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少年、整備兵として正式に認められる
空襲から数日が過ぎても、
飛行場にはまだ焦げた匂いが残っていた。
焼けた木材。
歪んだ鉄板。
油にまみれた地面。
格納庫では整備兵たちが、黙々と残骸を片付けている。
誰も余計なことは喋らん。
戦争が長引くほど、人間は静かになる。
少年も、その中に混じって働いていた。
以前より口数が減った。
けれど、動きには迷いがない。
重い工具箱を抱え、
煤で汚れた機体へ駆け寄り、
黙って手を動かす。
その目だけが変わっていた。
空を知った目や。
空襲の日。
炎の中へ飛び込んで燃料バルブを閉めた話は、いつの間にか整備兵たちの間に広がっていた。
「……あの坊主、ようやったらしいな。」
「見習いの度胸やない。」
「命知らずや。」
少年は何も言わず、工具を磨いていた。
けれど耳だけは、赤くなっとった。
夕暮れ前。
整備長が少年を呼び止めた。
厳しい顔の男やった。
何人もの整備兵を育て、
何人もの死を見送ってきた目をしている。
「お前、こっち来い。」
少年は背筋を伸ばして前へ出た。
整備長はしばらく黙ったまま少年を見ていた。
やがて、小さく頷く。
「……今日から、お前は正式な整備兵や。」
少年は息を呑んだ。
「え……。」
整備長は煙草を咥えたまま言った。
「空襲の日、お前は逃げへんかった。」
「飛行機を守るいうんは、命を守るいうことや。」
「それが分かっとる奴は、もう一人前や。」
黒羽ノ介が語る。
滑走路は、一本の道やない。
空へ伸びる、光の川や。
朝は白く、
昼は銀に灼け、
夕暮れには血みたいに赤く染まる。
六甲から吹き下ろす風。
湾岸の湿った海風。
街の熱を吸った上昇気流。
それらが滑走路の上で交わり、
人間たちを空へ押し上げていく。
わしには見える。
風の流れも、
飛び立った者の記憶も。
空は忘れへん。
誰が飛び、
誰が落ち、
誰が帰らんかったかを。




