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幸運の器  作者: ユキ。


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33/46

5-3

 リュウからの連絡で落ち着きを取り戻したリンは、すぐさま次の一手を考えていた。考え込むリンの周りには、三者三様の女性陣がいた。アリスは、明らかにメグを気にしている。しかし、メグは全く他の二人を気にしている素振りはない。そして、カノンはそんな二人を戸惑うように見ていた。

「あ、あのメグさん!」

 意を決してカノンがメグに話しかける。話しかけられたメグは、ふんわりと微笑んでカノンを見た。

「はい、何でしょうか、カノン様」

「えーっと、そのカノン様って言うのは慣れないので、出来ればもうちょっと気軽に呼んでもらいたいかな?」

「あら?そうなのですか?それは失礼いたしました。では、カンちゃんと呼ばせていただきますわ」

「カン、ちゃん?えっと、じゃあそれで」

「はい。カンちゃんは何かメグに話したいことがあるのですよね?」

「えっ?あっ、うん。話したいことって言うか、メグさんはいつまで日本にいるの?」

「メグがここにいたら迷惑ですか?」

「えっ?ちがっ!そうじゃなくて」

「フフフ。ごめんなさい。ちょっと意地悪でしたね。メグは、しばらくリン様のそばにいる予定です」

「リンくんの?」

「ええ。何と言ってもメグはリン様の許嫁ですから」

 どんと胸をはるメグの言葉に、アリスがピクリと反応する。

「ごめん。横から口出すけど、その許嫁ってお互いに納得してるの?」

 アリスの言葉に、メグは何のためらいもなく頷く。

「ええ。それはもちろんですわ。少なくともメグはリン様のことを愛してますわ」

「愛って・・・」

 その言葉の重みがわかっているのか測りかねるが、少なくとも本人は大真面目にそう答えていることはわかった。アリスをじっと見つめるメグの眼差しは揺るぎなく、アリスの方がその視線に耐えられなくなりそらしてしまった。チラリとリンの方を見ると、その耳が真っ赤になっているのが見えた。平静を装っているが、照れていることはアリスには一目瞭然だった。アリスはそれ以上そのことに触れるのはダメージが大きくなりそうだと感じ、話題を別のものにすり替えた。

「それより、メグちゃんは海外に留学でもしてるの?」

 メグはアリスを観察するように見ていたが、ニコリと完璧な笑顔を見せて頷いた。

「ええ。メグは今はアメリカの大学で学んでいますわ」

「えっ?大学?」

(どう見ても中学生くらいにしか見えないけど、実はリン君よりも年上なのかな?)

「ちなみに、メグちゃんって今何歳なの?」

「メグは十三歳ですわ」

「えっ!?」

「メグは、いわゆる天才ってやつなんですよ」

 リンが横から助け舟を出してきた。メグを形容する言葉は陳腐にも聞こえるが、それか一番しっくりくるから仕方がない。

「あら?リン様。それは褒めていただけてるのでしょうか?」

「褒めると言うか事実だからね」

「それでしたらリン様も天才ではありませんか」

「僕が?」

「ええ。メグはリン様のこととても尊敬しているのですわ。それと、悔しいですがリュウ様も天才ですわ」

「リュウが天才なのはわかるけど---」

「ちょっと待った!何でこんなに天才が渋滞してるの!?」

「類は友を呼ぶということでしょうか?」

「だからってーーー」

「アリスさん、お気持ちはわかります。ちなみに、僕は天才ではないです。天才と言うのは、メグやそれにリュウのような人のことを言いますからね」

「リン様はご自分のことを過小評価しすぎですわ」

 リンはメグの言葉にただ曖昧に微笑むだけだった。アリスから言わせたら、自分以外のここにいる人たちは全員天才と言ってもいいのではないかと思えてくる。唯一話題に加わっていないカノンをチラリと見るが、どう考えてもカノンもあちら側だ。話を切り上げるようにリンが声を上げた。

「これからなのですが、僕はもう一度あのビルに行ってみようと思います」

「あのビルって、もしかして・・・」

 リンは、頷く。

「なんで今まであそこに戻ることをしなかったのか、自分でも不思議ですが、行き詰ったら原点に戻るべきだったんです」

「でも、リュウくんは何もするなって言ってたじゃない」

「リュウの言うことをうのみにしちゃだめですよ」

「どういうこと?」

 リンは、少し困ったような表情でカノンを見るとどう説明しようかと答えあぐねているようだった。

「リュウは・・・。リュウはたぶん自分一人で解決しようとするんじゃないかと思うんです」

「えっ?なんで?」

「なんでと言われても、リュウだからとしかいいようがないですね。だからこそ、リュウよりも先に僕が解決したいんです」

「それは、危険ですわ」

 メグがまず反応した。

「怖くないの?」

 カノンが心配そうにつぶやく。

「アタシもいく!」

 アリスの一言でその場が一瞬凍りついた。メグは、すぐに自分を取り戻すと抗議の声を上げた。

「アリス様、メグがリン様と二人だけでそんな所に送り出すと思ったら大間違いですわ」

 メグにつられるように、カノンとリンもそれぞれアリスを諭すように言葉を紡ぐ。

「アリスさん。やめた方がいいよ。また怪我するよ?」

「ダメですよアリスさん。今回は僕一人で行ってみます。これ以上、あなたに迷惑かけるわけには行きませんから」

「迷惑だなんてーーー」

「アリス様。あなたはおそらく巻き込まれただけの人ではないですか?でしたら、全て忘れて安全な生活に戻るべきですわ」

 メグの言葉に思わず言葉が詰まる。アリスに言わせれば、急に出てきたメグの方が部外者に感じられる。でも、先ほども感じたがどう考えてもこの中で異質なのは自分だけだ。それが、悔しくてたまらない。だから、簡単に引き下がることはできない。

「そうよ!アタシは巻き込まれただけ!でもね、だからこそちゃんと結末を知りたい!」

 アリスの悲痛な叫びが響く。カノンは、それでもやっぱりアリスをこれ以上危険な目に合わせたくなかった。アリスだけじゃなく、リュウやリンそれに今はメグまでいる。もう、誰も傷ついてほしくない。

「ねえ、アリスさん。気持ちはわかったけど、わたしたちはあなたにこれ以上傷ついて欲しくないの。あなたの記憶を消すことだって出来るけどそこまでもしたくないの。結末がどうなったかちゃんと教えるから、あまり危険なことはしないで欲しいな」

 そう言うカノンは心底アリスを心配しているように見えた。アリスを見つめるそのカノンの真剣な表情にこれ以上我を通すことができなくなる。

「ーーーわかったわ。でも、そっちこそ危険なことはしないでよね。知り合いがニュースになるとこなんて見たくない」

 アリスは、あえて何でもないことのように言うことで自分を保つことにした。

「それはご心配には及びませんわ。報道規制などーーー」

「メグ、余計なことは言わなくていいですよ」

「ごめんなさい、リン様」

 シュンと項垂れるメグの頭を慰めるように撫でてからリンはアリスに向き合う。

「大丈夫ですよ。メグに言わせれば僕も天才らしいので」

 どこからくるのかわからない自信を滲ませて、リンは力強く頷いて見せた。

「それに、リン様をお一人で行かせる訳にはまいりませんわ」

「そうだよね。わたしは当事者だし。そもそもわたしが巻き込んじゃっようなものだし」

「メグ、カノン。もしかしてですが、着いてくるつもりですか?」

「当たり前ですわ」「当たり前よ」

 リンは、二人の顔を見て説得するのは難しいことを悟った。そして、アリスを見て言った。

「どうやら、僕以上に天才な二人が着いてくるので心配はいらないみたいです」

「ホント、心配するのがバカらしくなるくらいあなたたちは特別なのね」

 少し寂しそうにそう呟くアリスだが、すぐに気を取り直して顔をあげ真っ直ぐリンを見た。

「待ってるから。絶対にみんな戻ってきて、アタシにことの顛末を教えてよね」

「はい」「うん」「もちろんですわ」

 三人もアリスの気持ちに応えるように微笑んだ。

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