4‐1
リュウとリンは暗い夜道を歩いていた。
「リン」
「何ですか」
「・・・まあ、良いけど」
「何一人で納得しているんですか」
「いや、何でもない。それより、やっぱり昼間にまたくるつもりか?」
「そうですね」
「お前は、もういいぞ」
「?どういう事ですか?」
「大体これは俺の弟の問題だから、これ以上お前に迷惑かけらんねー」
「あなたはバカなんですか?」
「バッ!バカって何だよ」
「コウは僕にとっても弟と同じです。一人で悲劇のお兄さんにならないでください」
「別にそんなつもりで言ったわけじゃーーー」
「わかってますよ」
「ったく!ホント可愛くないよな」
「可愛くなくて結構です」
「でも、めっちゃ頼りになる弟だよ、お前は。俺にとって」
「何ですか、急に」
「別に」
そう言って前を向いて歩き出すリュウの背中をリンは眩しそうに見ていた。
「僕にとってあなたはずっとヒーローですよ」
リンはリュウの背中にポツリと呟いた。
「んー?なんか言ったか?」
「何でもありませんよ。それよりーーー」
二つの影は夜の闇の中に寄り添いながら消えて行った。
次の日、二人は小学校の前で待ち伏せするのをやめて、例のビルの近くで張り込んでいた。今日も、小学校は午前授業のはずだ。ショウが本当にこの建物に用があるのならもう間もなくその姿が見えるはずだ。
しばらくすると、またしても気を失って抱えられたショウがビルの中へと入っていった。
「どうする?」
「そうですね。とりあえず、今日はショウの最終目的地がこのビルだという確認は取れましたので明日決行しましょう」
リンの言葉に、リュウは複雑そうな表情を見せたが一つ頷くことで意思を示した。
また次の日。同時刻。
ショウは、いつものように帰路についていた。友達といるときは平気なのだが、一人になるといつもだんだんと具合が悪くなってしまい、自分でもどうやって家に戻っているのかわからないのだ。気づくといつも家のベッドで寝ているという繰り返しだった。しかし、その日は具合が悪くなる前に、突然二人の少年に呼び止められた。
「ちょっと、いいか?」
人当たりが良さそうな茶髪の少年が話しかけてきた。
「・・・ごめんなさい。知らない人とは話しちゃいけないって」
ショウは、二人の少年と初めて会ったと思っている。しかし、それは事実ではない。実際には、数日前に小学校で出会っているが、ショウにとってはもっと衝撃的な出来事があったため、二人の少年のことは全く覚えていなかったのだ。
「あーまーそうだよな」
少年は困ったように隣の黒髪の少年を見た。
「僕たちは君が通っている小学校の先生の友達です」
「先生?先生って、神谷悠佳先生?」
「どうしてハルセンセだと思ったんだ?」
ショウの担任は遠藤で、ハルカではない。それなのに、なぜか一番に名前が出てきたことが気にかかる。
「だって、僕、神谷先生のこと好きだから」
「好きなのか?えっ?どういう意味で?」
リュウは敏感に反応している。
「どういう意味って・・・。普通に好きだから好きじゃ、ダメ?」
可愛らしく首をかしげるショウに、リュウは何も言えなくなる。その様子に、リンは少しあきれ顔になりながら、話を引き継いだ。
「そうです。そのハルカ先生と僕たちは友達なんです」
「そうなんだ!でも、先生がどうかしたの?」
「ハルカ先生と君のお父さんが仲が良いって聞いたのですが・・・」
ショウの顔がパッと明るくなる。
「うん。そうだよ。お父さんからはよく神谷先生の話を聞いてるよ」
「話ですか。それはどう言ったお話ですか?」
「うーんとね。ぼくにはちょっと難しくてわかんないんだけど、とにかく何か困ったことがあったら神谷先生を頼りなさいって」
「そっか。で?何か困ったことあったか?」
ショウは少し考えてみたが、そもそも困るということがよくわからなかった。考え込んでしまったショウを見て、少年たち・・・リュウとリンは顔を見合わせた。ふっと何かを思い出したようにショウが顔を上げた。
「そういえば、ぼく学校では困ったことはないんだけど、帰り道でいつも困っちゃってるかも」
「どういうことだ?」
「ぼくね、いつも帰る途中で記憶がなくなっちゃって、気づくとお家で寝てるんだ。なんでだと思う?」
リュウとリンは、帰り道で倒れこむショウを見ている。そして、それを誰かが担いで運んでいくということも。ただ、たまたま具合が悪くなっただけかもとも思っていた。しかし、確かに次の日も抱えられて帰ってきていた。ということは、それは常態化しているということだろうか。ちなみに、今日はなぜだかショウの後をついてきている影はない。
リュウは、腰を落としショウと視線を合わせる。
「そっか、それは心配だな。俺らでよければ家まで送っていくぞ」
「ホント!」
屈託のない笑顔で見てくるショウに、リュウの胸はチクリと痛む。それでも、ショウが心配なことには変わりがない。そっとショウと手をつなぐと歩き出す。ショウは、少し驚いた顔をしたが嬉しそうに一緒に歩き出す。リンは、少し困った顔をしながらもリュウとは反対の手を取る。その瞬間、リンとショウが足を止めた。一人だけ歩を進めていたリュウは不審に思って振り返る。
「どうしたんだ?二人とも」
リュウが話しかけても、二人は目を見合わせて同じように驚いた顔をしている。しかし、すぐにリンは気を取り直すと「行きましょう」と再び歩き出した。ショウも少し不思議そうに首をひねりながらも歩き出した。リュウもそれに続く。ショウの頭越しに、リンとリュウの視線が合わさる。それだけで、リュウは今はリンに問いただすべきでないと察した。すぐにリュウは、ショウにとりとめのない話をして気分を解す。ショウも、リュウと話すうちにさっき確かに感じた違和感を徐々に忘れていき、家が近くなるころにはすっかり忘れてしまっていた。
「ねえねえ、お兄ちゃんたち。ぼくのお家すぐそこだからおいでよ」
ここまで、一緒に歩き話すうちにショウはすっかり二人に心を許すようになっていた。二人はまさか招待されるとは思っていなかったので、驚いて顔を見合わた。
「いいのか?」
「うん。お父さんには学校のお友達は連れてきちゃダメって言われてるけど、お兄ちゃんたちは学校の友達じゃないから」
無邪気にそういうショウの顔は、期待に満ちている。
「なーんか、騙してる気分なんだけど」
リュウは、小声でリンに耳打ちする。
「そうですね。でもこれは好機です」
リンはショウに目線を合わせると「お言葉に甘えさせていただきます」と言った。




