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リンはスマホで何度もリュウにメッセージを送っていた。しかし、返ってきたのは最初の一通のみ。もう、かれこれリンは喫茶店に1時間はいる。そして、その向かいには相変わらずアリスがいた。
「バイトはいいんですか」
不機嫌さを丸出しにしながらリンはアリスに尋ねた。
「今日はバイトないもの」
「じゃあ、何でここにいるんですか」
「アタシが休みにどこに行こうと勝手でしょ?」
「それはそうですが・・・」
「ねえ、リン君」
リンはギョッとした様にアリスを見た。
「何よその顔」
「いえ、名前を覚えてるとは思ってなかったもので」
「どんだけアタシをアホだと思ってるのよ」
「そうではないのですが、あまり知らない方に名前を呼ばれ慣れていないもので」
「プッ。アハハハハハ」
「何故笑うんですか」
訝しげなリンに対してアリスはとても楽しそうだった。
「だって!どんだけ人見知りなのよ」
「人見知り?僕が?」
「何その初めて知りましたって顔は」
「うるさいですよ。そんなことはいいですから、何か聞きたい事があったんじゃないですか?」
「ああ、そうそう。もう一人のイケメン君、リュウ君だっけ?彼は今日はいないの?それとも待ち合わせ?」
リンの顔が曇る。それを見て、アリスも笑顔を引っ込めて真剣な表情をした。
「ねえ、あなたたち。危ない事、してないわよね」
「あなたには関係ない事です」
「そうね。確かに関係ないけど、それでもあなたたちと知り合っちゃったんだからほっとけないわ」
「それでも、放っておいて下さい」
「でもーーー」
ブルルルル。
リンのスマホが震え出した。表示にリュウの名前がある。リンはあからさまにホッとした表情を見せてスマホを手に取った。
「リュウ、何回連絡したとーーー」
そこでリンは口を閉ざした。
「お前は、誰だ」
押し殺してはいるが、殺気だったリンの声にアリスも息を潜める。
「君たちは百目鬼家の者ですか?」
「・・・違う」
「なるほど。百目鬼家ではないが何かしらの関係はあるという事ですね」
「そんなことはどうでもいい!リュウは無事か!?」
「ああ。このスマホの持ち主ですか。それなら。まだ無事です」
「まだ?」
「ええ。こちらの要求をのむなら無事に帰しましょう。ただし、百目鬼家には知らせてはいけません。知らせれば、直ちに彼には消えてもらいます」
「っ!ーーーわかった。どうすればいい」
「そうですね。まずは、百目鬼家の当主、百目鬼華音を連れてきてもらいましょうか」
「・・・今、百目鬼家には知らせるなと言わなかったか?」
「ふふふ。そうですね。百目鬼家には知らさないでください。そのうえで、百目鬼華音を連れてきてください」
「ッ!・・・カノンをどうするつもりだ!」
「おやおや、あなたは百目鬼家ご当主とは懇意なのですか?でも、安心して下さい。殺しはしません」
「ころっーーー本当だな」
「ええ。ワタシは嘘が嫌いなのです」
「わかった。どこに連れて行けばいいんだ」
「あなたの目の前のビルですよ。このスマホの持ち主もいますからね」
「・・・わかった。時間は?」
「そうですね。一時間後にしましょう」
「一時間後だな。約束は守れよ」
「ええ、もちろんです。ワタシはウソと約束を破る事が大嫌いなんですよ。では、一時間後にーーー」
そこで電話が切れた。
「っクソ!」
「ちょっとリン君?」
リンは、ハッとして顔を上げた。自分が今どこにいて誰といたかをようやく思い出した。
「すみません。僕は用ができたのでこれで失礼させていただきます」
そう言って立ちあがろうとするリンの腕をアリスは咄嗟に掴んだ。
「何ですか?」
リンは訝しげな顔をする。
「大丈夫なの?」
「あなたには関係ない事です。手を離して下さい」
「ほっとけないよ!そんな泣きそうな顔してるのに!」
リンは、またしても自分では無自覚で表情が崩れていたことに気づく。取り繕うように手で顔を隠す。
「泣いてなどいないです」
「でも・・・。役に立たないかもしれない。だけど、アタシにも何か手伝わせて!」
リンは、優しい手つきでアリスの手を自分の腕から引き離した。その優しい仕草とは裏腹に強い拒絶を感じた。
「すみません。もう行きますね。気をつけて帰ってください」
それだけ言い残すとリンは足早に店を後にした。




