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国営鉄道を追放された俺、弱小私鉄で「温泉付き遊園地」を作ったら大繁盛!  作者: 塩塚 蘭仮名


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第25話 環境破壊の濡れ衣

「物理的に泥川電鉄を抹殺するぞ!」温泉掘削による地盤沈下という嘘の調査報告書を捏造し、国会へ『全線営業停止命令案』を提出させた官営鉄道の重鎮たち。泥川電鉄、明日ですべてがストップする最悪の窮地へ。

泥川(どろかわ)電鉄が世に送り出した『夜行おやすみ列車』は、宿泊業界と交通業界の常識を根底から覆し、日本中にさらなる泥川旋風を巻き起こしていた。


地方のローカル線はかつてない活気を取り戻し、沿線地域には笑顔があふれ、泥川電鉄の存在は今や、名実ともに日本になくてはならない「救世主」として崇められていた。


 しかし、光が強くなればなるほど、その影で渦巻く闇もまた、深く、そして醜く濃くなっていく。


「ええい……黒田めぇッ! どこまでも、どこまでも我が官営鉄道の邪魔をしおってからに……っ!!」


 都心の超一等地にそびえ立つ、官営鉄道本社の巨大なビル。その最上階にある、一般の社員は立ち入ることすら許されない重苦しい空気の漂う秘密役員室。


高級な革張りの椅子に深く腰掛けた官営鉄道の保守派トップであり、組織の頂点に君臨する重鎮たちが、顔を真っ赤に染めて大理石の机を激しく叩き、怒り狂っていた。

 かつての部下であった馬場が失脚し、海外の巨大ファンドによる乗っ取り工作さえも失敗に終わった今、利権と既得権益の塊である官営鉄道の幹部たちは、泥川電鉄の凄まじい躍進に、夜も眠れないほどの致命的な「恐怖」を抱いていた。


 泥川電鉄が全国のローカル線を救い、人々に愛されれば愛されるほど、旧態依然としたお役所仕事の手法を続ける官営鉄道の株は大暴落し、利用者は激減していく。このままでは官営鉄道の存在意義そのものが失われ、自分たちが退職後に約束されていた巨額の天下り先や、数兆円規模の利権のすべてが露のように消滅してしまう。


それは彼らにとって、死を意味するに等しかった。


「馬場のような小賢しいビジネスのルールなど、あの化け物老人には通用せん……! もはや正攻法や経済のルールで勝つことは不可能だ。こうなれば、国家の持つ絶対的な『法権力』を使い、物理的に泥川電鉄という存在そのものをこの地上から抹殺するぞ!」


 プライドを完全に捨て去り、怪物と化した幹部たちは、泥川電鉄を完全に、そして合法的に社会から抹殺するための『最終陰謀』を裏で始動させた。


 彼らが目をつけたのは、泥川電鉄の代名詞でもある全国『一駅一温泉』計画だった。


幹部たちは息の掛かったお抱えの学者や調査機関を総動員し、科学的根拠が一切存在しない、完全に捏造された嘘の環境調査報告書をでっち上げたのだ。


 そして、これまで長年にわたって賄賂や接待で強固に築き上げてきた政界の暗黒のコネクションをフルに活用し、国会へ恐ろしい超法規的法案を緊急提出させたのである。


その内容は、あまりにも理不尽で非道なものだった。


『泥川電鉄による全国規模の無計画な沿線開発、および無制限の温泉掘削は、日本全国の深刻な環境破壊を引き起こしており、地盤沈下や有毒ガスの噴出危険性を著しく高めている。


国民の生命と安全を最優先に守るため、泥川電鉄に対し、全線の無期限営業停止命令を下すものとする』


 これだけに留まらず、彼らは泥川電鉄のイメージを徹底的に失墜させるため、大手の新聞社やテレビ局に、捏造した「ひび割れた大地」や「枯れ果てた森林」の写真を、あたかも泥川の温泉掘削が原因であるかのように加工してばら撒いた。


世論を誘導し、泥川電鉄を「自然を破壊する悪徳業者」として祭り上げ、一気に叩き潰そうと画策したのだ。


メディアは一斉に官営鉄道の息のかかった報道を流し始め、日本中はにわかに不穏な空気に包まれていった。


 そして、運命の翌朝。


 木漏れ日が差し込む泥川駅の、いつもはのどかな事務所の扉が、壊れるほどの勢いで開け放たれた。


「宗次さん……っ!! 宗次さん、大変なんです、うぅ……っ!!」


 飛び込んできた千代ちゃんは、全身を小刻みに震わせ、インクの匂いが残る朝刊の紙面を両手で引きちぎらんばかりに握りしめ、目からは大粒の涙をポロポロと絶え間なくこぼしていた。


彼女の綺麗な顔は、絶望と悔しさで完全に真っ青に染まっている。


「官営鉄道の重鎮たちが、政治家の人たちと裏で組んで、真っ赤な嘘の報告書で国会を強引に動かしました……! 今、テレビでも全部そのニュースばかりです!


今日の、今日の午後の国会で『泥川電鉄全線運行停止法案』が強行採決されて可決されてしまったら……泥川電鉄は、明日から日本全国のすべての電車が、一本も走れなくなっちゃいます……!


私たちの温泉も、おやすみ列車も、全部……全部、お役所の命令で没収されちゃうんです……っ!」


 千代ちゃんの悲痛な叫びが響き渡り、事務所の中に、これまでにないほど重苦しく、冷たい静寂が立ち込めた。


 窓の外では、何も知らない乗客たちが楽しそうに行き交っている。


その平和が、国家という巨大な権力の暴力によって、あと数時間で一方的に破壊されようとしているのだ。


 いつもなら、どんな緊急事態にも影のように寄り添い、冷静沈着に対処法を見つけ出す優秀な雑用係の霧島ですら、今回ばかりは拳を白くなるほど強く握りしめ、その美しい顔に隠しきれない悔しさと怒りをにじませていた。


「……黒田様。さすがに今回は、国家の最高機関である国会そのものを敵に回してしまいました。


官営鉄道の息がかかった議員連中が国会の過半数を占めており、午後の採決を裏から止める手立ては、我が諜報網を以てしても時間が足りませぬ。


このままでは、法という名の暴力によって、泥川電鉄は明日、歴史から消されることになります……」


 千代ちゃんはデスクに突っ伏して声を上げて泣き出し、霧島は静かに頭を下げて次の「戦い」の覚悟を決めるように目を伏せた。


まさに、泥川電鉄始まって以来の絶体絶命、完全なる終焉のカウントダウンが始まっていた。


 だが。


 そんな世界の終わりのような絶望が支配する事務所の中で、ただ一人、完全に異次元の時間軸を生きている男がいた。


 私は、千代ちゃんや霧島の焦燥ぶりなどどこ吹く風といった様子で、使い込まれた急須にゆっくりと丁寧にお湯を注ぎ、黄金色に輝く淹れたての緑茶を湯呑みへとトトト……と注ぎ入れた。


そして、その温かい湯呑みを両手で包み込むと、一口「ずずっと」心地よい音を立てて、のんびりとすすった。


 そして、パニックに陥っている窓の外の青空を悠然と見上げ、いつものように穏やかに、何事もないかのように微笑んだのだった。


「大丈夫だよ、千代ちゃん。そんなに泣いていたら、せっかくの可愛い顔が台無しじゃないか。


ほら、霧島もそんな怖い顔をしていないで。まずはこの美味しいお茶でも飲んで、ホッと一息ついて落ち着きなさい」


「宗次さんっ!! お茶なんて飲んでる場合じゃないですよぅ! あと数時間で、私たちはすべてを失って、ただの犯罪者みたいに言われちゃうんですよ!?」


 千代ちゃんが涙目で怒鳴るが、私の心はどこまでも凪(なぎ)のように静かだった。


なぜなら、私には環境破壊だの、全線停止法案だのという難しい政治の話はよくわからないし、何より、自分たちがやってきたことに、一点の曇りもないという確信があったからだ。


「千代ちゃん。国会にいる偉い人たちもね、きっと毎日難しいお仕事ばかりで、頭がカチカチに疲れちゃっているんだよ。


だから、誰かが持ってきた嘘の紙切れを見て、『大変だ、地球が危ない!』って、勘違いして大騒ぎしちゃっているだけさ。悪気があるわけじゃないんだよ」


「悪気は大有りです、宗次さん……! 彼らは私たちを潰そうとしているんです……!」


 千代ちゃんが机を叩くが、私は優しく首を振った。


「まあまあ。だったらさ、その国会の偉い人たちに、うちの温泉がどれだけ地球に優しくて、みんなを元気にするか、実際に目で見て、体で感じてもらうのが一番早いじゃないか。


言葉で説明するより、お湯に浸かるのが一番だよ。霧島、ちょっと国会議事堂まで行って、準備をしておくれ」


「……御意にございます、黒田様」


 私のその、あまりにも言葉足らずで抽象的な(ただ温泉に入ればみんな仲良くなれるという、いつもの超絶呑気な)指示を聞いた瞬間。


 霧島の脳内で、またしても凄まじい規模の「勘違いの歯車」がガタガタと音を立てて、超高速で回転を始めた。


(……なるほど! あえて強行採決の当日に、敵の本陣である『国会議事堂』そのものを舞台に選ばれるとは!


官営鉄道の重鎮たちが法を武器にするならば、黒田様はそれを上回る『民衆の圧倒的な支持』と『本物の温泉の証明』をもって、国会そのものを泥川電鉄の巨大な実演会場(ショールーム)へと変貌させるおつもりか!


国会議員全員を温泉の虜にし、官営鉄道の提出した法案を、逆に官営鉄道を弾劾するブーメランへと変える、国家転覆級のグランドデザイン……!


黒田様、やはり貴方は、神の領域に達したお方だ……っ!!)


 霧島は眼鏡の奥の目をギラリと恐ろしく光らせると、「これより、国会議事堂の地下に眠る水脈の開放、および全議員へのアプローチを開始いたします」と、私の意図(団子とお茶を配る程度)を遙かに超越した、恐るべき国家規模のカウンター工作を行うために、音もなく事務所から姿を消した。


 千代ちゃんは「あ、あの、霧島さんの目が完全にテロリストのそれになってたんですけど、本当に大丈夫なんですか……!?」


とガタガタ震えていたが、私は


「さあ、お茶が冷めないうちに飲んじゃいなさい」


と、みたらし団子の残りをのんびりと口に運ぶのだった。


 官営鉄道の重鎮たちが仕掛けた、国家の権力を総動員した「泥川電鉄抹殺計画」。


 しかし、彼らはまだ知らなかった。


ただ「疲れたお役人さんたちを温泉で癒やしてあげたい」という黒田宗次の純粋無垢な(そして恐ろしく噛み合わない)おもてなしの心が、国会議事堂という日本の最高権力の中心地で、前代未聞の、そして歴史上最大の「大奇跡」を巻き起こそうとしていることを――。


 運命の午後。国会強行採決の時間が、刻一刻と迫っていた。

捏造された環境破壊の写真が新聞にばら撒かれ、涙をこぼす千代。悔しさに拳を握る霧島。しかし、静かに緑茶をすする黒田の背後で、これまで彼が救ってきた「数百万の民意」が、静かに、そして恐ろしく連動し始めていた。

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