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百目鬼家の茶室は、静寂に包まれていた。リンがまず口を開く。
「それでは、この場所は百目鬼家の別邸があった場所と言うことでしょうか」
「うん・・・。そうなの」
青ざめた表情のカノンが応える。
「その事件の後、この場所はどういう扱いになっていたのですか?」
「百目鬼家にとっては表沙汰にしたくないことだったから、何も無かったことに。そもそも、ここに土地すら無かったことにしたの」
「土地を消すことなどできませんよね」
「・・・」
カノンは、青ざめたまま視線を彷徨わせてついには顔を伏せてしまった。
「カノン。黙っていては分かりません。あなたの家が過去にしたことです。何か言ったらーーー」
「リン」
大きくはないが、よく通る声が響いた。
「リン。それくらいにしといてやれ。お前が憤ってるのもわかるけど、カノンのせいじゃない。それはお前も分かってんだろ?」
「それは・・・」
リンはきつく拳を握りしめてその手をゆっくりとおろした。
「カノン。すみません。明らかに僕の八つ当たりです」
カノンは、顔を伏せたままフルフルと首を横に振る。
「カノン」
リュウはカノンの前に膝をつくとそっとその小さな体を抱きしめた。
「辛い話をさせて悪かったな」
カノンの背中を優しくポンポンとあやす様に叩きながら優しい声で話しかける。カノンの瞳からポロポロと涙がこぼれ落ちる。ついには堪えきれなくなったのか、声をあげて泣き出した。
「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい」
「カノンが謝ることじゃない。今はお前が当主なんだろ?だったら、カノンがこの家を変えれば良い」
「無理だよ。だって、私はただのお飾りだもの」
「だーいじょうぶだって。だって、ほら、俺らもいるだろ?」
カノンは、顔を上げてリュウを見た。頼もしい笑顔を見せるリュウがそこにいる。恐る恐るリンの方を振り返る。リンは、少し照れ臭そうにそれでも誠実な光を瞳に宿し、真っ直ぐにカノンを見つめ頷いた。
「ありがとう!二人とも!」
カノンはリュウに抱きつき、それからリンにも駆け寄り抱きついた。リンは戸惑いながらも、小さな女の子を受け止めた。リュウは、満足そうに一つ頷くとすぐにその表情を引き締めた。
「じゃ、今後の方針だな」
三人はそれぞれ視線を交わすと頷きあった。
「そういえば、ひとつ確認なんだが過去に百目鬼家が連れてきた女性はその時の『王杯』ってことで間違いないか?」
「うん。そうだと思う。百目鬼家にとってもあまり公にできるような話じゃないから、文書としては残ってなくて、代々当主にのみ口伝で伝えられるの。名前すら残ってないの」
カノンによれば、過去に百目鬼家が無理やり王杯と思われる女性を連れてきて、百目鬼家と縁づかせた。そして、百目鬼家の別邸に行った際に火事が起こり、すべてが焼き尽くされてしまった。寝所とされていた場所に二人分の焼死体があったことから、二人とも亡くなってしまったと考えられているらしい。実際に何が起こったのかは誰にもわかっていなかった。百目鬼家でもそこに異国の青年がいたという事実は把握していないのだった・・・。
「なあ、カノン。もしかして、その当時の王杯と伴侶になった百目鬼家の人って空杯だったのか?」
「えっ?」
「ああ、なるほど。確かにそうですよね。王杯っていうのはとてつもなく運がいい人でしたよね。だったら、逃げ出すことも可能だった気がします」
「そういえば、そうだね。そうか、だから空杯・・・」
リュウは頷く。百目鬼家の人間が空杯だったら、王杯の力は働かない。王杯と空杯の関係についてわかりだしたのは最近のことのようだから、その当時の人たちが知っていたとは思えないが、二つの器が干渉しあっていたのは確かだろう。
「百目鬼家の人間に関しては、ちょっとだけ伝わってるの・・・」
カノンは、なぜかとても悲しそうな顔をしている。
「嫌なことか?だったら、話さなくてもいいぞ」
カノンは、首を振ると口を開いた。
「その人は、とても冷遇されていたらしいの。伝え聞いただけだから本当のところはわからないけど・・・。その当時の百目鬼家にとっては役立たずで疫病神だったって・・・」
「そうか・・・」
それだけ聞くと、リュウは優しくカノンの頭をなでる。リンは、何かを考えこんでいる。
「前にカノン、言ってましたよね?」
「?」
カノンは、何のことを言われたのか分からず疑問符が浮かぶ顔でリンを見上げる。
「空杯にとって王杯と出会うことはとてつもなく幸せなことだって。だから、きっとその人も幸せだったと思いますよ」
いきなりそんなことを言い出したリンをみてカノンとリュウは顔を見合わせると噴き出した。
「あはは。なんだよリン。もっとストレートに慰めてやれよ」
「ふふふ。リンくんありがとう」
「何ですか、二人とも。人がせっかく・・・」
リンは、プイとそっぽを向いてしまったがその耳が赤く染まっているのは隠せてない。
「リン。俺はお前のそういうところ大好きだぞ」
「からかわないでください!」
「からかってないって」
リュウはリンの肩に手をかけると、もう片方の手でリンの頭をわしゃわしゃと撫でまわした。
「ちょっ!リュウ!子ども扱いしないでください!」
二人の仲の良いやり取りを見てるだけで、カノンは心が軽くなっていくのがわかった。カノンは、二人と出会えたことが本当に良かったと思えた。




