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国営鉄道を追放された俺、弱小私鉄で「温泉付き遊園地」を作ったら大繁盛!  作者: 塩塚 蘭仮名


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第13話:外資系ライバルの影

「日本のローカル鉄道など原始的で取るに足らん」金箔とペルシャ絨毯で彩られた最高級欧風寝台列車を引っ提げ、外資系の天才社長ジャン・ルブランが、港町の利権強奪へと乗り出す。

泥川電鉄の技術長官である私、黒田宗次と、若き社長の千代ちゃん、そして元隠密の雑用係である霧島くんの三人が、大赤字に喘ぐ港町線の再建に向けて動き出していた頃。


現地の漁師組合長である金蔵さんたちと熱い握手を交わし、


車庫に眠っていた古い貨物列車を、海が一望できる吹き抜けの『海鮮バーベキューレストラン列車』へと生まれ変わらせるための大改造を、


着々と、そして楽しげに進めていた、まさにその同じ時刻のこと。


 潮風が心地よく香るのどかな港町から、線路を数キロメートルほど都心側へと戻った場所にある、大都会の中心。


そびえ立つ超高級ホテルの最上階、一般の人間は一生足を踏み入れることすら許されない最高級スイートルームの一室において、


泥川電鉄の行く手を阻む新たなる、そしてこれまでのライバルとは次元の異なる不穏で巨大な企みが、冷酷に進行していた。


「ハッハッハ! 見たまえ、この東洋の小国の新聞を! 日本のローカル鉄道経営など、実に原始的で、反吐が出るほど取るに足らん滑稽な代物だな!」



 天井でまばゆいばかりの輝きを放つ、最高級のクリスタルガラス製シャンデリア。


その光に照らされながら、最高級のイタリア製本革張りソファに深く腰掛け、


ルビー色に妖しくきらめく年代物の最高級ヴィンテージワイングラスを優雅に傾けていたのは、


世界的な規模を誇る海外の巨大鉄道資本『ルブラン・コンチネンタル社』の日本支社長を務める男、ジャン・ルブランであった。


 彼は本国フランスの由緒正しき貴族の血を引いており、そのプライドはエベレストよりも高い。


細部まで完璧に計算されて仕立てられた、一着で泥川電鉄の年間予算が半分吹き飛ぶような最高級シルクの特注スーツを隙なく身にまとい、


顎の髭をミリ単位で綺麗に切り整えたルブランは、目の前で直立不動の姿勢を取りながら冷や汗を流している部下の報告を聞き、


東洋のローカル私鉄を見下すような傲慢で冷徹な蔑みの笑みを、その薄い唇に浮かべていた。


「ルブラン支社長。先ほど、我が社の情報網から確実な報告が入りました。


日本の政府鉄道省は、あの深刻な過疎化と壊滅的な赤字に喘いでいる沿岸の国営路線『港町線』の経営再建、


およびその沿線地域全体の復興権限を、大手の官営鉄道ではなく、あの大逆転で名を馳せた『泥川電鉄』という地方の小さな、本当にちんけな私鉄に全権委託した模様です」


「泥川電鉄……?


ああ、あの国家表彰とかいう大層な名誉を東洋の政府から賜ったとかいう、田舎の貧相な極小会社のことか。


風の噂で聞いた話では、代表を務める黒田とかいう得体の知れない男は、


線路の横の薄汚れた木製ベンチで団子を焼いて泥臭く貪り食ったり、ガタゴトと揺れるボロ車内で素人の小娘どもに素っ頓狂な歌を歌わせているだけの、文化の『ぶ』の字も知らん野蛮人だそうじゃないか」


「はい、まさに支社長のおっしゃる通りでございます。


彼らが今回の港町で急ピッチで進めている再建企画というのも、現地からの報告によれば、


なにやら『走る列車の中に本物の土で作った七輪を持ち込み、お客様の目の前で生の魚介類をベタベタと炭火で焼いて食わせる』などという、


およそ近代的な交通インフラの常識や美学からはかけ離れた、正気を疑うような代物とのことです。車内は煙まみれ、煤まみれになるに違いありません」


「クックック……クハッ、ハーッハッハッハッハ!」


 ルブランは手にした高価なクリスタルグラスを危うく床に落としそうになるほど激しく肩を震わせ、


ついにはソファに背中を預けて、部屋中に響き渡る大声で高笑いした。


その下品で尊大な笑い声が、大理石でできた静かなスイートルームの壁に跳ね返り、不気味に木霊する。


「電車の中で生の魚を焼くだと!? なんという野蛮! なんという貧乏臭く、品性の欠片もない下賤な発想だ!


鉄道とは本来、国家の近代化と高度な科学技術、そして洗練された上流階級の『エレガンス』の結晶なのだぞ!


その神聖なる車内に、生臭い煙と煤をモクモクと撒き散らしながら魚を貪り食うなど、まさに狂気の沙汰、正気の沙汰ではない!


東洋の猿どもの考えることは、いつの時代も私の想像を超えて底が浅く、救いようがないな!」


 ルブランの本当の狙いは、単なるローカル電車の運行などという、小さな利権の話ではなかった。


 彼の真の目的は、政府の財政難と港町線の経営難に巧妙に付け込み、港町周辺の広大な土地、および海外貿易の拠点となる重要な港湾権利そのものを、国の弱みを握ることで二束三文の捨て値で強引に買い叩いて買収することであった。


 港町が持つ本来の海の美しさや立地のポテンシャルを強奪し、古き良き日本の漁師町を、自らの莫大な資本の力によって、きらびやかなカジノや高級ホテルが立ち並ぶ近代欧風の超高級リゾート地へと完全に塗り替える。


そして、日本のひと握りの特権階級、富裕層、財閥のトップや華族たちから、会員制という名目で莫大な私財を永久に吸い上げようと画策していたのである。


そのためには、地元で必死に生きている漁師たちや、泥川電鉄のような邪魔な存在は、文字通り根こそぎ排除しなければならなかった。


そして、その邪悪で華やかな計画の先兵として、ルブランは自社の世界最高峰の技術と、


湯水のような資金を結集して製造された、ある圧倒的な「怪物車両」を、本国フランスから日本へと秘密裏に持ち込んでいた。


「見よ! 我がルブラン・コンチネンタル社が世界に誇る、最高級欧風動く宮殿、超豪華寝台列車『ル・グラン・コンチネンタル号』の美しき姿を!」


 ルブランが誇らしげに、大理石の机の上に恭しく広げた巨大な設計図面。


そこには、これまでの日本の鉄道の常識を遥かに超越した、目も眩むような光景が描かれていた。


 まばゆい純金箔の装飾と深紅の漆を思わせる最高級の塗装で彩られた煌びやかな車体。


一歩足を踏み入れれば歩く足音が完全に消えるほどの、フランス宮殿御用達の最高級ペルシャ絨毯が敷き詰められたプライベートスイート個室。


そして、フランスの本国から天文学的な給与で招いたという、超一流三つ星シェフが腕を振るう、最高峰のフレンチのフルコース料理を提供する大理石造りの食堂車。


 その食堂車で提供されるメニューのリストには、キャビア、フォアグラ、トリュフをふんだんに使った前菜や、


最高級のワインで煮込んだ特製の肉料理など、贅の限りを尽くした名前が並んでいる。


「いいかね、よく聞きなさい。日本の気位だけは無駄に高い富裕層や成金、そして華族の貴族どもが、最後にどちらを選ぶか。


泥川電鉄のあの煙たくて泥臭い、貧乏人が群がる『魚焼き列車』か?


それとも、我が社が提供する、世界基準の洗練された『最上のエレガンス』か?


答えなど、わざわざ私の口から言うまでもあるまい! 誰もが、我が社の美しい宮殿列車に乗りたがり、ひれ伏すのだ!」


 ルブランはソファから勢いよく立ち上がり、都心の美しい夜景を一望できる大きなガラス窓の前に立つと、


夜空に浮かぶ月に向かって高々とワイングラスを掲げた。


その瞳には、冷酷な国際資本家としての強欲な野心が、ギラギラと不気味に燃え盛っている。


「まずは政府の要人に圧力をかけ、港町線の買収権利をあの泥川電鉄の小娘社長から力ずくで強奪する!


そして、我が社の誇る『グラン・コンチネンタル号』を現地の線路へ強引に投入し、あの黒田という小癪な男の鼻を完全に叩き折り、


日本の甘い鉄道市場を丸ごと我が社の支配下に置いてコントロールしてやるのだ!! ハッハッハッハ!!」


 馬場局長という国内のライバルが去った直後、泥川電鉄の前に立ちはだかったのは、


国境を越えてやってきた外資系の巨大な怪物資本、ルブランであった。


 彼らが放つ、金と権力にモノを言わせた巨大な陰謀の影は、


何も知らずに「お魚が美味しいねぇ」とのんきに笑っている私たちが待つ港町へと、


一歩ずつ、そして冷酷に着実に忍び寄っていたのである。

洗練されたエレガンスVS臭い煙を撒き散らす魚焼き列車。圧倒的な資金力の前に泥川電鉄の予約はゼロへ。しかし、七輪でサザエを焼く黒田の瞳には、まだ一点の曇りもなかった。

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