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幸運の器  作者: ユキ。


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36/46

5-6

 リンたちが移動してからしばらくたったころ、旧百目鬼邸跡地にはリュウの姿があった。

「どういうことだ?」

 リュウは、リンたちと同じ反応を示した。

「どうしたの?」

 不意に後ろから声をかけられた。アリスだった。

「なんでアリスがここにいるんだ?」

 リュウにしては珍しく少し怒っているようだった。しかし、アリスはリュウと出会ったのは最初に会った時以来だったので、そのリュウの様子が珍しいことだとはわかっていなかった。だからこそ、リュウの様子をあまり気にしていないのだろう。

「リュウ君こそ、なんでここにいるの?」

 リュウは、少ない情報を頭をフル回転させてつなげていく。そして、ある可能性にたどり着いた。

「もしかして、アリス、何か危険な目にあったりしたか?」

 アリスは、目を見開く。

「もしかして、リン君に何か聞いた?」

「いや、聞いてない。でも・・・。そうか、だったらごめん」

「どうして、リュウ君が謝るのよ」

「それは、アリスが危険な目にあったのは十中八九、俺たちと出会ったからだと思うから。俺たちに関わらなければ危険な目に合うことなく平和に暮らせてたんだ。だから、謝って済むことじゃないけど・・・ごめん」

 アリスは、確かに危ない目にあったけど後悔はしていない。それよりも、リュウのまるで自分が傷ついたみたいに痛みに耐えるような表情にどうしようもなく罪悪感を覚える。

「別に、リュウ君たちが悪いわけじゃないよ。どっちかというと自業自得だし」

「もしかして、傷が残るようなケガをしたのか?」

「ううん。それは大丈夫。ちょっとした記憶の混乱はあるけど、リン君たちが検査とかもたくさんしてくれて、大きな問題はないってお医者さんが太鼓判を押してくれたから」

 リュウは、アリスに近づくとアリスの後頭部をそっとなでた。そこに小さなこぶのようなものがあるのが分かった。

「ちょっと、リュウ君?」

「ホントにごめんな。だからこそ、アリスはもう俺たちに関わらない方がいい。こんなところにいないで、早く帰りな」

 まるで小さな子供にでも言い聞かすように優しく諭すような声音に、アリスも思わず頷きそうになる。でも、アリスはやっぱり自分だけがまるで仲間はずれにあったように感じた。それがとてつもなく寂して悔しい。

「ねえ、リュウ君。アタシに悪いと思ってるんなら、一緒に連れて行ってよ」

 自分でもこんな言い方卑怯だというのはわかってる。だけど、前回は自分でも少しは役に立ったと自負している。今回だって、何かしらの役に立てることもあるかもしれない。どうしても引かないという強い意志を持ってリュウのことを見る。リュウは、そんなアリスの視線をまっすぐに受け止めて、そのうえで首を横に振った。

「ダメだ。俺が今日中に片をつけるから。ちゃんとどうなったか報告するから、おとなしく待っててほしい」

 お互いに引く気がない無言の攻防をしばらく続けていたが、誰かが近づいてくる音でその戦いは一度中断された。

 その足音はやっと歩いているという感じの足を引きずるような音で、ゆっくりゆっくりと近づいてきていた。足音の主は、リュウとアリスからは数メートル離れたところで止まった。逆光になっているからか顔の造作は確認できなかった。しかし、リュウにはその人物が誰なのかわかった。

「ショウ」

「・・・」

 リュウが声をかけるが返事はない。それでもかまわず、リュウは話しかけた。

「ショウ。無事だったんだな。良かった」

 無言で立ち尽くす人影にリュウは声をかけるが、やはり返事がない。

「ショウ?大丈夫か?」

 リュウは、その人物がショウであると確信しているので何のためらいもなく影に近寄った。そして、そこにいたのは、確かにショウだった。ただ、様子がおかしかった。

「ショウ?」

 リュウが、ショウの肩に手をかけ視線を合わせるように少しかがんだ。それでも、ショウは下を向いていて視線を合わせることができない。リュウは、ショウの顔を両手で挟むとゆっくりと顔を上げさせた。

「ショウ。どうした?」

 顔を上げたショウは、唇をかみしめ瞳には涙を浮かべ何かに耐えるような表情をしていた。リュウは、そっとショウのことを抱きしめるとその背中を優しくたたきながら「大丈夫」という言葉を繰り返した。どのくらい時間がたったのだろうか。小刻みに震えていたショウの体から力が抜けると、しっかりとした眼差しでリュウのことを見た。

「リュウ、お兄ちゃん」

 久しぶりに声を出すかのように、掠れてしまった声をなんとか絞り出すようにささやいた。

「どうした?」

「たす、けて」

「わかった」

「ちょっと、リュウ君そんな安請け合いな・・・」

「アリス。心配してくれんのは嬉しいけど、ショウを助けないなんて言う選択肢はないんだよ。たとえ、それが難しいことだとしても、俺はショウを助ける」

「お兄ちゃん、ありがとう」

 ついには、ショウの瞳から涙が溢れだした。今までどれだけ我慢していたのか、まるで枯れることがないように次から次へと零れ落ちていく。リュウは、ショウが落ち着くまで優しく抱きしめ続けた。涙を出し切り、ようやくショウの瞳にリュウの顔をしっかりと映し出せるようになった。それを受けて、リュウは改めてショウに問いかけた。

「ショウ、少し落ち着いたか?だったら詳しい話を聞かせてくれないか?」

 ショウはコクンと小さく頷き深呼吸をすると、しっかりとした視線をリュウに向けた。

「お兄ちゃん、お父さんを助けて」

「どういうことだ?」

「あの日、お兄ちゃんと最後に会った日、ぼく、ちゃんと部屋に戻ったんだ。でもね、お父さんがあの日以降ドンドンやつれていっちゃって・・・。それで、今日、ぼくと話している途中で電話が来て、そうしたらもうぼくのことも見えてないように慌てて出かけちゃったの。ぼく、なんだか怖いことが起こるような気がして・・・」

 ショウは、リュウと別れてから今日までの出来事を拙いながらも一生懸命にリュウへと伝えた。リュウは、ショウの話を聞き洩らさないように真剣に耳を傾けた。

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