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一方、ビルの中のリュウはショウに連れられて地下へと降りてきていた。短い廊下があり降りて左手と正面に扉がある。ショウは、左手の扉を開けた。
「どうぞ!ここがぼくの部屋」
自慢げなショウの表情にリュウの顔も緩む。リュウは、ショウの部屋へと入った。そこは、この家の異様さとは程遠くとても子供らしい部屋だった。唯一変わっていることは、窓がないことくらいだ。地下なので当然だが、リュウは少し息苦しさを感じた。
「あのさ」
「なに?」
「上にも部屋があるみたいだけど、何で地下に部屋があるんだ?息苦しくないか?」
「?」
ショウは、不思議そうにリュウを見てから天井を見上げた。
「何でって。地上は危険なんでしょ?」
「地上が危険?誰がそんなこと言ってたんだ?」
「お父さん」
間髪入れずショウは答える。その顔は、キラキラと輝いている。父親のことを何も疑っていない、ただ純粋に父親が好きだということが伝わってくる。
「そっか・・・。お父さんのこと大好きなんだな」
「うん」
ショウは嬉しそうに頷く。
「お父さんって凄いんだよ!」
「そうなのか?どんなところが凄いんだ?」
「あのね。お父さんって人間が作れちゃうんだよ!」
「人間を、作る?」
「うん!あっ!でもこれ言っちゃダメって言われてたことだった。どうしよう」
「大丈夫。怒られるなら俺も一緒に怒られるから。なっ?」
泣きそうになってたショウの顔がパッと明るくなる。
「うん。お兄ちゃん。約束だよ!」
リュウは、ショウの子供らしい反応に微笑ましく思う一方で、その内容を思うと複雑な感情も感じていた。
「お父さんはね、本当は学校の先生だったんだって」
ショウは、リュウのそんな考えに思いも及ばす更に無邪気な笑顔を見せ、自慢げにそう言った。
「ああ、そういえばハルセンセがそんな事言ってたな」
「そっか。お兄ちゃんも神谷先生と仲良しなんだっけ」
「うーんと、その前に俺の名前はリュウ。お前は?」
「あっ、そっか。ぼくはショウだよ」
「そっか。で、ショウ。俺はハルセンセが大好きだけど、まだ仲良しってわけじゃないんだ」
「そっかー、リュウお兄ちゃんは神谷先生が好きなんだ。だったら、ぼくのライバルだね」
「そうだな。ライバルだな」
「へへへ」
嬉しそうに笑うショウを見てると、リュウも自然と笑顔が溢れた。
「なんか変だね。ぼくたちライバルなのに。ぼく、リュウお兄ちゃんも好きになっちゃったかも」
「俺もショウのこと好きだぞ。俺には弟がいるからさ。なんかもう一人弟が増えた感じだ」
「弟か・・・。へへへ、ぼく一人っ子だから兄弟に憧れてたんだ。嬉しいな・・・」
最後の方は、少し寂しげな表情を見せながらの言葉だっだが、すぐに気を取り直したのか、キラキラした瞳をリュウに向けた。
「ぼくね、今の学校に通いだすまでお外に出たことがなかったんだ」
「えっ?それって・・・どういうことだ?別の学校に通ってたんじゃないのか?」
ショウは、フルフルと頭を横に振ると少し小首をかしげる。
「だって、お外は危ないんでしょ?だから、いままでずっとお家で過ごしてたんだよ。でもね、今通っている学校は大丈夫だってお父さんが言ってたよ」
リュウは、部屋の中を見回す。よく見ると、本棚には小学生が読むには難しそうな学術書なども並んでいる。
「今まで、勉強はどうしてたんだ?」
「勉強?うーん、よくわからないけどお父さんがなんでも教えてくれるよ。お父さんは、本当に何でも知ってるんだ。すごいんだよ」
「そうか・・・。ショウ、学校は楽しいか?」
その質問に、ショウの顔はパッとほころび嬉しそうに頷く。
「うん。すっごく楽しい!お友達っていいね。ぼく、今まで同じぐらいの年の子と遊んだことなかったから、今は本当に楽しくて毎日早く学校に行きたくて仕方ないんだ」
「それは、良かったな」
リュウは、ショウの嬉しそうな顔を見て良かったと思う反面、今までのことを思うとやるせない気持ちになった。
「そういえば、この前、神谷先生がうちに来たんだよ」
「えっ!?」
ショウの言葉にリュウの思考が止まる。ハルカは、ツガゴシとはショウが転入してきた日以来会っていないと言っていた。そう言っていた日から、数日がたっているからそのあと会ったのかもしれないが、それにしても何の連絡ももらっていない。百目鬼家からの報告もなかった。急に黙り込んでしまったリュウを、ショウは少し不安そうな表情で覗き込む。
「リュウお兄ちゃんどうしたの?」
「ああ、いや何でもない。それより、ハルセンセは何しに来たかわかるか?」
「うーんとね、ぼくもこっそり二人が話しているところを聞いただけだから詳しくはわからないけど、お父さんの仕事を手伝ってるみたい」
「仕事?」
「うん。さっき話したやつ」
「人間を作るってやつか?」
「確か、神谷先生はお手伝いしに来たって言ってた気がする」
そこで初めてショウの表情が曇った。
「ん?どした?」
「うん・・・。でもね、すぐにお父さんと神谷先生、言い争いになっちゃって・・・」
「言い争いって、何でそうなったのかはわかるか?」
「ううん。二人ともぼくにはわからない難しい話をしていたから。すぐに、言い争いは収まったんだけど、なんか嫌な事が起こりそうでーーー少し怖いんだ」
「嫌な事、か。具体的にどんな事が起こりそうとかわかるか?」
ショウは、首を横に振る。
「でも、もしかしたらラーーーー」
プツン。いきなり照明が切れて真っ暗になった。
「停電か?おい、ショウ大丈夫か?」
ーーー
「ショウ?おい!ショウ!返事しろ!」
ーーー
リュウはショウの無事を確かめるため立ちあがろうとしたが、何故か足に力が入らない。
「ヤ、バイーーー」
何とかリンに連絡を取ろうとスマホに手を伸ばすが、その手は力無く下に落ちる。リュウの意識もそのまま闇の中へと落ちて行った。




