狐捕獲作戦。まずはエサ作り
こうして始まった狐の真祖とのかくれんぼ。
ルールは俺と狐の1対1と言う事だけなので色々と仕込んでみるとする。
まず初めにエサで釣ってみよう。
今は使っていないはなれの調理場があると言うので、そこを借りて久しぶりに料理をする。
用意するのは……ネズミの唐揚げ!!
嘘である。いや、本気で用意してみたけど、宿の人が流石にお狐様は食べないと言う事なので自然と没となってしまった
あれ?伏見稲荷じゃお稲荷さんの好物は揚げたネズミって聞いた事があるんだけどな?
では代案と言うか本命のいなり寿司を作るとしよう。
いなりに重要なお揚げはアナザに頼んで豆腐を買ってきてもらい、こんなもんかな~と思いながらある程度の厚さを残して切った木綿豆腐を綺麗な手ぬぐいに挟み、重しを乗せで水を切る。
ちなみに他の悪魔達、スピカたちにはお山を調べてもらっている。
野生の狐が住んでいそうな洞や、水浴びが出来る場所などを探してもらっていた。
そこにエサであるいなり寿司を置いておく事で現れないかな~っと思っての行動である。
流石にそこまで単純じゃない……よな?矛盾しているがこれで見つからない事を願う。できればいい感じにヒント止まりがいいな。
そして豆腐の水を切っている間に用意するのがかえし。簡単に言うと醤油、みりん、酒を混ぜた日本の万能調味料である。
そして正直に言おう。市販で売っているお揚げって何を浸した物なのかよく分かんない。
甘めだから砂糖多めなんだろうか……と言うか砂糖入れてんの?それともこれから入れる予定の出汁で味を整えてるだけ?
いなり寿司を一から作るとなるとこれ何だったっけな……と思う事が多い。
とりあえず返しを作ってそこから昆布とかカツオ出汁とかとりあえず付け加えてこ。手探りで正解を探すしかない。
それにこのコンと言う国は本当に日本に近い文化を築いている。
買い物に行けば普通に鰹節とか干した昆布とか売ってるし、中には干したシイタケもあったりする。
食材と言う点で見ると不満な所は1つもない。
だが……ヴィゾーヴニルがいてくれたらな……
久しぶりにあいつの飯が食いたい。
確かにホワイトフォレストで食った飯も、コンで食う飯も美味いのだが何故だかヴィゾーヴニルの飯が恋しい。
もうあれだ。お袋の味的な感じで俺の頭の中にあるんだろう。
血の繋がっている方の母親の飯の味は……どんなんだったけな?
覚えていない訳ではないが、ハッキリと思い出す事も出来ない。どんな飯を食ったのかは覚えている。だがその先、母親の味が思い出せない。
………………薄情な息子なんだろうな。
ほんの2年前の話だろうに、俺はもう既に向こうの世界の事を少しずつ忘れている。
俺はおそらく他の人間の様に100年経たずに死ぬ事は恐らくないだろう。それだけ魔物の血肉を食ってきたし、俺の肉体は人間から大きくかけ離れてしまっている。
失ってから気付くって事はまだまだ俺も人間って事なんだろうか?
愚かで皮肉な部分だけはまだまだ人間らしいと言うのは何なんだかな。
「キュン」
なんて考えているとふと何かの鳴き声が聞こえた。
なんだろうと振り返って見ると、そこには狐が居た。
綺麗な茶毛、というよりは金色に近い体毛をしているこの狐は、俺が何をしているのか不思議そうにしている。
どことなく誰かに似ている様な気がするが……他人の空似と言う奴だろう。
「危ないからそこに居ろよ。火、使ってんだからな」
人の言葉をちゃんと理解できているのか、狐は大人しくその場で丸くなる。
とりあえず買ってきてもらった鰹節とかを削って鍋の中に入れて弱火で煮込む。
ほんのりと漂う出汁の香りに狐の尻尾が揺れる。
それから米も炊いているがそこは自信がない。
だって俺釜で米炊いた事ないもん。飯ごうでも炊いた事ないし、家では電子ジャー、家庭科ではガスで炊いた事があるくらい。
今度全力を持って電子ジャーの開発をしなけらばならないかも知れない。
ジャックにも言えば必ず協力してくれるはずだ。
こういう時に電化製品のありがたみを知るな。
今の家じゃパン食が普通だし、確かにパンの方が楽かも。
でもな……日本人としてやっぱり米が食いたいわけよ。この世界じゃ白米は超高級品扱いだし、基本的に玄米である。貧乏な所だと米ではなく粟を主食にしている所もあるとか。
白米の発展はまだまだ遠そうだな。
とりあえず弱火で軽く煮込んだ鰹節を取り出し、軽く小皿によそって味を見る。
…………やっぱ鰹節だけじゃいまひとつ欠ける。なので今度は昆布を入れてまた弱火で出汁を取る。
…………普通だな。素人がやるからこんなもんだろうと思う味。
狐の真祖がどれぐらい舌が肥えているのか分からない以上、やはり素人がやってもダメかな?という気持ちはある。
やっぱりヴィゾーヴニルを、我が家の料理番を呼ぶべきか。
2ヶ月は会っていないので、会って安心させたいと思っている俺がいる。
一応通信と言うか、念話と言うか、そう言うのはヤタを通じて行なっているのでこちらの行動は分かっているだろうが、それでもしばらく顔を合わせていないと言うのはな……
なんて思いながら深皿にかえしを入れて準備は完了。
乾いた豆腐を1度揚げて、冷ました所でかえしの中に投入。よく分かんないけど、どれぐらい浸けておくのがいいだろうか?
とりあえず素人のいなりの皮は20枚出来た。
後は時間ごとにしみこみ具合を確認して、米を詰めて食ってみるか。
手探りだからこのぐらいしか思いつかない。
気が付いたら米も炊けているし、釜で炊くのは初めてだがお味は……う~んいまいち。
白米じゃないからかな……それとも単に炊くのが下手なだけなのか俺にはさっぱり分からない。
でももったいないので5分浸けたいなりの皮に詰めて食ってみる。
…………薄味だな。いなり特有の甘みがないし、やっぱり素人っぽさが出ている。あと白ゴマ振り掛けるの忘れた。
我が家では米の中に混ぜるのではなく、後で好きに掛けるのが主流だった。
俺の何とも言えない出来栄えに唸っていたが、狐が俺の足を前足で突っつく。
その目線の先は俺が半分だけ食ったいなり寿司がある。
「もう1個作るからちょっと待ってな」
残った半分を口の中に入れ、もう1ついなり寿司を作って小皿に乗せた。
狐は見た事がない物だからか後ろ足で立って早く食べさせろと催促してくる。
「ちょっとだけ待て、置いてやるから」
そう言うと大人しくお座りして待つのだから人慣れしている。
そして1つだけ乗っかったいなり寿司をすぐに食べきった。
「どうだ?俺としてはまだまだなんだが……」
そう聞くと狐は直ぐに他のいなりの皮を狙ってかピョンピョン飛び跳ねるのだから慌てて引き剥がす。
「待て待て、包丁とかもあるんだから危ないだろ。そんなに気に入ったのか?」
「コン!」
「それはありがたいがあれは実験用。浸した時間によって味が変わるかどうか実験中だから待て。5分後にまたいなり寿司にするかそれまで待て」
ちなみにスマホでタイマー機能を使っているので5分後にタイマーが鳴る。
こうして5分ごとに味を見ると言う実験した結果、美味いのは20分か25分じゃない?と俺と狐の感想だ。
何と言うか、30分以上つけた奴はしょっぱくなり過ぎている感じがした。
それからいなり特有の甘みをあまり感じなかったので、やっぱり砂糖を使うべきかどうか検討する。
狐は初めて食べるいなり寿司に満足している様だが俺はそこまでではない。やはり素人が作った物と言う感じが抜け落ちないのだ。
食べた感想、改善点をスマホのメモ内に書き残してあとは片付ける。
油とかも使い回すか。もったいないし。
残ったかえしも水筒にでも入れて保管しとこう。時間を置いたら熟成したりしないかな……かえしって熟成するのか?
とりあえず使った後は綺麗に台所を掃除し、また今度使える様にする。
いなり研究はこれからも続く!!
狐はいなりを10個食ったからか、欠伸をして丸くなって寝ようとしている。
俺はお山の探索があるので今日はここまでだ。
「じゃぁな狐。またその内」
そう言うと狐は尻尾を一振りして寝る。
俺は起こさない様にそっとはなれから自室へ戻るのだった。




