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三人は例のビルの前に立っていた。やはり、ただの雑居ビルにしか見えない。実は、中は普通のマンションなのかもしれないが、それにしてはあまりに無骨にも見える。
「あのさ、ここが家なのか?」
さすがのリュウも戸惑いながらショウに尋ねる。
「うん。そうだよ。ぼくもお家の玄関見るの久しぶりかも」
どこかウキウキとした表情のショウに、二人は何も言えなくなる。
「とにかく、お邪魔させていただきましょう」
「うん。早く入って入って!」
ショウに手を引かれるように、二人はビルの中へと一歩踏みこんだ。そして、その外観とのあまりのギャップにリュウとリンは足が止まってしまった。不思議そうにショウが振り返る。
「どうしたの?お兄ちゃんたち」
「いや、想像していたのとちょーっと違ってたからびっくりしただけ」
「そうなの?」
二人が驚くのも無理はなかった。外観は、どこにでもあるような雑居ビルと言った感じだったが、中は一般的な一軒家の様な造りになっている。入ってすぐに玄関まである。二人はショウに倣って靴を脱いで上がった。
玄関からは、奥に続く廊下とその右側に上へがる階段と下へ下る階段がある。ショウは、階段のほうに足を向ける「ぼくの部屋にご招待するね」と嬉しそうに下がっていく。二人も顔を見合わせた後、まずリュウから階段に足を乗せた。それに続いてリンも足を乗せた瞬間だった。
バチン!
大きな音が響きリンが玄関の外まで吹っ飛ばされた。前にも似た事があったので、二人はそれだけで事態を察した。下まで着いていたショウが、驚いた顔をしてリュウを見上げた。
「なに!?どうしたの?大きな音したけど大丈夫?」
リュウは、にっこりと笑顔を作ると「大丈夫、大丈夫。もう一人のお兄ちゃん急用を思い出したって慌てて帰ったから大きな音させて玄関から出て行っちゃったんだよ。わりーな」とごまかした。
「そうなんだ」
ショウは、少ししょんぼりとしてしまう。
「俺だけじゃダメか?」
「ううん!お兄ちゃんだけでも嬉しい!」
リュウは、ショウの頭に手を乗せ優しく撫でると「じゃ、ご招待をお受けします」と戯けた感じで応えると、ショウは満面の笑みを見せた。
一方、リンはビルの前に弾き飛ばされていた。しかし、その場に留まることは悪手だと判断し、すぐにその場を後にした。幸い、近くに人がいなかったので不審に思われることはなかった。リンは、以前リュウとアリスと訪れた喫茶店に足を運んだ。そこからなら向かいの様子がよく見えるからだ。
「とりあえず、リュウに知らせなくてはいけませんね」
リンは、スマホを出すとリュウにメッセージを送った。すると、すぐに「こっちは、大丈夫だ」と返信が返ってきた。
「ひとまずは安心ですね」
言葉とは裏腹にリンの表情は強張っている。あまりに例のビルに集中していたため、すぐそばに人が立ったことに気づくのが遅れた。
「何してるの?」
アリスだった。リンには珍しく少し慌てたようにアリスを振り返る。
「アリス・・・さん」
「いいわよ、別に呼び捨てで。君のお友達なんてすぐそうしてたじゃない」
「リュウは、特別です」
「そっ」
アリスはリンの同意を取る前にリンの前に座った。
「何か用ですか?」
明らかにイラついた雰囲気を醸し出しながらリンはアリスに言った。
「別にー」
「だったら!・・・だったら席を外してくれませんか」
「嫌だ」
「何なんですか!僕は忙しいんです!あなたに構ってる暇なんてーーー」
「別に構ってくれなくていいわよ。アタシはここにいたいからいるだけ。それに、暇じゃないってじゃあ何してるの?アタシには、外を眺めてるだけに見えるけど」
「それは・・・。言えません。お願いですから僕に構わないでください」
「じゃあ、一言言わせてもらうけど、今の君はほっとけない」
「何故ですか!?」
「だって、今にも泣きそうな顔してるじゃない」
リンは思わず自分の顔に手をやった。
「そんなことは・・・」
アリスは優しくリンの頭を撫でると「大丈夫。アタシはただココにいるだけ。空気だとでも思ってればいいよ。だから、少し落ち着きなさい」といった。
「子供扱いしないでください」
そっと、頭の手を払いながら、それでも先ほどよりは落ち着いた声でリンは答えた。その様子を見てアリスもにっこりと微笑む。
「うん。わかった」
そこで、二人の会話は終わったが二人の間には穏やかな空気が流れた。アリスは宣言通りコーヒーを飲みながら本を読み始めた。その様子を確認して、リンは改めて外の様子を伺った。
特に変化は見られないが、油断はできない。リュウが何か危険な状況に陥った時に自分は何ができるのか頭をフル回転させて考えていた。




