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国営鉄道を追放された俺、弱小私鉄で「温泉付き遊園地」を作ったら大繁盛!  作者: 塩塚 蘭仮名


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18/31

第18話:走るスーパーマーケット(救援列車)

座席を全て取り外し、街中の米やパン、毛布、そして温かいトン汁の大鍋を山積みした特別支援列車。暗闇と不安に震える深山村のホームへ、力強い汽笛が鳴り響く!

「電車を……スーパーマーケットに!?」


 社長の千代ちゃんが、驚きのあまり声を裏返らせた。


その大きく見開かれた瞳には、

驚愕と、それからにわかには信じられないといった戸惑いの色が浮かんでいる。


無理もない。

鉄道会社といえば、決められた時刻表通りに、

乗客や荷物をA地点からB地点へと正確に運ぶのが当たり前の仕事だ。


列車そのものを丸ごと移動式の巨大な商店にしてしまうなどという発想は、

これまでの鉄道の長い歴史のどこを探しても、

誰も思いつきもしなかった前代未聞の暴挙に他ならなかった。


しかし、私はそんな千代ちゃんの困惑を気にする風でもなく、

手にした団扇をパタパタと仰ぎながら、力強く頷いた。


「そうだよ。

うちにある旅客車両の座席を、全部ボルトから外して取り外しちゃうんだ。


そうしてできた広いスペースにさ、

地元の農家さんが作った新鮮な野菜や、山盛りの米、

それからたっぷりのお水、温かいお弁当、防寒用の毛布、

暗闇を照らす懐中電灯、それに子供たちのためのお菓子や着替えの服を、

これでもかと山積みにして運び込むんだよ。


道路が土砂崩れで塞がっていて、お店に買い物に行けないのが困るなら、

深山(みやま)村の駅に着いたら、そのまま列車の車内に入ってもらって、

そこでお買い物をしてもらえばいい。


そうすれば、村の皆さんも必要なものを自分で選んで手に入れることができるでしょう?

ただの配給を待つだけよりも、その方がずっと元気が出ると思うんだよね」


「そ、それだわ……!

それなら雨に濡れずに、たくさんの物資を一気に運べます!」


 千代ちゃんの顔に、一瞬でパッと明るい希望の光が差し込んだ。

彼女の頭の中でも、物資の効率的な輸送方法として、

この「走るスーパーマーケット」がいかに優れているかが一瞬で理解できたようだった。


「旅客車両の中であれば、外がどれだけぬかるんでいようが、

雨が降ってこようが、大切な食料や衣類を完璧に守ることができますわ!

それに、箱を一つずつ手渡しで配るよりも、

車内でお店のように並べておけば、現地での混乱も絶対に少なくなります!」


 千代ちゃんは、手に持っていたメモ用紙が破れんばかりの勢いで、

鉛筆を走らせながら大きく頷いた。


「そうと決まれば、すぐに準備に取りかかりましょう!

お上の許可なんて待っていられませんわ!」


 私の呼びかけに応じ、

泥川の街、そして先日完全復活を遂げたばかりの港町の住民たちは、

まさに一味も二味も違う驚異的な団結力で、瞬く間に一丸となった。


泥川電鉄が危機に瀕した時にいつも助けてくれた街の人々が、

今度は山奥の孤立した村を救うために、自らの足で駅へと集まってきたのだ。


「黒田さんのためなら、うちの店の米とパンを全部持ってけ!

倉庫に眠っている小麦粉も、今朝焼き上がったばかりのコッペパンも、

全部この救援列車に積み込んでくれ!」


 駅前の商店街で代々パン屋を営んでいる頑固親父が、

今日売り出すはずだった焼き立ての食パンや、大きな小麦粉の袋を、

台車にうずたかく積んで駅のホームへと息を切らせながら運んできた。


「港町の乾物と缶詰も山ほど積んでやるぞ!

こんな時のために、俺たちが一生懸命蓄えてきた最高の食材があるんだ!

深山村のやつらに、海の美味いもんを腹いっぱい食わせてやってくれ!」


 さらに、先日の鉄道対決で泥川電鉄の大ファンになった港町の漁師さんや、

干物屋の店主たちが、長期保存のきく缶詰や栄養価の高い乾物の箱を、

次から次へとトラックの荷台から旅客車両へと運び込んでいく。


「文化住宅の毛布とストーブも持っていってください!

私たちはみんな無事だったんだから、山の上の人たちのためにこれを使ってほしい!」


 泥川電鉄が管理する文化住宅の住人さんたちも、

自分たちの家から余っている厚手の毛布や、

まだ十分に使える石油ストーブを両手に抱えて駅へと集まってきた。


住民や商店街の人々が次々と物資を持ち寄り、

座席を取り外されて広々としていた古い客車は、

あっという間に隙間もないほど大量の食料と生活用品で一杯になった。


段ボール箱が天井近くまで積み上げられ、

車内はまるで活気あふれる巨大な問屋街のようだった。


さらに、車内には、地元の女性たちが早朝から冷たい水に手を赤く染めながら、

一丸となって一生懸命に握った、

まだ湯気の立っている「温かいおにぎり」と、

具だくさんの「トン汁」の入った大きな大鍋も、しっかりと積み込まれた。


焦がし醤油と、味噌の優しく温かい匂いが、車内いっぱいに広がっていく。

その匂いを嗅ぐだけで、準備に追われる全員の心に、

どこか温かいエネルギーが満ちていくようだった。


「救援列車、泥川救援隊、出発!」


 私が運転席の窓から大きく手を振ると、

千代ちゃんが駅のホームで涙を浮かべながら激しく旗を振った。

ホームに残った街の人々からも、「頼んだぞ!」「みんなを救ってくれ!」と、

割れんばかりの歓声と拍手が送られる。


 ガタゴト、ガタゴト……!


と、いつもより物資の重みで重厚になった音を立てて、

泥川電鉄の特別支援列車が、

まだ落ち葉や折れた枝が散乱する険しい山道を、一歩一歩力強く登り始めた。


車輪が鉄路を噛みしめる音が、山あいに力強く響き渡る。


 その頃、山深い場所にある深山村の駅前。


昨日直撃した観測史上最大級の超巨大台風による土砂崩れによって、

完全に外部との連絡も物理的な交通も遮断され、

電気も途絶えた暗闇と深い不安の中に震えていた村人たちが、

誰もがうなだれるようにして、駅の小さな広場に集まっていた。


周囲の道路は無残に削り取られ、泥水が流れている。

携帯電話の電波も届かず、自分たちが世界から見捨てられたのではないかという、

恐ろしいほどの静寂が村を包み込んでいた。


「道路が開通するまで一週間もかかるなんて……

それまで食料も水も底をついちゃうよ……。

備蓄の米だって、あと二日分あるかどうかだ……」


 一人の老人が、シワだらけの手で空のバケツを握りしめながら、

絶望的な声を漏らす。


「電気も点かないし、子供たちが寒がって……

このままじゃ、本当に体調を崩す病人が出てしまうわ……。

お薬だって、もう足りないのに……」


 幼い我が子を濡れた毛布で必死に抱きしめる母親が、

涙をこらえながら暗い地面を見つめていた。

子供は寒さと飢えのために、小さな体を小さく震わせている。


村長をはじめ、誰もがこの孤立した集落の未来に絶望に暮れていた、

まさにその時だった。


 しんと静まり返った、冷たい遠くの山あいに、


 ポォォォォッッッ!!!!


という、空気を震わせるほどに力強く、

どこまでも響き渡るような汽笛の音が、確かに響き渡った。


それは、絶望に沈んでいた村人たちの鼓膜を激しく震わせる、

命のファンファーレだった。


「な、なんだ……!?

今の音は……汽笛の音……!?

馬鹿な、道路は完全に崩落して、車なんて一台も通れないはずだぞ!」


 村長が弾かれたように顔を上げ、

うなだれていた村人たちが、一斉に奇跡を祈るような目で線路の先を見つめる。


ガタゴト、ガタゴトと、山肌を揺らすような力強い響きが少しずつ近づいてくる。

それは幻聴などではなく、確かにこの村へと向かって走ってくる列車の音だった。


台風の爪痕である線路上の土砂をかき分け、

濡れた落ち葉を豪快に散らしながら、

一両の、しかし何よりも頼もしい電車が、

ゆっくりと、力強く深山村のホームへと滑り込んできた。


その濡れた車体には、地元の子供たちが白いペンキを使って手書きで大きく、

『泥川電鉄 救援隊』と書かれている。

その文字を見た瞬間、村人たちの間に電流が走った。


 プシューッッ!!!


と、大きな音を立てて電車の扉が開くと、

冷え切った山の空気を一瞬で包み込むような、

目の前が白くなるほどの温かい湯気とともに、

香ばしい出来立てのおにぎりと、

お味噌の匂いがたまらない温かいトン汁の匂いが、車内からどっと溢れ出した。


その圧倒的な「生命の匂い」が、村人たちの鼻腔を満たしていく。


「深山村のみなさ〜ん!

遠くまで大変でしたね! 泥川電鉄です!


温かいご飯とお水、それにあったかいお洋服もたくさん持ってきましたよー!

さあさあ、寒いですから、遠慮しないで早く車内に入ってください!」


 私がいつもと変わらない、のんきな笑顔を浮かべてホームに降り立つと、

深山村の村人たちは、あまりの出来事に一瞬あっけにとられ、

言葉を失って立ち尽くしていた。

目の前で起きている現実が、あまりにも劇的すぎて、頭の理解が追いつかないのだ。


しかし、次の瞬間。


地鳴りのような大歓声とともに、

多くの人々がボロボロと涙を流して、その場に崩れ落ちた。


「助かった……!

本当に、本当に助かったぞぉぉぉッ!」


「泥川電鉄さんが来てくれた!

道路がダメなのに、線路を通って、私たちのために食料を持ってきてくれたぞ!

おーい、みんな、泥川電鉄さんが助けに来てくれたぞ!!」


 暗闇と絶望に支配されていた駅前広場は、

一瞬にして歓喜と感動の渦へと巻き込まれた。


すぐに車内へ招き入れられた村人たちは、

座席が取り払われた広いスペースに、

まるで本物の市場のようにずらりと並べられた大量の生活物資と、

お椀に並々と注がれた温かいトン汁を口にして、

言葉にならない声を上げながらむせび泣いた。


「温かい……生き返るようだ……。

まさか、行政の救助すら届かないこんな山奥に、

道路が塞がっているのに、こんなに早く救援が来るなんて……」


「黒田さん……泥川電鉄さんは、

私たち深山村の全員の、一生の命の恩人だ……!

この御恩は、死ぬまで絶対に忘れません!」


 冷え切った手でおにぎりを頬張り、

熱いトン汁で体を温める村人たちの姿を、

私は列車の入り口で団扇をパタパタと仰ぎながら、

「ゆっくりたくさん食べてね。お代わりも山ほどあるからね」と、

嬉しそうに眺めているのだった。


村人たちの顔に、さっきまでの絶望は消え去り、

温かいスープを飲み干すたびに、確かな活気と笑顔が戻っていく。

その様子を後ろから見ていた霧島くんは、

またしても独自の「誇大妄想フィルター」を限界突破で発動させていた。


(おお……おおお……っ! なんということだ……!

黒田様は、ただ物資を配るという『慈善活動』の枠を完全に破壊し、

この被災地そのものを、一瞬にして人間の生命力が爆発する『祝祭の空間』へと

変貌させてしまわれた……っ!


おにぎりを食べ、トン汁をすすり、自分で物資を選ぶ村人たちの目を見てみろ。

そこには被災者としての悲壮感など微塵もない!

あるのは、生きる喜びと、未来への不屈の希望だけだ!


ただ物資を運ぶだけでなく、人々の魂そのものを救済する……。

これぞ、これぞ真の王の救済!

黒田宗次様というお方は、どこまで規格外のカリスマなのだ……っ!!)


 霧島くんが一人で眼鏡を涙で濡らしながら、

手帳に猛烈な勢いで何かを書き殴っているのを横目に、

私は「トン汁、大根がよく染みていて美味しいねぇ」と、

村の子供と一緒にのんきに笑い合っているのだった。

温かいご飯と優しさに村人たちがむせび泣く、感動の救出劇。しかし、この人道支援を「重大な法律違反」として利用し、黒田の完全抹殺と己の復権を賭けて動き出す、あの執念の男の影があった。

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