人達。
そして小声で叫ぶと言うちょっとした特技を見せたユウガ。
全く分かっていないジョージさんが聞いて来る。
「あの、本物の勇者とは一体?」
「簡単だ。修学旅行のお約束――――女湯の覗きだよ」
そう言うと分かっていなかった3人が雷でも落ちたかのような、衝撃を受けた表情になる。
いや、ジョージさんの場合は固まったとでも言うべきか?
「の、のののの、覗きですか!?」
カエルの言葉で男全員が集まり小声で話し合う。
「そうだ。1部のスケベが行う伝統儀式。NO・ZO・KI。代々日本では修学旅行の定番として語り告げられてきた。しかし実行し、成功させた者の名は聞かない」
「それ絶対全員失敗してますよね!?」
「難易度が高いから成功させた奴は勇者として持ち上げられるし、英雄視される。と言うかヒカルとカエルなら子供枠でまだ混浴できるかもしれないぞ?」
何て言うとヒカルは真剣に考えだした。
そしてカエルは顔を真っ赤にして反論する。
「ダメですよ!男女別になっているんですから別々であるべきです!!」
「その反応。もしやお目当てが居るな?」
「そ、そんな事――」
『おお~!うちのお風呂とは全然違うね!アセナお姉ちゃん!』
ふとそんな声が聞こえるとカエルが素早く反応した。
……え?まさか……
「カエルのお目当てってヤタ?」
そう聞くと更に顔を赤くして顔を半分湯船の中に沈めた。
「なんか意外だったな~。俺はてっきりヒノ先生かアラドメレクかとばっかり」
「い、良いじゃないですか。明るい子が好きで。ちなみにヒノ先生が好きなのはヒカルです」
「ちょ!カエルお前~!!」
今度はヒカルが顔を赤くした。なるほど、ヒカルの方だったか。
そして俺は……アセナが居るから別に覗く必要なくね?
ではジョージさんに振るか。
「ちなみにジョージさんは――」
「いません!いませんのでそのような破廉恥な事に巻き込まないでいただきたい!!」
あ、これガチだ。ガチで嫌がってるパターンだ。
無理に誘うのもあれだし……そんじゃ次にノーマ国王。
「ノーマ――」
「私のおしはスノー様ですが、覗きなどと言う行為をしたいと思った事はありません。彼女は女神であり私達ホワイトフォレストの民にとって崇拝するべき方です。神のお怒りに触れる様な事はしません」
思っていた以上にガチトーン。
それじゃ最後にユウガ!!
「どうせヒジリは部屋のお風呂にいるだろうから覗いてもな……」
おしがいない!!
となると子供2人だけが覗く理由がある訳だが……
「ヒカルとカエルの場合、覗きしなくても普通に正面から行った方が一緒に入れる確率高そうだもんな」
「お、俺はそんな子供じゃねぇよ!」
「僕だってそうです!!」
結局。覗く必要がない者、純情過ぎる者、崇拝している者に分かれた。
なんて悲しい結果なんだ……男同士の下品な話もたまにはしてみたい。
そう思いながら俺は風呂から上がった。
――
「………………」
「アセナ姉。何壁に張り付いてるの?」
「タツキの声が聞こえた。そこに居る」
「……一緒の部屋にいるんだから覗かなくても……」
「それとこれとは別の味わいがある。確かに正面から一緒にお風呂入りたいと言えば叶うだろうけど、あえて覗くと言う行為に背徳感と興奮を覚える」
「…………ダメだこの姉。タツキが絡むとポンコツになってる気がする」




