6-1
リンたちは、小学校の中に入ったはいいがどこに向かえばいいのかわからなかった。
「とりあえず、わたしたちの教室に行ってみる?」
カノンが、至極当然の提案をした。しかし、それを聞いたメグが難色を示す。
「それこそ、罠がある可能性が高いですわ」
「まあ、そうかもしれませんが先ほども言ったように罠に飛び込んでみるもの手だと思うんですよ」
「でも・・・」
メグは、それでもしり込みをしているようだ。それを見て、リンがメグをそっと抱きしめる。
「何が心配なんですか?話してみてください」
メグは、甘えるようにリンの胸に顔をうずめる。そして、そのままの状態で話し始めた。
「メグは、非科学的なことは信用してないんですの。でも、今回のことはそれが覆される感じで嫌なのですわ。だって、このまま進むと悪いことが起こる感じがするんですもの。何の根拠もなく、それこそただのカンのようなものでしかないんですわ」
「なるほど。そうなんですね。でもですね、メグ。カンというものは今までメグが生きてきた中で見聞きしたものを無意識に結び付けて何かしらの啓示を示しているものだと思うんです。だから、きっとメグのそのカンは間違っていないと思いますよ」
「だったら!」
メグは、リンの胸元から顔を上げてしっかりとリンの目を見る。リンは、その目を真摯に受け止めて、それでもなお先に進むことを諦めない意思を示した。
「僕は、行ってみます。だけど、メグに強要することはできません。怖いなら、戻ってもいいんですよ」
リンは、本心からそう思っていた。別に、メグが足手まといだとか思っているわけではない。ただ、メグが望まないことはして欲しくないだけだ。リンはなんだかんだで、メグのことを信じているし頼りにもしている。いてくれるだけで心強いとも思っている。そして、とても強い人だということも知っている。だからこそ、そんな彼女が望まないなら行く必要はないと思っている。
そんなリンの思いを知ってか知らずか、メグはブンブンと頭を横に振る。
「違う!違うのですわ!メグは、メグが怖いのはリン様が傷つくことですわ!」
「僕、ですか?」
メグは、ものすごい勢いで頷く。
「リン様が行くのでしたら、メグも行きます!メグが、リン様を守りますわ!」
リンは、一瞬面くらった顔をしたがすぐに柔らかく微笑むとメグの頭をなでた。
「ありがとうございます。メグはかっこいいですね。では、行きますか」
二人の様子をうかがっていたカノンに、リンが視線を向けると、カノンは頷き歩き出した。
「こっちだよ。二人ともついてきて」
カノンに続いて、リンとメグがついていく。小学校は4階建てでカノンたちの教室は最上階の4階にあった。カノンはある教室の前で足を止めた。
「ここがわたしたちの教室だよ」
カノンがドアを開けようとしたが、リンがカノンの手を止める。カノンは不思議そうにリンを見上げるが、リンはカノンをそっと押しやりその前に出る。そして、カノンの代わりにドアに手をかけた。
「メグ、カノン、二人は僕の後ろにいてください。離れないように」
カノンとメグは目を見合わせると、離れないようにしっかりとその手をつないだ。それを確認したリンが、ゆっくりとドアを開けた。
ドアを開けてしばらく様子を見るが特に変化はない。リンは、意を決して教室の中へと足を踏み入れた。カノンとメグもそれに続く。教室の中は、月明りに照らされて電気をつけなくても問題ないほどだった。念のために、電気のスイッチを入れてみるが、明かりがつくことはなかった。その月明かりの中、三人はゆっくりと教室の中ほどまで歩を進めた。それでも、特に変化はないので、三人は少しだけ警戒を解いた。
カノンは、教室のほぼ真ん中の席まで移動した。
「ここが、今のわたしの席。それで、あそこがコウ君の席」
カノンは、同じ列の窓際の席を指さした。リンがその席へと向かう。
「ここがコウの席なのですね」
ガシャン!!
リンの言葉が合図になったかのように、教室の入り口が閉められた。
「ハハハハ!やりました!やりましたよ!もうあなたちちがここから出ることは不可能です!!」
教室の外から狂ったように笑う男の声が聞こえた。リンがいち早く動いて、出入り口に手をかけるがびくともしない。単に鍵を閉められたというより、そもそも最初から動かないもののようにガタガタという音さえしない。リンたちの慌てぶりがわかるのか、外にいる人物は更に尊大になっているようだった。
「無駄ですよ。あなたたちは、もう中から外へ出ることはできないんですよ。これで、やっと我々の悲願に近づく一歩になるのです!」
リンは、しばらくドアだけでなく壁や窓などそこら中を叩いて回ってみたが、この教室自体が一つの箱にでもなってしまったようにすべてが同じ感触だった。固いというより、高反発の素材でできているように跳ね返ってくる。
「リンくん。どうしよう・・・」
「そうですね。とりあえず、何か他に情報がないか探るしかーーー」
ジジジジジーーーー
三人が戸惑っているところに、微かな電子音がして、放送用のマイクから声が聞こえてきた。
『こんばんは。皆さん。お越しいただきありがとうございます』
「!!」
リンとカノンには、その声に覚えがあった。
「エル、ですね」
『覚えていただいていたみたいで光栄です。そして、再び百目鬼家のご当主を連れてきていただきありがたい限りです』
「別に、あなたに会わせるために連れてきたわけではありません」
『おやおや、つれないですね。ですが、あなたは迂闊ですね』
「どういうことですか!」
極力冷静に努めようと、気持ちを落ち着かせて受け答えするようにしているが、どんどんと自分が感情的になっていくのを止められない。
『ふむ。そうですね。それでは、あなたの迂闊さを少し教えてあげるならば、この教室の中はワタシの管理下にあります。ゆえに、あなた方は絶対的に不利な状況にあるんですよ、今。おそらく、罠だということはわかったうえで乗り込んできたのでしょう。そして、どうにかなると高をくくっていた。今までがそれでどうにかなってきていたから。でもですね、今回はどうでしょうね』
確かに、罠だという予測はしていた、それでもあえて罠にかかりに来た。自分ならどうにかできるかもしれないという慢心があったのも確かだ。
「エル!あなたの目的は何なんですか!」
『ほう。その質問は百目鬼家当主が目的ということの更に裏にある目的のことについてですかね』
「そうだ!」
『ふむふむ。そうですね。それでは、少しお話ししましょうかね。ということで、少し座ってください』
その言葉を受けて、体が勝手に動き出す。
「な、なんですの!?」
現実主義者のメグが、一番動揺しているようだった。
「メグ、落ち着いてください。ひとまず、今は相手の出方をみてみましょう」
「リン様が、そういうのでしたら・・・」
メグは、リンの言葉に少しだけ落ち着きを取り戻し、今は無駄な抵抗をすること辞めて身を任せた。
そして、最終的には三人はそれぞれに距離を置いた場所で席につくことになった。真ん中にカノン、廊下側にメグ、そして窓側にリンが座っている。リンが座ったのは、ちょうどコウの席だった。三人が座ったところで、それを見計らったかのようにエルが話し出した。
「さてさて、それでは落ちつたところで少し話をしましょうか」
エルの声は、若い人物のようにも聞こえるがなぜかそれに違和感を覚えるような不思議な雰囲気を醸し出している。リンは、抗議の声を上げようとしたがなぜか声が出ない。体も動かない。ここは、おとなしくエルの話を聞くしかないようだった。




