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国営鉄道を追放された俺、弱小私鉄で「温泉付き遊園地」を作ったら大繁盛!  作者: 塩塚 蘭仮名


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第11話:次なる舞台は「衰退した港町」

国家表彰を受けても変わらず日向ぼっこを愛する黒田。そんな彼の元に届いたのは、政府の鉄道省から直々に届いた、極度の赤字に苦しむ「港町線」の経営再建命令だった。

官営鉄道の長である馬場局長が仕掛けてきた、国家予算を背景にした卑劣極まりない妨害工作の数々。


都心に東洋一の大劇場を建設して泥川の住民を奪おうとしたり、巨額の資金力を背景に沿線を力技で開発しようとしたり。


しかし、泥川(どろかわ)電鉄はそれらの攻撃をすべて「走る劇場」や「沿線まるごとテーマパーク計画」といった、温かみのあるおもてなしの心と抜群のコストパフォーマンスで見事に無力化してしまった。


 その結果、泥川電鉄を潰そうと動いていた政府の査察団は逆に感動の涙を流して大絶賛し、


馬場局長は自身の不正や乱投資が祟って憲兵隊に逮捕され、文字通り盛大に吐血して失脚。


そして泥川電鉄は、政府からまさかの「国家表彰」や「政府公認・優良模範鉄道」の認定まで受けてしまうという、大逆転の結末を迎えたのであった。


 これによって、泥川電鉄の知名度は中央政界や都心部の人々の間で一躍トップクラスとなり、


駅前は連日、観光客と新しい住民たちの活気ある笑顔で満ち溢れるようになった。


 だが、この奇跡のような大逆転劇を起こした泥川電鉄の創業者であり、


技術長官(という名の、車両の修理から椅子の製作まで何でもこなす便利屋)である私、黒田宗次(くろだ・そうじ)の望みは、最初から何ひとつ変わっていない。


「日当たりの良いベンチで、温かいお茶をすすりながら、のんびり日向ぼっこをすること」


 ただそれだけだ。


どれほど会社が大きくなろうとも、国家から表彰されようとも、私にとって一番大切なのは、のんびりとした平和な時間なのである。


「はぁ〜、今日もお茶が美味いねぇ」


泥川駅のホーム脇、日当たりの良い特等席に置いた手作りの木製ベンチで、私は急須から茶碗へ二杯目の温かい緑茶をトクトクと注いでいた。


秋の澄み渡った高い空から優しく降り注ぐ日差しは本当に心地よく、電車のガタゴトという遠い駆動音を子守唄代わりに聞いていると、自然と瞼が重くなってくる。


ずずっとお茶をすすり、ふぃ〜と息を吐き出す。まさに至福の時間だった。


 だが、そんな穏やかで平和な静寂は、遠くから聞こえてくる慌ただしい足音と、


誰かが大声で叫ぶ緊迫した声によって、一瞬にして木っ端微塵に打ち砕かれることとなった。


「宗次さんっ! 大変です! 大変なことになりましたっ!! すぐに起きてください!!」


 ドタバタと派手に音を立てて走ってきたのは、泥川電鉄の若き社長である千代(ちよ)ちゃんだ。


彼女は小さな肩を上下させて激しく息を荒らし、頬を林檎のように真っ赤に染めながら、


両手で一通の重厚な紫色の紐で結ばれた書簡を宝物のようにつかみ、必死に握りしめていた。その表情は驚愕と焦燥で完全に引きつっている。


「どうしたの千代ちゃん、そんなに慌てて。そんなに猛スピードで走ったら、ホームの砂利で滑って転んじゃうよ。ほら、せっかく淹れたての上い等なお茶があるんだから、まずは一杯飲んで落ち着きなさいな」


「お茶を飲んでいる場合じゃありませんよ宗次さん! のんきに日向ぼっこしている暇なんて一秒もありませんわ!


これを見てください、政府の『鉄道省』から、我が泥川電鉄宛てに直々で届いた『特筆依頼書』です!」


千代ちゃんからひったくるように手渡された、上質な和紙で作られた紙面を開いてみる。


そこには、中央政府の冷厳な公印とともに、毛筆の達筆な文字で驚くべき内容がこう記されていた。


『泥川電鉄代表・黒田宗次殿。貴殿の卓越した沿線開発の手腕と、国民の支持を集める見事な経営感覚に鑑み、政府鉄道省より特別の要請をなす。


かつて海外との貿易の拠点として大いに栄えながらも、現在は主要ルートの変更により極度の赤字と過疎化に苦しむ旧国営路線「港町(みなとまち)線」の経営再建、


およびその沿線地域全体の復興を命ず』


「港町線……?」


 私が書簡を持ったまま不思議そうに首を傾げると、すぐ横の木製の柱の陰から、スッと音もなく静かに人影が差し込んできた。


「黒田様。港町線とは、ここ泥川駅から汽車に揺られて二時間ほど南下した沿岸部に位置する、由緒正しき旧官営路線にございます」


 声をかけたのは、元・官営鉄道の優秀な隠密(刺客)でありながら、現在は私の人柄と(独自の勘違いによる)圧倒的な軍師ぶりに惚れ込み、


泥川電鉄の優秀な雑用兼護衛として日々完璧に働く男、霧島(きりしま)だ。


彼は目にも留まらぬ芸術的な手つきで私の茶碗へ鉄瓶からお湯を足し、冷めないように気配りしながら、真剣な表情で解説を続けた。


「かつては海外からの大型貿易船が頻繁に出入りし、毎日のように大量の魚介類が水揚げされる漁業の街として、それは大いに賑わった高名な港町にございます。


しかし、近年は都心部への最新の高速物流ルートが別に開通したことにより、港としての重要性が激変。


すっかり寂れてしまったと聞きます。


利便性の低下に伴って若者を中心とした住民の離脱が止まらず、現在の鉄道の乗車率は、最盛期の二割以下という惨状。


国としても運行を維持するだけで毎月膨大な赤字を垂れ流している、誰も引き取りたがらない最悪のお荷物路線にございますな」


「う〜ん……」


 私は眉間にシワを寄せ、実に渋い顔を作った。


湯呑みから立ち上る湯気を眺めながら、心の底から面倒くさそうなため息をつく。


「遠出をするのは本当にめんどくさいなぁ……。


僕は泥川のこの日当たりの良いベンチで、千代ちゃんや霧島くんと一緒にお茶を飲んでいる方が何倍も楽しいよ。


このお仕事、忙しいからって言って、丁重にお断りしちゃダメなのかな?」


「そんなのダメに決まってるじゃないですか!」


と千代ちゃんが両手を振り回して絶叫した。


「政府からの直々の、しかも名指しでの正式な依頼ですよ!?


もしこんな名誉な要請を『めんどくさいから』なんて理由で断ったりしたら、『国家の命令を無視した不届き者だ』って政府の偉い人たちに睨まれて、


また官営鉄道の残り香みたいな人たちから意味のわからない陰湿な嫌がらせや営業妨害を受けちゃうかもしれませんわ!」


「でもなぁ、港町なんて遠い場所に行っても、何があるか僕にはさっぱり分からないし、


僕みたいな素人が行ったところで、寂れた路線をどうにかできるわけがないと思うんだけど……」


 完全に腰が引けており、全く乗り気ではない私が、お茶を濁すように茶碗を再び口元に運ぼうとした、まさにその時だった。

お荷物路線の現状を聞いて嫌がる宗次と、必死に説得する千代ちゃんのテンポ良い掛け合いを意識して整形いたしました。


霧島がフッと眼鏡の奥の目を怪しく光らせ、口元に不敵な笑みを浮かべると、


周囲に聞こえないような小声で、私の耳元にそっと顔を近づけて囁いたのだ。


「……黒田様。これはあくまで現地に潜入した我が隠密仲間の風の噂にございますが、


その港町は現在観光客が途絶えているせいで、獲れたての『天然の巨大サザエや、身がはち切れんばかりの大エビ、さらには口の中でとろける極上の天然マグロ』といった最高級の海の幸が、


都心の数分の一という信じられないような格安の値段で、毎日食べ放題の状態で転がっているそうでございますよ」


 ピクッ、と私の茶碗を持つ手が完全に止まった。眼鏡の奥の私の目が、わずかに見開かれる。


「……海の、幸?」


「はい。漁師たちが海から上がった瞬間に網から外した、まだ生きているプリプリした魚介類を、


そのまま浜辺の炭火で豪快に炙り、地元の職人が仕込んだ幻の地酒とともに味わう……まさに人生至高の贅沢かと」


「……」


「さらに、黒田様。その港町の波打ち際の手前には、押し寄せる本物の波の音と潮風を全身に浴びながら、水平線に沈む美しい夕日を眺めて浸かることができる、


『絶景の海辺露天風呂』がひっそりと佇んでいるそうでございます」


 ドクン、と私の胸が高鳴った。


「……絶景の、露天風呂?」


「左様でございます。遮るものの何もない大自然の中、心地よい波の音を特等席で聞きながら、


肩まで熱々の湯にじんわりと浸かる……日頃の電車の修理や開発で溜まった疲れなど、一瞬で宇宙の彼方へ吹き飛ぶかと」


 私は一瞬の沈黙を守った。


ホームに静寂が戻り、千代ちゃんが不安そうに私の顔を覗き込んでいる。


私は手に持っていた茶碗を、カタッと音を立てて静かに手作りの木製ベンチの上へと置いた。


 そして、突如として目付きを鋭く変えると、目の前でオロオロしている千代ちゃんの両肩をがしっと力強く掴み、


これまでにないほど真剣で熱い眼差しを彼女の瞳へ真っ直ぐにぶつけながら、堂々とした声で告げたのだ。


「……よし、行こう、千代ちゃん。今すぐ港町へ旅立つぞ」


「ええっ!? 急にものすごい覇王みたいなやる気になった!?」


 千代ちゃんは私のあまりの豹変ぶりに、驚きのあまり後ろに数歩よろめいた。


「何を言うんだい千代ちゃん! かつて貿易の要として国を支え、今は衰退して苦しんでいる港町の人々や、


廃線の危機に怯えている現地の鉄道員たちを、この泥川電鉄の技術長官である私が放っておくなんて、


鉄道員として、いや一人の人間としてあるまじき卑劣な行為だよ!


困っている人がいるなら、千里の道を越えてでも駆けつけるのが泥川電鉄の精神じゃないか! さあ、霧島くん、すぐに現地の調査と旅支度を始めなさい!」


「はっ! 黒田様のその崇高なる大義名分と底なしの慈悲深さ、この霧島、魂の底から感服いたしました!


直ちに港町へ向かう特別編成の準備に取り掛かります!」


 霧島はまたしても「黒田様は、港町の経済資源を完全に掌握し、政府の弱みを握るために敢えて大義名分を掲げて動くのだ……なんと冷徹で完璧な支配者だ!」と、


凄まじい誇大妄想の勘違いを起こし、感動に打ち震えながら敬礼して車庫へと脱兎のごとく走っていった。


 そんな霧島の背中を見送りながら、千代ちゃんだけは半目でジト目を私に向け、腰に手を当てて呆れたようにため息をついた。


「……宗次さん。今のご立派なセリフ、心の中に『美味しいお魚を炭火で食べて、温泉でのんびりしたい』っていう下心が透けて見えすぎていて、全く説得力がありませんわ。


絶対にお魚と露天風呂が目的じゃないですかぁぁぁッ!!」


 千代ちゃんの全力のツッコミが、秋の高く澄み渡った青空へ向かって木霊した。


 こうして、のんきでお茶が大好きな技術長官である私と、苦労人が板についてきた若き社長の千代ちゃん、


そして戦闘力と雑務能力が異常に高い勘違い雑用係の霧島の三人は、


泥川の平和なベンチにひとまず別れを告げ、次なる新たな舞台—


広大な海と美味しい食べ物、そして大赤字の線路が待つ『港町』へと、


大いなる(下心に満ちた)旅路へ一歩を踏み出すことになるのだった。

海の幸と絶景露天風呂につられた黒田は、千代と霧島を引き連れ新天地へ。しかし、サビだらけの荒れ果てた港町の影で、日本の鉄道市場を狙う「外資系の巨大資本」が不気味に牙を剥いていた。

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