97_魔塔の日常に戻って
「さあルーツィア、お待たせ!オーランド様特製パンケーキが焼けたよ!」
「わあ!すっごく美味しそうです!」
オーランド様が作ってくれた甘い匂いのパンケーキは、お店でもなかなか見たことがないほどふわっふわでボリューミーで、とっても美味しそうなものだった。
「オーランド様、お料理も上手だなんて、本当になんでもできるんですね」
「ふっふ!そうだろうそうだろう~!あー気持ちいい!今まで僕のすごさを軽視しているかのような生意気な弟子しかいなかったからねえ。ルーツィアは本当にいい子だ」
「えへへ」
オーランド様はいつもとっても褒めてくれるし可愛がってくれるから嬉しい。
ダイニングルームには私とセルヒ様の他に、フワフワやおこげちゃん、そしてグレイス様、ノース様、アルヴァン様も集まってきていた。
なんだか瘴気だまりや悪魔事件で頑張った皆のお疲れ様会のような雰囲気になっているかもしれない。
「オーランド、私これだけじゃ足りないわ。あと20個はほしい」
「グレイス、他の人の分がなくなるから我慢してね?グレイスにはあとでおにぎりも握ってあげようね」
「わーい!パパ~!」
「おいおい、誰がパパだって?」
ハッ!や、やっぱり!魔塔の皆が家族ならやっぱりオーランド様がお父様だよね!?
グレイス様と同じことを考えていたのが嬉しくて、心の中でこっそりにまにまする。
グレイス様は山盛りのパンケーキに生クリームと蜂蜜をたっぷりかけて食べている。
ノース様はまるでカフェのようにフルーツと一緒に綺麗に盛り付けて、こだわりのプレートを作っているみたいだわ。
アルヴァン様は「このパンケーキに、おこげさんの実を添えて食べたらとんでもなく美味しいのではないでしょうか……おこげさん……」と呟きつつおこげちゃんを凝視しながらパンケーキを食べるものだから、おこげちゃんに嫌がられている。
ついにおこげちゃんに蹴られながら、アルヴァン様が私に視線を向けた。
「そういえば、どうしておこげさんの名前は『おこげ』になったんでしょうか?仮にも神獣につける名前としては些か間の抜けた……いえ、可愛らしすぎるお名前かと思うのですが」
よくぞ聞いてくれました!
「おこげちゃんを見て、思ってたんです!真っ白な毛はとっても綺麗ですし、その中で尻尾の先や耳の先だけ少し焦げたようなきつね色で、金色の瞳はまるで蜂蜜を煮詰めた甘い飴玉のようだなって!なんだか砂糖を焦がした甘い匂いがしそうな可愛さで……そう思ったら、きつね色の部分は『おこげ』みたいだなって思って。だから、おこげちゃんです!」
「キュキュ~ン!」
私が胸を張ってちょっとどや顔で発表すると、おこげちゃんはぴょんと飛び跳ねて私の顔のそばでくるんと周り、ポーズを決めた。
「えへへ、おこげちゃん、お名前気に入ってくれたの?」
『うん!おこげ、可愛い名前で嬉しい~!』
「おこげちゃんってば、本当になんて可愛いんだろう?」
こんなに可愛いのに、悪魔と対峙するときはすっごくかっこよくて、神々しかったなあ。
聖魔力を増幅させると、あの姿になれるらしいけれど、普段はやっぱり可愛いおこげちゃんのまま。
私の懐が大好きで、いつもくっついてくれている。
「くっ……おこげさんという名前はちょっと私の感性にはない名前で受け入れがたくもありましたが……神獣様が喜ぶ姿はあまりに尊くて涙が出そうです……!」
「あはは!出そうって言うか、出てる出てる。それなんの涙?感激?悔し泣き?まあ、俺はおこげちゃんって名前、可愛くて好きだけどなー」
ぶわっと涙を流し始めたアルヴァン様を、ノース様がからかっている。
アルヴァン様は時々目をギンギンにさせておこげちゃんを凝視してはいるけど、なんとかおこげちゃん関係で気絶することはなくなったんだよね。
それにしても、おこげちゃんが神獣様だなんて、本当にびっくりした。
どうりでアルヴァン様でもその正体がすぐには分からなかったわけだよね。
「ルーツィア、口元にクリームがついているぞ」
「んん」
私の口元をセルヒ様が当然のように拭いてくれる。
もちろん恥ずかしい気持ちがないわけじゃないけれど、セルヒ様はいつも優しいから、こんなことにもすっかり慣れてしまった。
私の口元にハンカチをあてたまま、セルヒ様はふと気づいたようにオーランド様に話をふる。
「そういえば、オーランドは俺達が悪魔と戦っている時、どこにいたんだ?てっきりノース達と一緒に駆けつけてくるのかと思っていたんだが」
「あー、まさかあのタイミングでそんなことになるとは思わなかったからねえ。魔塔の新しい仲間をスカウトしに行っていて、王都にいなかったんだよ」
え?新しい仲間?
不思議に思っているのは私だけじゃないようだった。
「一体どこのだれを引き入れたんだ?」
「セルヒ、言い方言い方ー。ふっふ、それじゃあいい機会だし紹介しちゃおうかな?入っておいでー!」
え!もう魔塔にいるの?
そんなことは全く知らなくて、突然の初対面のタイミングにドキドキする。
控えめに開いたドアの向こうから、ゆっくりと一人の女の人が入ってきた。
「さあ、自己紹介してくれるかい?ここにいるのは、魔塔の中でも僕と特に関係の深い5人と2匹だから」
オーランド様に促されて、女の人は深々と頭を下げる。
「は、はい!……初めまして。私はモネと申します」




