獣人族の国へ
次の日、俺達はホワイトフォレストを連絡船で大陸に戻り、東の方に向かうつもりだった。
だったという理由は、現在国王の船で獣人族の国、コンに向かっているからである。
獣人族の国は東側のほとんど支配しているので船で行く事も可能だったのだ。しかも国王は法王と俺の仲介人としての役目もあり、一緒に行く方が効率的であると話に出たのだ。
という訳で初めての豪華客船みたいな感じの船に乗っている。
セフィロは島1つ分だからノーカン。
「あ~何と言うか……いいな。潮風。スノーも酔ってないし」
『流石に王族が乗る船で酷い揺れはしないわよ。するようなら私が改良する』
俺の隣にはアセナの他にスノーも一緒だ。
より正確に言うと隣居るのがアセナで、頭の上で動物態でいるのがスノーである。
以前に見た雄々しい獅子の姿ではなく見慣れた猫の姿だ。
「と言うか何でスノーは猫の姿なんだ?せっかく人型になれるのに」
『あの状態だと色々と大変なのよ。こう、キリッとしてなきゃいけないし、ホワイトフォレストでずっとそうしてたから疲れたの。しばらくはこっちの姿でゴロゴロする』
あの国で見たキリッとした姿はもう見られないのだろうか?
冬場に家でゴロゴロしてした頃のスノーに完全に戻ってしまっている。
「スノー疲れてる。色々頑張った」
「そりゃまぁ分かるから別にいいけど。何と言うか……ギャップがな……」
残念な方向にギャップが働いている様に感じるのですよ。
あのできる女王様バージョンは2度と見られないのだろうか……
そう思っているとアセナは俺に顔をすり合わせて甘えてくる。俺は当然の様に抱き寄せて頭を撫でる。
アセナの尻尾は喜びで振りまわす。
ちょっと甘い空気になっていると左側の足に誰かが掴んできた。
誰だろうと思って視線を動かすと、そこに居たのはトキだった。
俺のズボンを掴みながらジーっと俺の事を見る。
俺はトキを抱き上げると、トキはそれだけで満足げな表情になった。
アセナに対して自慢げにしている様にも見えるが。
『ちょっと……私を巻き込まないでよ。私関係ないんだから』
「多分無理だぞスノー。俺の頭の上に居たのが運の尽きだ」
最近アセナとトキのこういう静かな戦いの様な物が頻繁に繰り広げられている。
アセナはアセナで独占欲が強そうだし、トキはトキで諦める気がないみたいだからな……俺、ハーレム作る気ないのに……
『みな様、もうすぐコンに到着します。お降りする準備をお願いします』
そう連絡がやって来た。
とりあえずそこのにらみ合いを続けてる2人、降りる準備始めるぞ。
――
コンセイ共和国。これが彼の国の正式名称である。多種多様な獣人達の国であり、かなり和風な国だ。
主に木製の家が多い事や、剣より刀の方が普及している所、洋服と言うよりは和服の方が多いなど、江戸時代の様な感じがするので俺としては新鮮だ。
そんなコンに到着して降りると、流石国王を出迎えるための人達か、優秀そうな獣人の武士たちが甲冑に槍や刀を持ってのお出迎えである。
当然と言えば当然なのだが、国王を守るための近衛騎士団も一緒に来ている。
まずは国王が出て挨拶、その後特に偉そうな鎧を着ていない狐の獣人が国王と挨拶をしてちらりとこちらを見た。
特に見ているのは俺とアセナ。恐らく俺達の事は獣人達にもバレバレなんだろう。
俺達お客組、俺と真祖達とジャック、勇者パーティー、ヒノ先生達は馬車ではなく牛車と言う牛が引く四角い箱の様な物に乗っての移動だ。
ちなみに牛は魔物であり、黒毛の美味そうな牛だ。
「これより城へ向かいますのでごゆるりとしてください」
そう狐の人が言った後、俺達を乗せた牛車が進みだす。
俺と真祖組はまとめて乗っているので窓を開けて外を見ると、何だか大名行列の様な感じがする。と言うかまさにそれだろ。
それだけの乗客なんだろうが、ここまであっさりと入国できると逆に不安になるのは何故ですか?
まぁどうせ狐の真祖が居るところまで行かなければならないので楽っちゃ楽なんだが。
それに今は俺の影の中に潜んでいるアナザ達の話によると、獣人族の王は随分と俺達に忠誠を誓っている様な素振りだったという。
1度もあった事がないのに忠誠を誓っていると言うのも何だかな……恐らくアセナ達が原因何だろうが、それでもどことなく違和感を感じるのは何でだろう?
何はともあれ窓の外は主に…………畑と田んぼだな。
のどかな風景なのはいいのだが……何と言うか景色がろくに変わらない。
それに秋じゃないから田んぼが黄金色に見える!と言う事もないし、緑のじゅうたんなので結構地味だ。綺麗なのは認めるけど。
「にしても……本当にここに狐の真祖は封印されてるのか?あまりにものどか過ぎておっかない存在が封印されている様に感じないんだけど」
「それなら確実な証拠がありますよ」
「え?あるのアスクレピオス?」
「はい。アセナお姉さまがお城に近付くにつれて不機嫌になっています」
それは……俺も感じていた。
どう言う訳かアセナはさっきから俺に抱き付いたまま、アセナの匂いを俺に擦り付けるかのように、必死に身体をくっつけるのである。
俺は撫でて落ち着かせようとするが、やめる気がない。
「どうしたアセナ?そんなに甘えて」
「……タツキは私の物」
「ん?」
「タツキは私の夫。誰にも渡さない。あの小娘にも、先に生まれただけのバカにも渡さない。タツキは私の物。私はタツキの物」
「すまん。これちょっと病んでる感じするんだけど、スゲー怖いんだけど」
『アセナ姉は本当に気に入った者を横取りしようとする相手とか本気で殺しに行くから。ほとんどは狐ばっかりだけど』
何て言うスノー。
本当に犬猿の仲……じゃなくて、狼狐の仲?みたいな感じ?
同じイヌ科なんだろうから仲良くすればいいのに……
「ホント双子なのに何でここまで差が生まれたんだろうな?とりあえず会ってみないと分かんないけど」
「会わなくていい。全身永久脱毛させたあと能力だけ奪えばいい」
「あの、アセナさん?本当に怖い事ばっかり言ってません?モフモフした動物が毛を失くすって怖い気がするんだけど。一生毛のない動物の人生って相当過酷だと思う」
元々毛がないのならともかく、毛のある動物が毛を失うって怖いって。
ハダカデバネズミって普通にキモいし……
「にしても……狐の真祖の能力って地面関係なんだろ?て事はこの辺の土全部改良したって事ですか?」
「その通りでございます」
窓の外に居た文官みたいなウサギの獣人さんがそう答えた。
「元々この辺りの土はあまり生活には向かない土地だったと聞いております。しかし狐の真祖様が生活しやすい土地に変えてくれたために現在の我々は生きていけていると伝承に残っております」
「へぇ。やっぱ悪い人ではないんですね」
「悪い方ではないのですが……悪戯好きと言いますか。安定後は我々に田畑の管理を任せ、時折無茶な事を言います。急に財宝が欲しいとか、贅沢な物を食べたくなったとか」
「…………」
何と言うか、わがままな感じなんだな。
上に立つ者としては間違っていないのかも知れないが……突然と言うのがまた大変だ。
「特に北のホワイトフォレストの宝石を好んでおり、購入させていただいております」
「あ、だからノーマ国王と仲がよろしいんですね」
「はい。こちらからは食料を、あちらからは宝石を。と言うようにお互いに利がありますので」
結構したたかな性格してんだな~。
狐だからずる賢いぐらいがちょうどいいか。
そう思っていると文官さんが指を前方に向ける。
「あちらの城がお狐様の城です」
そう言って指差した先は、城と言うよりは神社の様なお屋敷だった。




