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幸運の器  作者: ユキ。


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5-4

 リュウとハルカは、クラウドから今の状態の説明を受けていた。

「リュウ、お前は外傷こそ見た目酷いものがあったが、これもお前の能力なのか半端ない回復力で治っていったからもう問題はない」

「俺の能力?確かに昔から怪我とかしてもすぐ治ってたけど」

「これはオレの個人的な見解だが、お前は外部に限らず内部からの影響を受けにくいんじゃないかと思う」

「どーいうこと?」

 リュウの疑問はもっともだが、クラウドはどう説明していいのか考えあぐねている。長い間、いろんな人間の器を見てきたがここにきて特殊な器が急激に増えてきている気がする。

「あーくそ!説明が難しいんだよ。要は、お前はお前ってことだ」

「いやそれ全く説明になってねーから」

「いずれわかるようになるさ」

「そんな投げやりな」

「とにかく、お前は難しく考えなくてそのままでいいってことだ」

「それじゃあ、リュウ君は心配ないのね」

「ま、そうなるな。それよりも、嬢ちゃんの方が問題だ」

 クラウドの言葉に、ハルカよりもリュウの方が激しく反応した。

「オッサン、どういうことだよ!」

「まあ、落ち着けって」

「そうよ。私が聞かなくちゃいけないことなのに」

「ごめん。でも・・・」

「そんな顔すんな。男前が台無しだぞ」

「んだよそれ」

「今から話すこともオレの憶測だから確かなことじゃあないが、あながち間違ってはいないと思うが聞くか?」

「たり前だろ!」

「はい」

 二人の返事にクラウドは複雑そうな表情を浮かべたが、気を取り直したように口を開いた。

「嬢ちゃんの器は、少年とは逆で他から影響を受けやすいもんだ」

「影響を・・・」

「受ける?」

「これまた説明しづらいが、ここに来た時の嬢ちゃんの器は、限りなく悪いものに染まってたんだよ。だがな、リュウに触れることでその悪いもんが消えていって本来の器にほぼ戻ったって感じだ」

 リュウは、じっと自分の手を見つめてからハルカの手に自分の手を重ねた。

「リュウ君?」

「ハル、何か感じる?」

「えーっと、暖かい、かな?」

「コラコラコラ、お二人さん。二人だけの世界に入らない!」

「わりー、オッサンの話聞いてたら確認したくなっちった」

「ハイハイハイ。おめーは単に触りたいだけだろーが。このエロガキが」

「健全な青少年でーす」

「わーったから、ほら嬢ちゃん真っ赤になっちまっだろうが」

 リュウがハルカを見ると確かに顔を赤く染めて怒ってるような照れてるような、リュウから見たら何とも可愛らしい表情をしていた。

「ねえ、ハル」

「な、なに?」

「抱きしめていい?」

「なっ!なに急に変なことーーー」

 リュウはハルカの返事を待たずにその小さい体を自分の体ですっぽりと包み込んだ。まるで壊れ物でも抱くように優しくそれでいて決して離さないように。

「ちょっ!リュウ君!私まだ良いって言ってない!」

「ーーー嫌、だった?」

 リュウは少しだけ体を離し、ハルカの瞳を見ながら問いかけた。

「その聞き方ズルいよ」

「何で?」

「ホントにタチ悪いんだから」

 リュウが計算して行動しているのなら、それもそれでタチが悪いが、計算しないで行動しているのならもっとタチが悪い。しかも、どうもリュウの場合は後者な感じがする。こういうのを天然タラシって言うのだろうか。

「ハル、ごめん」

 シュンとした表情でハルカから離れようとするリュウを思わず引き止めるようにその背中に手を回してしまった。

「ハル?嫌じゃなかった?」

「・・・悔しいけど、嫌じゃ、ない」

 あまりの恥ずかしさから小さくなる声をリュウは聞き逃さなかった。

「ホント!?じゃあさーーー」

 リュウは、一呼吸置いてまた視線を合わせると先程とは明らかな変化が見えた。いつもは真っ直ぐで曇りのない視線が、惑うようにさ迷っている。ほんのり色付いた目元と頬は妙な色気さえ漂わせていて、思わずそのまま吸い寄せられてしまいそうだ。ハルカは、リュウが何を言おうとしているのかわかる気がした。そして、自分はそれを拒めないことも感じていた。リュウの視線がハルカのそれと重なった。もう逸らすことなどお互いにできない。

「キス、してもいい?」

 その言葉は、ハルカが予想した通りではあったがそれ以上の破壊力があった。体が自分のものでないように勝手に動く。ハルカはリュウの首に腕を回すと、自ら唇を重ねに行っていた。リュウは、少し驚いた表情を見せたが、すぐに蕩けるような笑顔を見せてハルカを迎えた。

「ゴホン」

 わざとらしい咳払いが聞こえて、二人は我に返って慌てて離れた。

「あのなー、さっきも言ったがオッサンの存在忘れないでくれる?」

「ご、ごめんなさい!私ったらなんて事ーーー」

 恥ずかしさ全開のハルカとは対称的にリュウは不服そうな顔をしている。

「オッサン、空気読んでよ」

「んな事してやるか!カップルなんて全て滅んでしまえ!」

「オッサンのやっかみ見苦しいぞー」

「言ってろ!」

「でもさ、実際のところーーー」

 リュウは、今までのふざけたような態度は消え、真剣な表情でクラウドのことを見た。

「オッサンいなかったら俺らヤバかったんだろ?だからーーー」

 リュウは立ち上がると、深く頭をたれた。

「ありがとうございました。感謝してます」

 リュウが心からの礼をする。ハルカも慌てて立ち上がろうとするが、自分が下着姿だということに気づいた。それでも、自分たちを救ってくれた人に礼儀をかく理由にならない。ハルカも診察台から降りるとリュウに並び深く頭を下げた。その肩にそっと今まで被っていた布がかけられると同時に背後からギュッと抱きしめられた。

「そんな姿俺以外に見せちゃダメ」

 リュウの声が耳元で聞こえる。

「ちょっとリュウ君離れて」

「ヤダ」

 リュウの手に更に力が入る。先ほどまでのまじめな雰囲気が一変、ただのバカップルのいちゃつきにクラウドは苦笑いする。

「わーった、わーったからオレの前でイチャつくな!」

 悪態を着くクラウドだったが、その目は二人を暖かく見守ってるようにも見えた。

「なあ、オッサン」

 リュウは、相変わらずハルカを抱きしめたままだったが、真剣な色を帯びた声でクラウドに対峙した。

「俺はもう動いていいんだよな」

「・・・まあ、な。医者としては安静にしろと言いたいところだがーーー」

 クラウドは、リュウの揺るがない瞳を見て説得するのを諦めた。

「だが、こっちの嬢ちゃんはダメだぞ」

「わかってるって。ハルに危険な真似なんてさせられねーよ」

「ちょっと待って」

「なに?」

「それは私を甘く見すぎてない?私だって危ないことしようとしてる人を黙って送り出すわけないでしょ!」

「くー」

「な、何?」

「怒ったハルも可愛い!」

「ふざけないで!」

「ふざけてねーよ」

 リュウは、壊れ物でも扱うような手つきでハルカの頬を包んだ。

「ハル。ハルの気持ちは痛いほどわかる。けど、ハルの体調は万全じゃないだろ?」

 チラリと視線をクラウドに向けると頷くのが見えた。リュウは、深く息を吐き出すと少し声のトーンをあえて落とした。

「ハルは足手まといだからーーー着いてくるな」

「リュウ、く、ん」

「それに、ハルには学校があるだろ?」

「・・・」

 リュウの言葉にハルカの表情が曇る。

「どうした?何かあるのか?」

「・・・先生は、辞めたの」

「えっ!?」

「ちょうど夏休みに入るし、生徒を守れないような先生だから向いてないのかなって思って」

「どういうことだよ!なんでハルが先生辞めなきゃなんねーんだよ!」

「こら、少年。大きな声出すな」

 クラウドに言われてリュウは、ハッとした。

「ごめん。怖がらせるつもりは・・・」

「うん。わかってる。私が不甲斐ないだけだから」

「そんなことは・・・」

 ハルカは、綺麗な笑顔を見せるとリュウの目を真っ直ぐに見た。

「私は、後悔はしてないよ。言ったでしょ。私をあまり甘く見ないでよね」

「ハル・・・」

「リュウ君の言う通り、私は回復することに専念するから、だから無茶だけはしないでね」

「ああ、わかってる。だから、戻ってきたらデートしよ」

「・・・うん。わかった」

 リュウは満面の笑みを浮かべると、ギュッとハルカを抱きしめるた。お互いにその存在を確かめるように抱き合う。しばらくすると、リュウは名残惜しそうにハルカを離し、クラウドと向き合った。

「オッサン、ちょっと二人で話せないか?」

「お?おお。別にいいが・・・」

 今までの言動から、ハルカにではなく自分に話があるということが解せない。しかし、どうもハルカには聞かせたくない話なのは理解できた。


 リュウとクラウドは、ハルカから少し離れ部屋の隅へと移動した。

「で、どうしたんだ?」

「あのさ。ハルのことちゃんと見ててほしいんだ」

「何言ってんだ。ヤブかもしれねーがオレは一応医者だぞ。患者をほっとくわけないだろうが」

「そっか」

 心の底からホッとしたような表情を見せてから、リュウはすぐにその表情を引き締めた。

「俺、もう一度あの場所に行こうと思ってんだ」

「あのなー、お前もオレの患者なんだぞ。そうはいっても、聞かねーんだろう?ーーーもしかして一人で行くつもりか?」

「ああ」

 その意志は固いようでゆるぎない強い視線をクラウドに向けてくる。

「仲間がいるんだろ?だったら、一緒に行きゃーいいじゃねえか」

「・・・。確かにその方がいいことはわかってる。でも、嫌なんだよ。誰かが傷つくのが」

「お前なー。それは、おそらくお前さんの仲間たちも同じこと思ってんじゃねーか?」

 クラウドの言葉に、リュウは言葉が詰まる。リュウもそれはよくわかっていた。リンたちが、自分のことを心配していることも傷ついてほしくないと思っていることも。

「オッサン、言ったじゃねーか。俺は頑丈だって。だから、もし傷つくことがあるんなら俺一人でいい。大丈夫、俺はそう簡単にやられるつもりねーから」

 クラウドは、そう簡単にリュウのことを説得できないことを悟った。

「はー、しょうがねーな。だったら、せめてこいつを持っていけ」

 クラウドは、そばにあった机の中から小さな箱を取り出してリュウへと渡した。

「何?これ」

「お守りみてーなもんだ。ただ、俺自身もこれがどういう動作をするかはわからん」

「なんだよそれ。でも、まーお守りなんだろ。オッサンからっていうのがアレだけど、サンキューな」

 屈託なく笑うリュウに、クラウドの方も自然と顔がほころぶ。リュウに渡したものは、器の研究をしている際にできた副産物のようなものだ。リュウに話したように、これがどんな影響を及ぼすのかはわかっていない。それでも、なぜかこれを今リュウに渡すことは正しいことだと確信をしていた。

「それより、オッサン、リンたちが今どうしてるか知ってるか?」

「お前の相棒のことか?」

「ああ。さっき電話した限りでは無事なのはわかったけど、やっぱ心配でさ」

 リュウの表情は、今まで見た中で一番年相応で友達を心配する普通の少年のように見えた。

「そいつらなら、今は善哉家にいるみてーだな」

「百目鬼家じゃなくて?」

「ああ。百目鬼家は、しばらくは近づかない方がいいかもな」

「何かあったのか?」

「そういうわけじゃねーが、まあ、百目鬼家も一枚岩じゃねーってことだな」

 クラウドの言葉に、リュウの頭の上に疑問符が浮かんでるのが見えるようだった。それでも、しばらくすると自分の中で折り合いがついたのか表情を引き締めて頷いた。

「わかった。じゃあ、俺はもう行くから。オッサン、頼んだぞ」

 それだけ言うとリュウは、ハルカの元へと駆け寄った。そして、その唇に軽く触れるだけのキスをした。

「な、に。急に」

「ハルカ、好きだよ。それだけは忘れないで。ハルカが俺の事心配してくれるように俺もハルカのこと心配だから、無茶だけはしないで欲しい」

「無茶って。無茶しようとしてるのはリュウキ、あなたでしょ!」

「いいな、それ」

「?」

「次会った時もリュウキって呼んで」

 リュウは、再び別れを惜しむようにハルカにキスをした。

「あなたってキス魔なの?」

「ハルカ限定の、な。じゃあ、また」

「・・・気をつけてね」

 心配そうに見上げてくるハルカの頭にポンと手を乗せてふんわりと微笑むとそのまま出ていってしまった。

「嬢ちゃんも苦労するな」

「そんなことないですよ」

 リュウの背中を見送った二人はしばらくその場に佇んでいた。

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